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案件6「腹が減ってはダンジョン攻略はできぬ1」

 開幕早々だが、俺はピンチに陥っていた。


 ダンジョンを巡回している魔族どもに囲まれてしまっているのだ。


 ここ、常夏の南国サウスパラディスにある火の“マテリアル”ダンジョンで、ダンジョンマスターの罠に掛かった。


「ブロス! これがお前のやり方なの!」


 怒声を有象無象の魔族達の向こうへ放つ。


 そこには赤色の肌をした男が佇んでいた。怒髪天を突くと言わんばかりの茶髪を携え、紅玉の瞳で悠然の俺をねめつけてくる。


 言わずもがな、イケメンだ。やんちゃ系かな。


「なんとでも言え、勇者! だが、殺生与奪は俺に掛かっていると覚えておくんだな!」


「私が一人で来た途端に威張ってくれるじゃな……!」


 ダンジョンのフロア数に応じて、巡回魔族の数が増えるんだ。火の“マテリアル”ダンジョンは、風の“マテリアル”ダンジョンと同様に30フロアある。


 仲間がいたときは、切り抜けられない数ではなかった。


「三百匹同時に襲わせるとか、このゲスめ……!」


 一言で言えばピンチである。


 細かく描写しきれないのでシルエット化していた300匹の魔族に、そろそろ焦点を当てようではないか。


 奴らの手足は短かった。


 キメ細やかな体毛をしている。


 角や爪はあれども丸っこい。


 頭身は二~三つ分。


 キモ可愛いとでも評するゆるキャラをリアルにした感じである。差異はあれど、それが魔族の基本的な見た目だ。


 しかし、ほぼ人型であるダンジョンマスターとは似ても似つかない。


 今でも見比べてしまうぐらいだ。


「まさか、中の人……!?」


 先ほどの表現は、夢見る小さなお子様の目の届かない場所へ投げ捨ててください。


「何を言ってやがる? 恐怖で頭がおかしくなったか?」


 ブロッサムことブロスが訝しんでくるが、説明はできないので無視しておく。


「どちらかと言うと空腹よ……。さっきは、話し合うって言ってくれたじゃない!」


「誰も今すぐ話し合うとは言っていないだろうが。まずは、地獄の釜茹でを生き延びてからだ!」


「やっぱりそう言う魂胆だったのね……!」


「それが終わったら、悪夢のフルコースを用意してやろう。覚悟するが良い。ガーハハハハハッ!」


 なんて奴だ。


 魔族は悪魔だった。やはり、分かりあえるわけがない。


 血も涙もない魔族と出会ったのは、俺が勇者としての冒険に出て少ししたころだ。


 回想。


 ガーデンロード王国のお隣、友好国のリーフィスウッドを野良の魔族が襲撃してきたときである。


 色々と魔族について恐ろしい話を聞かされていただけに、最初このキモ可愛い系の生物を見た時には反応に困ったわ。


 兵隊さん達が真面目な顔して、ユルい感じの魔族にビビってるんだから笑いを吹き出しそうになった。


 しかし、直ぐに気付かされるのだ。


 人外の生物であり、常識には収まらない能力を持ち合わせている。


 モフッと柔らかな感触を背中に感じた後ではもう遅く、ポヨンッて兵士さんの頭が弾け散ったのを見て、漸く危険性を認識するようになった。


 初めて魔族を倒した……いや、殺したのもその時が初めてだった。


「良いわ。私一人でもやってあげるわよ! かかってきなさいっ!」


 啖呵を切ってみたものの、大丈夫だろうか?


 西の砂漠地帯ウェスタサンを飛び出してからここ数日、ロクに食事をしていないのである。


 というのもそのはず。


 ほとんどの食糧がダンジョンの中にしかないからだ。


「なんで食べ物までダンジョンの財宝にしちゃうのよ! せめて、数フロア後だったら果物の一つでも落ちてたかもしれないのに……」


「先に最寄の集落にでも寄って、数少ない育てた作物を分けてもらうべきだったな! 悪夢のフルコースがそんなに食べたかったかぁ?」


 ブロスに文句を言ったところでどうしようもない。全部、魔王って奴が悪いんだ。


「さぁて、時間切れだ! その奇麗な顔が間欠泉のスコールに打たれたみたいになるまで前戯してやるぜぇっ!」


 ブロスの咆哮を合図に魔族達が襲いかかってくる。


 まさに殺到。


「冷や汗の一滴も出ないぐらいまで水分を絞り出したいみたいね……。その吐き出した物、飲み込むんじゃないわよっ!」


 残念ながらこちらは怒りの絶頂だ。


 いきなり殺戮の本番である。


 相手が魔族で、ダンジョンの中ならばこちらも遠慮せずにヤれる。いや、殺れる。


「『ポイズン・サーチ』! 『ポイジング』!」


 周辺にある毒物を探索して、収集する。


 後はそれを自然に任せて放出するだけだ。


「……!?」


 襲いかかってきた数百のユルクリーチャーどもが、声なく悶え始める。カヒュッ、カヒュッという息使いだけが聞こえる。


 元から声など持ち合わせていない謎生物(マスコット)ではあるが、毒が通用する生き物であることは明白だ。極一部を除いて……。


「何をした……?」


 ブロスが問いかけてくる。


「二酸化硫黄」


「何?」


「火山ガスに含まれる化合物よ。化石燃料を燃やしても発生するから、この世界にとっては馴染み深いものでしょう?」


「地下にあるガスを使ったのか。呼吸器に異常がもたらすようだな……」


「直接的な殺傷能力は高くないけれど、ほとんどの生物が呼吸を必要とするの」


 説明が伝わったようなので、効果範囲を広げるためにブロスへと歩み寄る。


 転がっている魔族の頭を蹴り潰しながら。

 おどろおどろしい魔族なんていませんよ。というお話。

 次回、勇者ちゃんの運命やいかに!?

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