恋?暴力!女番長カラシ
「好きです!」
二人の男女がいる学校の屋上で起きた出来事だった。
緊張していて、必死に告白してる女の子……
それと、男の子……
そこにギャップがあった。
心臓の音が流れ出して、呼吸すら苦しい女の子に対して、男の子はあまりにも……れいせいだった。
いつもと変わらない日常ーーのような余裕にさえ思えるものがあった。
やっと、男の子は話しだした。
「なぁ、お前……」
空気が……
「俺をぶん殴れ」
凍った。
「えっ」
女の子は最初、混乱した。
「とうふくん、何言って……」
「いいから殴れ」
勢いに押されて、女の子は殴った。
音も出ず、優しさを籠もったパンチ。
傷一つつかないような拳……
(全然だめだ……)
「悪い」
(だるすぎる)
「じゃあ」
女の子を残して、彼は去っていた。
(この世に……)
「本気で俺を傷つける女はいないのか!」
……鋼鉄 とうふ、今年十八歳。
彼は、自分に向ける悪意を探していた。
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「番長?」
友達の言うことに、とうふは思わず声を出した。
「番長って、あの番長?」
彼の疑問に、友達は答えた。
「ええ、その番長だ」
「……」
少し頭を傾けて考えた後、とうふはため息をした。
「はぁ〜〜、今どきに番長かよ……悪いけど、流石に胡散臭い」
「そんなこと言わずに、会ってみたら?もしかしたら……」
椅子から立って、教室の出口にとうふは歩き出した。
「番長とか名乗ってる女に興味はねぇ、じゃな、山田」
あくびをしながら、ドアノブに手を付けた。
「とうふ……」
友達の声に、とうふは振り向いた。
「トイレだよ、サボらねぇよ」
「いや、サボると疑ったわけじゃない……」
山田の態度に、違和感が溢れ出した。
「……じゃなんだよ」
「ドアの、向こう……」
「はあ?」
その時だった。
とうふの身体こどドアと一緒にぶっ飛ばされ……教室中を荒らした。
そして、入ってきた誰か……
「邪魔するよーー」
女の声だった。
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「それじゃ、話を伺えますね」
中年のおっさんに、教師らしい男がいた。
「あの子については……」
「大したやつだよな、あの子は」
まるで相手が話したいことがわかるよう、中年は言葉を続けた。
「純粋で、無邪気……まるで子供の頃と全然変わってない……」
「そういえば先生、あれ見る?」
中年の誘いに、教師は戸惑うばかりであった。
「すみません、あれって……」
教師の戸惑いを見て、中年は微笑んだ。
「見ればわかる」
中年は突然立って、自分の服をめくった。
「待ってください、急にな…に……えっ」
元々焦ろうとしたが、それはかなわなかった。
中年の腹に、深くに刻まれた、その拳のような傷跡……
「先生」
「は、はい」
「今度は何をしたとしても、あの子は放っておいでくれ、対処したくないんじゃなくて……」
「できねぇんだから」
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衝撃とはなんだ?
いろいろな創作で見たことがあるこの言葉に、現実味はなかった。
体験したことないから。
とはいえ、体験したい人は少ないだろう……
少なくとも、鋼鉄とうふにとって、これより衝撃と言う言葉ににふさわしいことはなかろう。
「邪魔するよーー」
女の声だった。
とうふの意識が戻るのは、数秒後のことだった。
自分の上にドアが乗っていて、不思議な状況だった。
そこで、教室に入ってきた人の顔も目に入った。
女の子だ。
……が、それはまるで、悪魔のような……凶……
(……すごいや)
それはとうふの素直な感想だった。
「あのう、何の用事でしたか?」
山田の声が震えている。
「ここにいると聞いたな、鋼鉄とうふというやつが」
(俺?)
とうふが疑問を抱いてる時、山田が焦って返事した。
「いいえ、いませんね、そんな人は……」
その時だった。
巨大な音ともに、壊れたドアが山田のとなりに飛ばされた。
「山田ーー!何を言っている!」
友の守ろうとする気持ちを踏みにじって、とうふは飛び出した。
「逃げられるじゃあねぇか!」
山田を後にして、その女の子ーー綿飴カラシの前に立った。
「あんたか?その殴られたいやつってのは……」
カラシのその言葉に、とうふは涙じみた。
「俺をぶん殴れ!」
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「これは彼の今度のテストの成績です」
オフィスの中で、一切れの紙が渡された。
「全項目満点、一つのミスすら見つからない、たとえインチキでも無理に近い」
「……」
二人の教師は、一人の生徒について話し合っている。
「……前旅行に行ってたときのレストランに、彼を見かけた」
そう言いながら、男の方は女教師に一つの写真を差し出した。
「一人で席に座って、一番高い物を頼んでた」
写真の中の生徒は、ただ愉快に高級料理を貪っていた。
「3度目だ、やつのファンクラブを学校の正式サークルにしようとした女子生徒が……」
「……そんな彼に、ある嗜好があった。」
男はため息をしたあと、話を続けた。
「告白してきた女の子には、必ずそう言ったーー俺をぶん殴れと」
「そして殴った後、失望して去っていた……」
机の上のお茶を飲んで、ふたたびため息をした。
「まるである種の儀式……そんな変わった生徒だ」
そして、女の方は疑問を並べた。
「確かに変な生徒ですが、ルール違反してないし、放っていても……」
「状況は変わった」
男は癖でタバコを吸おうとしたら、学校内と気づいてやめた。
「番長がやつと接触しに行った」
番長って聞いた瞬間、女は驚いた。
「番長って、あの……」
「そうだ、あの悪魔だ、そしてこの学校の二大問題児がついにぶつかる……いったいどうなるのか?」
……
「先生って、ちょっと期待してません?」
「バレた?」
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殴る。
人が殴るということは、相手を傷つけるということだ。
今まで、彼はいったいどれだけその行為を受けたのだろう。
あいつも、あいつも、そしてあいつも……
(本気で俺を壊したいやつはいなかった)
どいつもこいつも、暴力を飾りたかっただけだ。
(だからこそ……)
だからこそ……
(本当の暴力を知りたかった)
「嘘、だろ……」
となりで見ていた山田は、ただ呆れていた。
こんなことは、ありえるのか?
先まで煽っていたとうふは、壁の中にハマって、頭が窓を貫通していた。
それらの原因はただひとつ……
彼女のせいだった。
「殴っただけで……」
常識という言葉が、あまりにも薄かった。
「期待はずれだ、つまんねー」
そう言って、カラシは離れた。
数秒戸惑った後、思い出したのように、山田はとうふのとなりに駆けた。
「お、おい!いっ生きているのか?」
そこで見たものは、山田の想像を超えるものだった。
とうふは笑っていた。
「山田……あいつだ……」
「あいつこそが、俺の求めた人だ!」
変なやつを超えて、まるで……
「あいつこそ、本気で俺を傷つけるような悪魔……」
「大好きだ!」
変態だった。
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「どけ」
学校の女番長は戸惑っていた。
目の前にいるそいつ……始末したはずの男は廊下の道を塞いでるからだ。
「どかねぇよ」
その男ーーとうふは彼女の前に立ちはだかった。
……カッコつけてるけど、殴った痕跡が残って顔がよくわからなくなっている。
「伝いたいことがあるんだ」
「霸!」
声とともに、拳を撃った。
不意打ちとして撃った拳は、避けられいた。
「痛みは好きだが、二番煎じは嫌いだ」
「……なんのようだ?」
興味が湧いたみたいで、カラシは拳を引いた。
それからとうふがとった行動は、彼女にとっては、驚くような、未体験のことだった。
「お前が好きだ!俺と付き合ってくれ!」
告白である。
悪魔として生まれ、生きてきた彼女にとって、これはさすがに……?
「だるいな」
あくびしながら、カラシは言った。
「えっ」
とうふは一瞬、彼女の言うことを理解できなかった。
できなかったより、そんな暇はない。
だってとうふの頭はカラシに捕まれ、地に押していた。
理解することより、痛みのほうが優先した。
「んーー」
「あたしの男になるようなやつは、決してこんな頭をさげるような甘いやつじゃないね」
「消え失せ!」
言葉とともに、とうふは壁と衝突した。
あんなに頼もしかった壁が、まるでダンボールのように、穴が空いてた。
普通の人なら、ここで引き下がるだろう。
いや、普通の人なら、もう死……
「俺はお前が好きだ!決して引き下がらないぞ!」
とうふは普通じゃなかった。
壁に穴が空くほどの力で投げられても、彼は引き下がらなかった。
「俺の彼女になってくれ!」
とうふの姿を見て、カラシが初めて笑顔を見せた。
「そこまで言うなら、いいよ、あたしを落とす方法を教えてやる」
「それって……」
壁にハマっているとうふを剛力で引き抜いて、彼女はとうふの耳元で囁いた。
「力づくだ」
小さき時に、とうふはあるゲームをしたことがある。
地面に棒を立てて、それを掴んで回る。
回っている感じが楽しくて、全力で回ったら、大地が歪み、吐きそうになった。
その時思ったことがある。
(二度と回らねぇ……)
……そして今。
(同じだ)
カラシにボールのように回され、とうふは思った。
(……いや)
(あの時以上だ!)
大地が……歪んだ!
「はい、とてつもなく速度で回った、何週間かは数えられなかった、速すぎたんで……」
これはその場にいる他の生徒が、後に語ることだった。
「一般人があの速度で回されたら……多分気を失うでしょう、はい」
「……しかし、彼は……立ったんです、はい」
「意志力だけでそんな屈強になるなんて、変態とはいえ、憧れるよね……えっ、しない?」
「褒めてやる」
目が回ってるとうふを見て、カラシはそう言った。
「うっ!……」
何かを話したかったけど、口を開けたら吐くので、とうふは口を閉じた。
「まだ続くのか?」
その問いを聞いて、とうふは口を開けた。
(吐くとか気にする場合か!)
「俺は諦めねぇ!うっぷあ……」
予想通り、前に食ったものを吐き出した。
「諦めの悪いやつ……」
呆れたカラシを前にして、とうふは話を続けた。
「俺は……俺を本気でぶん殴るお前が大好きだ!こんな人二度と出会わねぇ!お前しかないんだ!」
あくびをして、カラシは耳をほじった。
「で?」
「力づくだ!」
カラシに向かって、全力で走ったとうふだが……まるでそれをわかってたように、彼女は耳をいじりながら、蹴りを放った。
その足は砲弾のように高く放たれ、とうふの顎を潰した。
……なに?スカート履いてるかどうかだって?
そんなこと、覚えるはずもなく……
意識はすでに、向こう側の向こう……
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「……こんな傷、告白で残すものじゃないよ」
保健室で、山田がとうふの手当てをしていた。
「猛獣と戦ってきたと言っても、信じじゃうよこれ」
「いてっ……」
「あっ、ごめん」
とうふを見て、山田が心配そうに言った。
「もう諦めたら?これじゃいつか殺されちゃうよ」
「そこだ」
「えっ」
とうふの急な返事に、山田がびっくりした。
「そこだって……」
「彼女は結局、甘かったってことさ」
とうふの言うことに、山田がどうしても受け入れなかった。
「……こんなにボロボロにされたのに?」
「トドメを刺さなかったのが彼女の運の尽きさ、死ぬまで追い詰めてやる!」
「……なんだか、あなた達が案外似合ってるかもと思い始めた」
常人を超えたこの恋愛に……支配できる者ただ一人……
力がある者のみ!
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綿飴カラシ、自称番長。
彼女は強い。
生まれてきた時から、それがわかっていた。
嫌なものがあれば、力でねじ伏せる。
ほしいものがあれば、力づくで奪ってやる!
漫画の主人公が好きで、番長を名乗ってやった。
笑う奴らも黙らせた。
全てが思い通りに進む……はずだった。
その中で、一人だけ、彼女に沿わない男がいた。
最初は好奇心で接触しただけで、どこまでも追ってくるようになった。
どんだけ叩いても、決してめげなかった。
(うんざりだ……)
もういい……
(もう終わりにしよう)
カラシは、決意を固めた。
時が来た……
ラストラウンド!
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ある朝のことだ。
一人のサラリーマンが通勤の途中である学校のとなりを通過した。
その時見たことは、奇妙奇天烈なことだった。
人が見えなかった。
生徒たちの通学時間なのに、一人もいないなんて……
そこでやっと気づく。
いなくなった生徒たちはどこにいるのか。
あるものは木の後ろに、あるものは壁の上に……ありとあらゆるところに生徒たちは隠していた。
そして、誰もが同じところを見つめていた。
そこに目をやると、サラリーマンにもわかるようになった。
(ああ、生徒たちは学校に行かないのではなく、いけないんだ)
学校の正門に、あんなに殺気のたっているやつがいたらな……
そりゃはいれねぇな。
「なあ、山田……」
とうふには、どうしても問わざるを得なかった。
「なんだ、とうふ?気分悪いなら帰らない?」
友達のサボる誘いにツッコミも入れずに、とうふは話を続けた。
「もしかして、あれは俺を?」
学校の正門に立っている女の子を見て、山田はため息をした。
「それ以外ないでしょ、それじゃ、私は救急車を呼んでおくから」
「手慣れしてんじゃん」
山田にカバンを預け、とうふは彼女に近づいて行った。
「とうふ……死ぬなよ」
空気に溜まっているその不穏な雰囲気は山田にも伝わって、不安を残した。
「今度こそ口説いてみせるから」
不安……恐怖……苦痛……そんな苦くて、痛みの連続した……
恋の最終戦の始まりであった!
最後というからには、次はない。
待ちながら、カラシはそう思っていた。
(もし……)
もしもの話……
(今度でも潰せなかったら……)
それは負けということだ。
(認めよう……負けたら)
しかし、彼女のプライドはそれを許さないだろう……
(もしかしたら……殺してしまうかもしれない……)
そんな思惑の中だからか?
それとも、気を緩んだのか?
思いつかなかっただけでは済ませない、予想外……
そう、今度で最後ということに気づいたのは、彼女だけではなかった!
カラシが気づいた時はすでに、バイクが目の前に走っていた。
「大好きだ!」
告白とともに……
とうふはずっと考えていた。
カラシへのサプライズだ。
最後の戦いにふさわしい始まりは何であるということを、ずっと考えていた。
そして、たどり着く。
車を使った突撃に!
暗殺じゃない……
とうふには、わかりきったことだ。
こんな攻撃が通じるわけもないと……
(これは、見せつけだ)
バイクがついに彼女の前に……
(さあ、みんなに見せつけろ……)
「大好きだ!」
(お前がいかにもすごいかを!)
まわりの生徒たちはイメージした。
あの番長が弾き飛ばされる未来を、誰もが考えた。
しかし、そのイメージさえ、現実にはかなわなかった。
その距離で気づくだなんて……
その距離で躱せただなんて……
さらにその距離で、バイクを取り上げて、ぶっ壊せるだなんて……
知る由もなかった。
とうふは地に転がっていた。
まわりにはバイクの残骸が転がっていて、まさに事故という言葉にふさわしい景色だった。
(……立たなきゃ)
そう思ったとうふは、身体に力を入れるが……
その前に、踏んづけされた。
「死ね!……死ね!早く死ね!」
足を上げて落とすカラシの姿は、まるで子供のようだった。
命の重さを知らない子供が、蟻を踏み潰すような……
無邪気なゆえの、邪気。
頭に伝わる衝撃を体感しながら、とうふは……楽しんでいた。
(やはり……彼女しかないんだな)
「死ね!」
最後の一撃になりかねないその踏みを、とうふは掴んだ。
「同じところばっかじゃあ、小学生でも捕まえるぜ」
とうふの言葉に、カラシはムカついた。
「立て!」
言葉とともに、カラシは上に蹴った。
その勢いでとうふは立ち上がる。
いや、立ち上がされた。
そこでとうふは見た。
カラシが姿勢をとっている。
(空手の……中段突き?いや、格闘技はよくわかんねぇ)
しかし、姿勢をとったことはつまり、技術を意味する。
そして、技術を使ったということはつまり……
この一撃が、今までで一番強いってことだ!
(それにしても、防御が全く通用しないなんて……)
空をとんでいる最中に、とうふは思った。
(ここまで思った通りだ、しかし、重要なのは……)
ここからも、思った通りになれるのか……
「し、死んだのか?」「どうしよう……」「警察を呼べ!」
いろんな人の声の中、とうふは目覚めた。
向こうにいるカラシを見つめて。
「何秒……いや何分過ぎたのか?」
「さぁ?数えてないから……」
返事を聞いて、とうふは笑って立ち上がった。
「ここ数日で、俺はずっと考えていた、この最終戦の結末は何がふさわしいのかって」
とうふ手を開けて、守りを捨てた。
「この後の攻撃を受けて、俺は生きてたら……」
「いいよ」
カラシは背を下げて、レースの走者のような構えを取った。
「生きてたら、一生付き合ってやる」
(そうか……)
まどろみのなか、とうふは思った。
(それは、良かったな)
激突!
とっても速い、驚くほど強い、速すぎて見えないとか、それを見た人たちは頑張って説明しようとしたが、どうしても正確な状況を説明しきれなかった。
それもそうだ、あまりにも、人の想像を超えた画面だったからだ。
はっきりわかることなんて、せいぜい彼女が走り出すところにある大穴と、校舎に飛び込んだ二人のことだけだ。
「えっ、死んだと思ったかって?」
「そりゃ、そうだ……」
これはそこにいた生徒全てが思ったことだ。
「死んでるに決まっている……」
彼女は後悔をした。
多分それは、彼女の人生において、初めてだ。
何かを後悔することなんて。
(全力を出してしまった……)
(殺したくないのに……)
(殺し……)
目の前にいるとうふを見て、悲しんだ。
(心臓は……)
手を胸に当てたが……
(動いてない)
後ろに聞こえてきた警察のチャイムが、遠く聞こえた。
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鋼鉄とうふ、十八歳。
それは物心がついてから始まったことだ。
「俺をぶん殴れ!」
その儀式は、ほとんどの人に行った。
殴らない人もいれば、殴りきれる人もいた。
本当の暴力を探してる旅の中に、彼の身体はある準備を始めた。
変わる準備……
痛みの中で、彼の身体は徐々に……
死に対処できるようになった。
自ら死に追い詰めることと、そこから復帰する能力を備わっていた!
偽の死……
それが彼の細胞に刻まれた、奥の手だったのだ!
「お前ら!何をしている!」
校舎に入ってきたのは、数名の警察だった。
カラシは振り向いて、警察を眺めた。
「人を殺した、今さっき」
冷たい声でいいながら、警察たちに歩いていく。
「なっ、動くな!」
普通めったに抜かない銃だが、なぜか彼女を見た時、警察たちは自然とそれを抜いた。
それほど危険な殺気……
そして、彼女は警察たちのとなりを通過して、外へと歩き出した。
自然過ぎたその姿はまるで、なんの問題もないように……
「まっ」
警察たちが思い出したかのように彼女を呼びかかるその時だ。
「背を向けたってことは、俺の勝ちだよな?」
その声に、全ての人が驚いた。
死体と思った人が動き出すことに驚く警察、殺したと思った人が生きてると驚く女番長、自分の声はまだ出ると驚くとうふ。
カラシは振り向いて、変な顔になっている。
(喜ぶべきか?怖がるべきか?いや……)
「あたしを……騙したな!」
なぜか怒っていた。
「騙すとは言えねぇだろう」
となりの傘を杖代わりにして、とうふは立った。
「完全勝利だぜ」
「……はあ」
女番長は振り向いて、外へと歩き出した。
「ちょっと、どこへ行くんだよ!」
とうふの呼びかけに、彼女は手を振った。
「今日は疲れたから学校休む、またね」
そして、去っていた。
「あの……」
となりの警察たちを見て、とうふは……
(後片付けは人任せかよ!)
正直喜んでいた。
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それは退院した後のことだった。
「久しぶりの学校かーー」
とうふは山田と一緒に登校していた。
「頭大丈夫?痛がらない?」
「大丈夫だぜ」
痛くも痒くもない会話をしたら、頭の後ろに衝撃が伝わった。
「いてっ!」
「おはよー」
犯行を犯した犯人は挨拶しながら、となりに並んだ。
「恋人にもっと優しくしてもいいんだろ」
「本音は?」
「力が弱すぎるぜ」
二人のやり取りを見ながら、山田は思った。
(この二人って)
お互いしか理解できないだろうね。