妖怪バスターズ
「何か悩んでいることはありませんか? それって妖怪のせいかもしれません。妖怪バスターズにご相談を」
ぼくは捨てるのが面倒で部屋の隅に出来上がった郵便物の山に新たに加えられそうになっていた、そのけったいなチラシに興味をもった。
僕は万年床の上に胡坐座りになった。僕にはとてつもない悩みがあった。
「妖怪……か」
僕はチラシに書かれた電話番号にしばらく悩んでから電話を掛けた。
「はーい、妖怪バスターズでーす」
1回のコールでつながった。電話に出たのは若い男の声だった。
「えっと、ちょっと困っていることがあるんですけど」
「わかりました、ではそちらに伺います。いまご自宅ですか? 住所をいただけます?」
「は? もっと事前に何か聞いたりとかしないんですか?」
「やっぱりご本人にお会いしないと何もわかりませんからね。さ、住所を」
僕は訳も分からず自分の住所を喋っていた。
「では、すぐに参ります。少々お待ちを」
僕は散らかった部屋を慌てて片付け始めた。
十分後部屋の呼鈴が鳴った。僕は片づけを諦めて男を居間に通した
「ずいぶん散らかってるな……失礼ですがお仕事は?」
「学生です」
「今日は平日ですが、学校は?」
「……」
「まあいいや、大体わかったけど、一応悩みってのを聞かせてもらえます?」
僕はしばらくの沈黙の後、やっとのことで答えた。
「……やる気が出ないんです。何をするにも、部屋はめちゃくちゃだし、学校はずっとサボってる」
「ああ、もういい、わかった」
男の丁寧語は外れていた。
「妖怪の仕業だな。『無気力な若者』って名前の妖怪だ。本来エネルギッシュな若者に取りついて精気をいただくっていう寄生虫のような連中だ、あんたのは大分タチが悪いな」
男はそう言って部屋を一度出て、数分で戻ってきた。
「ほら、これを飲め」
そう言って差し出したのはエナジードリンクの缶だった。
「何ですか?」
「そいつらはエナドリを飲んでまで何かしようってやつは限界だと判断して離れていくんだ。ほれ、ぐいっと」
僕は缶の中身を一気にあおった。その瞬間スーッと肩が軽くなるのを感じた。
「よし、悩みは解決だな。じゃあ、料金は2万9千円な」
「……持ってませんが」
「……じゃあ、4千円でいい」
「それより、僕を働かせてもらえませんか?」
「やだよ。そんなやる気ならいらねえな」