学園02 レベルアップ
学園都市郊外の森にやってきた。
ここはモンスターの出る危ない森だ。
大体はゴブリンやホーンラビットみたいな弱いモンスターだけど、たまにファングウルフみたいな強いモンスターも出る。
今はまだ昼間だから、森の入り口あたりは木漏れ日が差し込んできて明るい。
「よ、よし……。いくぞ……」
倒木や苔むした岩に足を取られないように、注意しながら森のなかを進んでいく。
だんだんと森が深くなり、あたりが薄暗くなってきた。
「ギルルルゥ……」
目の前にゴブリンが一匹いた。
緑色の気持ち悪い肌のヤツで、口から涎を垂らしている。
「か、鑑定!」
僕は目の前のゴブリンを鑑定してみた。
ゴブリン
レベル:7(上限9)
スキル:剣術
僕よりレベルが3つも高い。
種族的にレベル7のゴブリンと、レベル4の僕では同じくらいの強さだ。
1対1で戦っては苦戦してしまうかもしれない。
(ど、どうしよう……?)
やっぱり逃げ出そうか。
弱気が頭を掠める。
でも勇気を振り絞って、ゴブリンに斬りかかった。
「や、やあああああああッ!!」
思い切り振り回した剣が、ゴブリンにかわされた。
ゴブリンは「グキャキャ!」と笑っている。
僕は背中が隙だらけだ。
「アギャキャー!!」
ゴブリンが襲い掛かってきた。
手に持った棒を振り回して来る。
「ひぅ……ッ!?」
僕は頭を抱えて体を丸くした。
ダメだ!
やっぱりひとりじゃ無理だったんだ!
「アギャ?!」
そのとき、偶然にもゴブリンが転んだ。
いまがチャンスだ!
僕は必死になってゴブリンに剣を突き刺した。
「このッ! このぉ……ッ!!」
「アギャ!? グギギギッ!?」
ゴブリンから青い血が吹き出る。
滅多刺しにするとようやくゴブリンが死んだ。
「か、勝った…………」
思わずペタリと座り込んでしまう。
ひとりでもゴブリンに勝てた。
「やった……。僕だって! 僕だってやればできるんだ!!」
虐められっ子の僕でも、本気を出せばこんなに凄いことができる!
両手を広げて喜んでいると、胸の奥からなんだか力が湧き上がってきた。
「まさか、レベルアップ!?」
意識をステータスに集中する。
名前:タック
レベル:5(上限無限大)
スキル:剣術Lv2、神の恩寵
「ほ、ほんとにレベルアップしてる……」
レベル4の僕がレベルアップしようとしたら、ひとりでゴブリンを10匹以上倒さなくちゃダメだったはずだ。
それがどうしてこんなにも早く……!?
「あ、そうだ! きっと神の恩寵のおかげだ!」
神の恩寵の効果に『成長速度16倍』というものがあった。
きっとこれのおかげであっという間にレベルアップしたんだ。
「そういえば……」
あのゴブリンが転んだのは、『超幸運』のおかげかもしれない。
「凄い力だ。これが僕のスキル……」
特に成長速度16倍がすごい。
たった1匹のゴブリン退治でレベルアップだなんて。
もっと退治してバンバンレベルアップしたい。
「よし! そうと決まればゴブリン退治だ!」
僕は森のなかをゴブリンを探して走り回った。
僕のレベルは10になった。
わずか一日で6レベルもアップ!
普通なら考えられない。
でも神の恩寵を持つ僕ならそれが出来るのである。
「ステータス、ステータス……」
意識を集中させる。
名前:タック
レベル:10(上限無限大)
スキル:剣術Lv4、投擲Lv2、殴打Lv2、逃走Lv1、神の恩寵
ズラッとスキルが並ぶ。
これはゴブリンやホーンラビットが持っていたスキルだ。
どうやら僕は、倒したモンスターのスキルを吸収できるらしい。
こんな力も今まで聞いたことがない。
凄い力だ。
「うーん。でもそろそろレベルが上がらなくなってきたなぁ」
最初は一匹でレベルが上がっていたのに。いまでは何匹も倒さないとレベルが上がらなくなってきた。
「今日はこのくらいにしておこうかなぁ」
帰り道をテクテクと歩いていく。
「ふん、ふん、ふーん! 案外楽勝だったね!」
鼻歌交じりに歩きながら帰る。
考えていたよりもゴブリン退治は簡単だった。
だから僕は油断してしまっていたのだ。
「……グルルルゥ」
木の影から一頭の狼が出てきた。
くすんだ灰色の狼で、口から大きく凶悪な犬歯を覗かせている。
「ま、まさか!? ファングウルフ!?」
鑑定してみる。
ファングウルフ
レベル:11(上限15)
スキル:噛み付き
やっぱりそうだ。
しかも僕よりレベルが高い。
侮っていたらやられるぞ!
僕は荷物を置いて剣を構えた。
すると――
「ウゥゥゥッ……」
「グルルルゥ……」
2頭目、3頭目。
次々とファングウルフが姿を現わせる。
「そ、そんな…………ッ!?」
合わせて20頭。
僕はたくさんの狼の群れに周囲を囲まれてしまった。