学園07 奴隷の少女
ちょっとストックに余裕があるので、1話前倒しで投稿します。
オゥグスを倒した僕は、取り上げられていた金貨10枚を取り返した。
取り返すとき、ネマムのヤツがゴマをすりながら近づいてきたのは面白かったな。
『あ、タック……さん。こ、これ返します。お、俺はオゥグスさんに言われて、預かってただけですから』
そんな風なことを言っていたけど、まぁ彼のことはもうどうでもいいや。
とりあえず手慣れたゴマスリが印象的だった。
(そうだ。ステータス……)
名前:タック
レベル:37(上限無限大)
スキル:剣術Lv5、投擲Lv2、殴打Lv2、逃走Lv2、噛み付きLv7、咆哮Lv5、爪撃Lv6、威圧Lv4、雷撃Lv4、神の恩寵
やっぱりか。
オゥグスを倒したけど、彼のスキルは吸収できていない。
どうやら相手からスキルを吸収するには殺してしまわなければダメらしい。
オゥグスの『火炎』のスキルは欲しいけど、さすがに殺してしまうのはダメだろう。
残念だけど諦めよう。
「どうしたのタック? なにを考えてたの?」
イーリィが話しかけてくる。
今日は学園は休みだ。
僕は彼女と一緒に街を歩いていた。
ひとりで散歩していたら、たまたま広場の噴水脇のベンチに座っていた彼女と出くわしたのだ。
「それにしてもタックって強かったのねー」
「クラス選抜のこと? そんな、大したことじゃないよ」
「まあ!? あんなに強いのに驕り高ぶらないなんて……。タックは立派なのね!」
イーリィが腕を組んできた。
陽光に輝くサラサラの金髪が僕の頰を撫でて、組まれた二の腕に彼女の胸が当たる。
「ちょ、ちょっと!? イーリィ!?」
「ふふふ……。どうしたの、タック?」
茶目っ気たっぷりの表情で彼女が僕の顔を覗きこんだ。
どうやら確信犯だったらしい。
可愛らしい彼女の行いに、ドキドキとしてしまう。
ふたりでじゃれ合いながら街を歩いていると、目の前を馬車が通り過ぎていった。
「きゃっ!?」
「だ、大丈夫イーリィ?」
乱暴な運転だ。
僕は自分の体を盾にして彼女を庇う。
「ええ、大丈夫よ。……タック? どうしたの?」
通り過ぎていった馬車を眺める僕に、イーリィが不思議そうな目を向けてくる。
「…………タック?」
「……イーリィ。いまの馬車、見た?」
「え、えっと……」
どうやら彼女は見ていないみたいだ。
「奴隷が積まれていたよ。……年端もいかない女の子もいた」
僕はイーリィと一緒に奴隷市場にやってきた。
さっきの女の子がどうしても気になったのだ。
入るときに門番のひとに止められた。
でもイーリィが侯爵令嬢の身分を打ち明けて、僕が持っている金貨10枚を見せたら、なかに入れてくれた。
奴隷市場の中は異様な雰囲気だ。
暗く陽の差さない大きな建物に、いくつもの檻が設けられていた。
檻には奴隷が入れられていた。
死んだような目をした女のひとや、必死で自分をアピールしている男のひとたち。
「……タック。私なんだか怖いわ」
「大丈夫だよ。僕がついてるから」
僕たちは奴隷市場を見て回る。
すえたような臭いが充満していて、あまり長居したい場所ではない。
けれども僕たちは、その臭いを我慢しながら市場を歩き回る。
でもさっきすれ違った馬車に積まれていた少女は、どの檻にも見当たらなかった。
「すみませーん。さっきの馬車なんですけど……」
店のひとに尋ねてみる。
すると店のひとは面倒くさそうにしながら案内してくれた。
「ほら。仕入れたばかりの奴隷だぜ? こいつらのことだろう?」
市場の裏手だ。
そこには檻があった。
沢山の奴隷が詰め込まれている。
「まだ選別前の奴隷たちだぜ? 売りもんにならねえのも混ざってっからな?」
酷い言い草だ。
人間をなんだと思っているんだろう。
文句を言いたい気持ちをグッと堪える。
「あ、あれ! タック……」
イーリィの指差したほうを見る。
そこに、さっき馬車でみた奴隷の少女がいた。
「…………ぅ、……ぁ…………」
10歳くらいだろうか?
彼女は小さな体を冷たい床に横たえて「はっはっ」と荒い息を吐いていた。
近寄って眺めてみる。
「あ!? これはッ!?」
よく見ると少女は耳が長かった。
髪は白くて、肌は褐色だ。
「お、おじさん! これって……」
「ああ、ダークエルフのガキだ」
「初めてみた。これがダークエルフ……」
少女が俯いていた顔をあげた。
「――ひぅッ!? タ、タック……」
イーリィが抱きついてきた。
僕も彼女の顔を間近に見て、思わず押し黙ってしまった。
「……はぁッ、……ぁ……ぅ…………」
彼女の顔はドロドロに爛れてしまっていたのだ。
僕はゴクリと息をのむ。
「こ、これって……」
「酷えもんだろ? 搬送途中に治らない奇病に罹っちまいやがった。ひとには移らねえエルフの病気らしいが……、まったく、大損こいちまったぜ!」
おじさんは吐き捨てるようにいった。
でもそんな風に言ったら、この女の子が可愛そうだ。
女の子が救いを求める瞳で僕を見上げる。
居た堪れない。
こんな酷いことはない。
「……おじさん。このダークエルフの女の子はいくらなの?」
「なにぃ?! まさか、こんな死にかけのゴミみたいな奴隷を買うっていうのかぁ?」
僕はおじさんの物言いにカッとなった。
「ゴミなんかじゃない! 立派に生きてる!」
僕の剣幕におじさんが驚いた。
ダークエルフの少女が、爛れてしまった顔で僕をジッと見ている。
「す、すまねえ坊主。そう怒るなよ」
「それで、いくらなの?」
「そうだなぁ。仕入れにも金を使ってるし、珍しいダークエルフのガキだ。金貨100枚…………、と言いたいところだが、どうせ放っておいても死ぬしなぁ。金貨5枚でいいぜ?」
それなら僕にも買える値段だ。
金貨10枚が入った布袋をギュッと握りしめる。
「買うよ、おじさん。……この女の子を、僕に売って下さい」
これが僕とダークエルフの少女の出会いだった。
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