学園04 いじめっ子たち
僕はふらふらになりながらライトニングウルフの皮を剥いだ。
牙や爪なんかの素材も解体する。
こういう解体や素材の採取なんかは、学園の授業で教わったばかりだから、うまく出来なくて苦労した。
「ふう。こんなものでいいかな……」
汗を拭ってから、学園都市ショウ・セッカに戻る。
もう辺りはすっかり暗くなっている。
(どうか、ほかの魔物に出会いませんように……)
祈りが通じたのか、僕は無事に森を抜けることが出来た。
ひと安心して、ほっと胸を撫で下ろす。
都市に帰ったらまずは冒険者ギルドで素材を売却してしまおう。
こんなに珍しい素材なんだ。
きっといいお小遣いになるぞ!
僕はウキウキしながら、都市への道を歩いた。
「それではこちら素材の代金となります」
ギルド嬢の美人のお姉さんが、布の袋を渡してきた。
ここは学園都市の冒険者ギルドだ。
酒場の併設された建物内は、酔客の賑やかな声でガヤガヤとしている。
ひと仕事終えて戻ってきた冒険者たちが、酒を楽しんでいるのだろう。
室内を見回すとヒューマンの冒険者から、エルフや獣人、果てはリザードマンなんかが楽しそうにエールの注がれたジョッキを打ち鳴らして、杯を掲げていた。
「どうぞ、ご確認下さい」
ギルド嬢から布袋を受け取る。
「は、はい。えっと……ひの、ふの、みの……」
言われるままに袋を開いて、お金を数えていく。
「え、えぇ!? こんなに!?」
換金したらなんと金貨10枚にもなった。
銅貨10枚で大銅貨1枚。
大銅貨10枚で銀貨1枚。
銀貨10枚で金貨1枚。
お金の価値は、こうなっている。
そして大体のひとの1ヶ月のお給料は銀貨5枚くらいだ。
それが素材の売却をしただけで金貨10枚。
僕が驚くのも無理がないだろう。
「え、えっと……。何かの間違いじゃないんですか?」
恐る恐るお姉さんに尋ねてみた。
でもお姉さんは笑顔で顔を横に振る。
「いいえ。たしかに金貨10枚です」
「そ、そんなに!? たしかにあのライトニングウルフは手強かったですけど!」
僕のその言葉に驚いたのか。
お姉さんが素っ頓狂な声を上げた。
「まあっ!? まさかあのライトニングウルフを倒したのは、あなたでしたの!?」
騒がしかった室内が静まりかえった。
バカ騒ぎをしていた冒険者たちが、僕を凝視している。
「え、えぇ……。まぁ……そうですけど」
何か不味かっただろうか。
もしかしてあの狼ってば森の守り神とかで、退治したらまずいヤツだったとか。
オロオロと焦っていたら、お姉さんが手を握ってきた。
「ありがとうございます!」
「…………はえ?」
「あの魔物のせいで森に近づけなくて、困っていたのです! 討伐に向かわせたCランク冒険者パーティーも返り討ちにされちゃいましたし……」
「ええ!? Cランクってベテラン冒険者じゃないですか!?」
冒険者にはランクがある。
Sを最上級にして、A〜F級まである。
Fランク:見習い冒険者。討伐クエスト受注不可。
Eランク:駆け出し冒険者。
Dランク:普通の冒険者。
Cランク:ベテラン冒険者。
Bランク:一流冒険者。
Aランク:各ギルド支部のエース級冒険者。
こんな具合だ。
「もしかして、ひとりであのライトニングウルフを倒したのですか?」
「は、はぁ……。まぁ……」
「まあ!? その若さで何と素晴らしい腕前でしょう!」
お姉さんは目をキラキラと輝かせている。
あたりの冒険者たちは呆気に取られて「う、嘘だろ……?」とか「あんなガキがぁ……?」とか呟いついた。
「冒険者登録はまだでしたよね? どうでしょう、いますぐに登録してみては? あなた様ならBランク……、いえAランク冒険者も夢ではありませんよ!」
カウンターから体を乗り出して勧誘してくる。
僕はなんだかその必死さに気後れしてしまって、代金の入った布袋を掴んで後ずさった。
「と、登録はまた今度にします! そ、それじゃあ、ありがとうございました!」
僕はそそくさと冒険者ギルドを後にした。
ギルドを出ると伯爵家跡取りオゥグスと取り巻きのネマムのふたりが、ニヤニヤとして僕を待ち構えていた。
「おい、タック。学園も休みだってのに、街で何してんだ?」
ネマムはオゥグスの太鼓持ちだ。
その彼が近づいてきて、僕から布袋を取り上げた。
袋の口を開いて中を覗く。
「ひゃあ! 金貨だ! オゥグスさん、こいつ村人風情のくせして、金貨を持ってますよ!」
「……なにぃ? タックのくせに生意気だな」
オゥグスが因縁をつけてきた。
コイツはいつもこうだ。
正直うんざりする。
「街で見かけてついてきた甲斐があったぜ。おい、ネマム。貧乏人に金貨なんて似合わないだろ。取り上げておけ」
「はい、オゥグスさん!」
「な!? どうして!? それは僕のお金だぞ!」
取り返そうと手を伸ばす。
「俺に逆らうつもりか! タックのくせに身の程を知れ!」
一喝されて、体が止まってしまった。
ビクッとなる。
いじめられてきたクセが抜けなくて、強く命令されると体が動かなくなるのだ。
「ふふん。そうだなぁ、今度の学園トーナメント。そのクラス代表を決める戦いで、俺に勝てたらこの金貨を返してやるよ!」
「……あ。…………いや」
「へっへー。お前みたいな雑魚が、オゥグスさんに敵う筈ないけどな!」
いじめっ子どもが去っていく。
情けない僕は、その姿を見送ることしか出来なかった。
次は本日のお昼12時の更新です。