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案件4「ダンジョンマスターだって楽じゃない2」

 何を聞かれるのかと身構える俺。


「これは、ダンデリオンから届いた『マジック・センテンス』だが」


「それが?」


 魔法によって(したた)められた手紙が俺の前に表示された。


 内容は、『72時間前に送信されました。』、『勇者は俺の部下候補だ。』とのことである。


 ダンらしい簡潔な文面が記述されていた。


「送られてきた日付はいつ?」


「見ての通り、三日前よ」


「ダンデリオンのところからここまで、蒸気輪でどれぐらいかかる?」


「えっと、三日ね」


「ダンデリオンとどういう関係なの?」


「君みたいな勘の良いガキは嫌いだよ」


 そんな俺のセリフに、リーサの顔がみるみるうちに青ざめて行く。


 どうやら俺はまたデリカシーのないことを言ってしまったようだ。


「嫌い……。嫌い……。私のこと、嫌い……」


 そうブツブツと言い始めた。


「あの、リーサさん……? 大丈夫、ですか……?」


 これはいけない状態だな。


「嫌い、嫌い……嫌い」


「冗談よ……! 人間流の冗談だからっ」


 このままではいけないのでフォローを入れる。


 しかし、リーサは元には戻らなかった。


 リーサが元通りになるまでに、お月さまが太陽を地平の果てへ追いやってしまった。


「う、うぅ……ん?」


 気づけば、俺は毛布を掛けられて寝かされていた。


 見渡せどリーサの姿はない。隣の部屋から物音はする。


 どうやら戦闘しているようだ。


「リーサ? こんな時間でも探索者の相手、お疲れ様」


 俺が向かった頃には数本の黒い日傘が、最後の探索者をグサグサッと蜂の巣にした後だった。


 今の探索者達は、どこかで見た顔だな。


「起きたのか? 騒がせてすまない。チッ、もう一組来る」


「手伝う?」


「直ぐ終わらせるから待っててくれ。終わったら、また一緒に寝よう」


「そ、そう……。分かったわ」


 どうやら、添い寝を邪魔されてご機嫌斜めの様子。


 肉体も衣装も、全てが純白のリーサには不釣り合いな、無数の黒い傘が空間に生まれ出る。


 この数が多いのが、お怒りの証拠である。


 折り畳んだ状態なら敵を貫き、展開されれば盾となる。便利なアイテムである。


「手に持たなくて良いっていうのが、一番素敵よね」


 とは言え、俺が使ってもリーサほどには扱えないだろう。


 リーサの膨大な“魔エネルギー”量があってこそ、10本以上生み出せるんだ。質の高い“マジックチャーム”を産出できるのも一因だろう。


 要するに、並の探索者が扱ったのでは、このように十数人で攻めてくる敵に対処しきれないわけだ。


「この“黒陽(こくよう)のパラソル”は、一本、一本が使い捨てながら強力だ。けど、普通の戦士なら武器を持って戦った方が楽。貴女だって剣を使ってたじゃない?」


「それについては後でちゃんと話すわ。まだまだ来るわよ」


「しかし、こいつら探索者じゃないな……」


「砂漠の国アデニウムの兵士達ね」


「まったく邪魔ったらありゃしない……。人間どもは消えろ!」


 聞いての通り、ダンジョンマスターの中で人間に対して最も敵愾心が強いのはリーサだ。


 この高い敵意によってたどり着いたのが、難度二位のダンジョンという立ち位置。もちろん、実力も相応だ。


 別に他のダンジョンマスターが弱いと言っているわけじゃない。


「雑兵ごときで、最悪に次ぐと言われるこのダンジョンを攻略できると思っているのか?」


「変な恨みでも買ったんじゃないの? 特に“マジックチャーム”のこととか」


 国に睨まれるなんて、ダンジョンマスターなら日常茶飯事だ。


 ただ、こんな夜中にまで攻めてくるアデニウムの兵士達も兵士達だろう。


「ご苦労なことで。だが、チャームの採掘権を売ってやるつもりはない」


「覚悟っ!」


「チッ!?」


 ダンジョンマスターとは言え、数日続く探索者達の相手に疲弊していたのだろう。


 僅かな気の緩みを突いて、気絶したフリをしていた兵士がリーサに飛びかかる。


 兵士の目は仕事に疲れた奴特有の濁った瞳をしていた。雑兵どころか、もはや遊兵(ゆうへい)だったようだ。


「油断禁物よっ」


 なので、優しく寝かせて差し上げる。


 リーサと兵士の間に滑り込み、湾刀(シミター)を蹴り飛ばす。続けて顎に靴底のアッパーカット。


「……助かった」


「どーいたしまして」


「しかし、なぜ“風呼びのポンチョ”と“爆蹴(ばくしゅ)ズ”なのさ?」


「……それも、後で説明するわ」


 俺が拘束状態にあるのはご存知(ぞんじ)の通り。そのため、蹴りがメインウェポンにならざるを得ない。


 そうなれば足での攻撃を強化する“爆蹴ズⅢ”は、他の上級装備に比べて弱くとも必須アイテムになる。


 そして、移動時に限り体重を軽くする乙女の味方“風呼びのポンチョ”は、蹴技との相乗効果(シナジー)が高く合性抜群。


 と言うわけである。別に乙女の味方じゃない、ってツッコミはさておこう。


「勇者様、なぜダンジョンマスターに肩入れなさるのですか!?」


「ちょっと用事があるのよ。貴方達も、仕事時間は守って休みなさいな」


 こんな疲れ切った兵士の一山幾らなんて相手にもならない。


 時間外労働がダメとは言わない。しかし、仕事内容と時間の使い方の割が合っていないのは良くない。


 非効率な労働を強いる会社は滅びろ!


 俺達は働くために生きてるんじゃねぇっ!

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