学園03 死闘
あれからどのくらい経っただろうか。
森は徐々に暗くなってきていた。
早く狼たちを倒して、この窮地を切り抜けなければならない。
なにせ夜の森は、彼らの独壇場なのだ。
「ガゥウウウウウウッ!!」
また一頭の狼が飛び掛かってくる。
「や、やられる……、もんか……ッ!」
ボロボロになりながら、なんとか僕はファングウルフの攻撃をかわした。
すれ違いざまに一頭の首を剣で斬り落とす。
これまでの激闘で何頭かのファングウルフを倒し、残りは12頭まで減っていた。
(ステータス……)
名前:タック
レベル:19(上限無限大)
スキル:剣術Lv4、投擲Lv2、殴打Lv2、逃走Lv2、噛み付きLv5、咆哮Lv3、爪撃Lv4、威圧Lv1、神の恩寵
戦いの最中、僕はレベルアップしていた。
あんなに強かったファングウルフの群れを相手に、ようやく何とか立ち回れるようになってきた。
これはスキルについたレベルの影響だろうか。
油断することなく、僕は一頭一頭しっかりとファングウルフを退治していく。
でも急がないといけない。
辺りが完全に暗くなる前に倒しきるんだ!
「ガウゥゥ……ッ!!」
また一頭ファングウルフが飛び掛かってきた。
「はぁ、はぁ……ッ、えいやぁあ!!」
剣を突き刺して仕留める。
またひとつ僕のレベルが上がった。
これで残りの狼はあと11頭だ。
――ワオオオオォォーーンッ!!
そのとき、どこからともなく、狼の咆哮が聞こえてきた。
僕を取り囲んでいた敵たちが、次々と後ろに下がっていく。
「な、なんだ? どうしたの一体!?」
戸惑っていると、森の奥から巨大な狼が姿を現した。
のっしのっしと歩き、木々や枝を押し倒しながら姿を見せる。
ファングウルフをふた回りも大きくした体躯。
金色の被毛からはバチバチと静電気のような光が発せられている。
「な……、なに……ッ?」
戸惑う僕を高みから見下ろして、狼が吠えた。
「グルルルゥガァオオオオーーッ!!!!」
狼の体を包む雷が、バチバチと激しく明滅した。
凄い迫力だ。
僕はすくみあがってしまう。
「ひぃ……ッ!?」
この狼は、ファングウルフとは格が違う!
「か、鑑定!!」
ライトニングウルフ
レベル:32(上限50)
スキル:噛み付き、爪撃、咆哮、威圧、雷撃
「――なッ!?」
僕は絶句した。
なんだろうこの狼は。
こんな怪物が森にいたなんて!
「……もしかして、……森の、主?」
ライトニングウルフが飛び掛かってくる。
ここに死闘の幕が開けた。
雷を纏った狼の爪をなんとか躱す。
爪の先がかすっただけでも、僕はビリビリと痺れた。
「あぅう……ッ」
でも僕だってやられてばかりじゃない。
剣を振り回して反撃する。
僕の剣がスパッとライトニングウルフの皮膚を斬り裂いた。
「ギャイン……!」
「どうだ!」
思えば僕の剣はすごく強くなっている。
昨日までの僕の剣だったら、例え当たったとしても、ライトニングウルフの皮膚を切り裂くことは出来なかっただろう。
これはもしかすると剣術のレベルというやつだろうか?
普通スキルにはレベルなんてないんだけど、僕のスキルにはレベルがついていた。
剣術はいまレベル4だ。
その剣術スキルが、僕を戦えるようにしてくれた!
「ていやぁあッ!」
僕の攻撃がまた狼の皮膚を斬り裂いた。
連続で攻撃を仕掛ける。
「いける! 僕は戦えている!」
ライトニングウルフが足を止めた。
「グルルルルルゥ…………」
狼が苛立っているのがわかる。
簡単に仕留められるはずだった僕という獲物の思わぬ抵抗に、腹を立てているのだ。
でもこっちだって命がけだ。
やすやすとやられる訳にはいかない!
狼が僕を睨みつけながら、大きく口を開いて叫びだした。
「ワオオオオォォーーンッ!!」
空気がビリビリと震える。
鼓膜が破れそうだ。
僕は耳を押さえてその咆哮をこらえる。
「なんて、声なんだよ……ッ!?」
これは『咆哮』のスキルか?
我慢する僕の隙をついて、ライトニングウルフが体当たりを仕掛けてきた。
巨大な体にビカビカと光る稲妻を纏っての突進だ。
「ぐわぁ……ッ!?」
吹き飛ばされた。
雷のダメージも受ける。
電気を通された筋肉が、意思に反して勝手にピクピクと震えた。
全身の骨がバラバラになったみたいになって、体が痺れて動かない。
狼が近づいてきた。
大きく口を開いて僕に噛み付こうとする。
「いやだッ! 死にたくない……ッ!!」
必死になって逃げ回る。
無様でもいい!
生きて帰りたい!
必死になって大地をゴロゴロと転がり回って、なんとか生きようと足掻き続ける。
「……はぁっ、はぁ……げほッ。し、死にたく……ない……ッ」
そのとき突風が吹いた。
舞い上げられた木の葉が、ライトニングウルフの目に貼り付く。
「ギャン!?」
「い、いまだッ!」
なんだこの風は!?
こんな森のなかでこんなにタイミングよく吹いてくれるものなんだろうか。
でもそんな事を考えるのは後回しだ。
チャンスはもう今しかない。
僕は必死の思いで剣を突き出しながら、ライトニングウルフに特攻を仕掛ける。
「うわああああああああッ!!」
首筋に剣を突き立てた。
ザシュ、ザシュと何度も剣を突き刺す。
命がけだ。
殺す!
殺されるくらいなら僕が殺してやる!
「ギャイイイイイイイイーーン!!」
狼が鳴き声を上げる。
でも僕だってライトニングウルフの雷にビリビリと感電して、いまにも意識が飛んでしまいそうだ。
「死ね! 死ねよ!」
「ガ、ガゥゥ……ッ」
「絶対に生き残る! 僕だって! 僕だって、やれば出来るんだ!」
生死のギリギリのところをかけた戦いだ。
僕は絶対に殺されてなんかやらない!
力一杯剣を突き刺す。
「キャ、キャィィン…………」
やがてライトニングウルフは諦めたように目を閉じた。
纏っていた雷が収まっていく。
それを見たファングウルフたちが、尻尾を巻いて逃げていく。
「……は、はは……。や、やった! やったぞ!」
フラフラになって倒れた。
体が熱い。
「あ、これ……レベルアップ…………」
意識を集中した。
名前:タック
レベル:37(上限無限大)
スキル:剣術Lv4、投擲Lv2、殴打Lv2、逃走Lv2、噛み付きLv7、咆哮Lv5、爪撃Lv6、威圧Lv4、雷撃Lv2、神の恩寵
「レ、レベル……37。は、はは……凄いや……」
呟きながら僕の意識は闇に飲まれていった。