案件43「やっぱり口コミですよ1」
無事に土の“マテリアル”ダンジョンへと戻った俺は、多少なりとも報告は行った。
ダメージを負ったとか、エントラの気をもませるような部分は省いて。
もしかしたら、リーサの反応を見て悟った可能性もゼロではない。が、勇者の口から語られなければ事実ではないということらしい。
「――こんなところよ。ここへ来る探索者の中にも、刺客が混じっている可能性があるから気を付けて」
注意を促したらハイ、オシマイ。
「分かりました」
「了解ッス」「わ、わかったでござる……」
俺の腕を一瞥するも、返事だけで終わらせてしまうエントラ。
いつもの黒装束に戻ったアサガオは、ユウガオからバニーコスを守りながら答える。
おうおう、コスチュームの香りでも嗅ごうとしてアサガオから“蒸気銃Ⅱ”の抵抗を受けたって感じか。難攻不落だな。
「……うん、わかったよ」
兄妹のノリに慣れていないファラエは、少し上の空って感じで応えた。
即売会の間、アサガオとどんな会話をしたのか気になるところだ。もしかしてって想像もしてしまったり?
「迂闊に外で特訓もできないわけか」
ダンデリオン君、呆れているようだが心底では強敵を渇望しているのが伝わってくるよ。
ダンジョンの外で戦うのだけはやめてくれ、ホント……。
あんなに気を使うのは今回だけで十分だぁ!
「まぁ、程々にね。ダンが、戦う機会があるかは、知らないけれど?」
俺の作ったセキュリティをすべて乗り越え、巡回魔族とのかくれんぼを制し、探索者同士の競争に勝てた者だけがたどり着ける境地だからな。
攻略本のお陰で半分くらいまでの階層は――今後は割合が変わるが――なんとか初心者探索者でも侵入できるだろう。
「で、売れ行きは?」
「予想の通り、まだ一冊も」
ファラエに質問して見れば、即答が返ってくる。
商売人なだけあって、売れ始めるのに時間が掛かるくらいは分かりきっていたか。
元々から人の入りが少なかったのだから、誰も攻略本の存在に気づかれない。明日にでも一組くらいこれば良いところだろう。
「慌てることはないわ。いずれ誰かがやってくるから」
「一冊目が広まるまでに一週間くらいだね」
こちらの考えを先読みするように、ファラエがセリフを継ぐのである。
言う通り、だいたい2日くらいの間に探索者グループがやってくる。かなり希望的観測だが。
更に、1日もかからずダンジョンから放り出されるはず。
最寄りの町であるガーデンロードが1日程度の距離。
人の話が広まり確認に訪れるのが1~2日ってところかな。
少しくらい遅れが出ても、一週間が分水嶺だ。希望的観測には違いないけど。
「宣伝とかしちゃダメなんッスか?」
口を挟んできたのはアサガオだった。
ユウガオとの防衛戦には、乙女(?)のプライドがしょぉーりっ!
少し前から、狭い室内なのに、必殺技エフェクトみたいなの出しながら戦闘を繰り広げていたからなぁ。
さておき、その質問には答えねばなるまい。
「さっきも言った通り、私の立場は非常に危ういわ。ダンジョンの攻略本を出しました、なんて新聞広告なんぞ載せようものなら、嫌な反響が来るくらいにはね」
現代っぽく言えば炎上待ったなし!
まぁ、それ以前に勇者の名前を出す時点で睨まれる。
匿名とか偽名って手段もあるが、前者はほぼ怪しまれるに終わる。後者は、作者探しをされた時に直ぐバレるってことだ。
即バレについては、人口が現代と比べようもなく少ない点。
また、人間関係を隠蔽してこなかったがために小細工が利かなくなっている。
ならば、作者が誰であろうと食いつくぐらいの内容で釣ろうという魂胆だ。
それこそがアサガオのバニーであり、口コミという手段である。
「下手な策を弄するより、すっぱり私達にしかできない方法で売り込んだ方が後腐れがないでしょ?」
「私のバニーコスは小細工じゃなくて、勇者様に言わせれば独創性なんッスね」
「そういうことよ!」
「…………」
ゴリ押しによる説得とは呼べない説得。
いやーな沈黙を保つアサガオだが、追及は諦めてくれたようだ。
「く、口コミが一番、信憑性や期待度が高くなるのよ。新聞を読む探索者だって多くはないわ」
幾らコマーシャルで「ダイエットできる」と謳たわれても買う気は起きない。
テレビの向こうにいる他人が勧める健康器具やサプリメントなんて信用ならねぇ。
しかし、本当にダイエットを成功させた知人の方法論であれば大抵が耳を傾ける。ちょっとした道具くらい揃えようと思う。
営業担当から聞いた話で、コマーシャルを使った宣伝方法より、顧客が知人親戚へ勧めてくれる方が成績アップにつながったらしい。
「じゃあ、俺が町で話して回れば良いのではござりませんか?」
復活したユウガオの意見だ。
「サクラって奴ね。それも悪くは無いんだけど、切り札だから最終手段よ」
間者であるユウガオならばお手の物だろう。
しかし、こちらから打てる手だからこそ今は出し惜しんでしまう。
そんな余裕があるはずもないのだが、変なところで慎重というか臆病というか……。
「なるほど。その時が来ないのが来ないことを祈るでござるよ」
「そうしておいて。本当は、切り札ほど早く出したいくらいなんだけどね」
彼らは本当に有能な保険だ。




