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案件2「ダンジョンマスターのお仕事2」

「あぁっ! ダン、大丈夫!? ごめんなさい、思わず……!」


 あ、ダメだ。気絶してらっしゃる。


 まぁ、俺の二段キックを受けて昏倒で済むなら安い方か。一応、ダンなら問題ないのだが。


 ダンジョンの中では、ダンジョンマスターなら半永久的な不死を得られる。巡回の魔族ならレベル喪失による復活が可能だ。


 探索者であれば、一部を除く所持品全てを返却することで復活できる。


 さすがに素っ裸で放り出すわけにもいくまい。


 とても親切設計なのだ。本当にヤバいダンジョンだと()()設計だが。


「うーん、これはしばらく無理そうね……」


 抱き上げて揺するも、反応がない。


 腕はポンチョの下で拘束されているから、結構必死なんだけど。


【ピロリンッ! ピロリンッ!】


 そのタイミングに合わせて、ダンジョンのレベルが上がる音が薄闇の中に響く。


「1レベル上がったわね。教えた方法で上手く探索者を狩れているなら良いんだけど」


 そして、どうも俺は非常に運がないようだ。


 異世界へ転生したら女勇者だったり、ユニークチートが毒使い(ポイズナー)で魔王には通用しなかったり。その時点でお察しだが。


 ロクにありはしないトラップや、まだ未熟な魔族達を乗り越えてきた者達がいた。


 四人の男達だ。それなりに美形かな。


「先客がいたみたいだ」


「武器が手に入らなくて、素手で倒そうとしてたみたい?」


「なかなか可愛いじゃん? ソロなら僕達と組まない?」


「七面倒なのはよそうぜ。まだ倒してないなら俺達で奪っちまえば良いよ」


 獲物も、報償も、女も。ということだ。


 不躾な客人達である。


 少しお仕置きが必要のようだ。


 ダンを地面に下ろし、立ち上がって探索者達に向き直る。


『へぇ……』


 感嘆の声。マナーのなっていない最近の若者どものようだが、美的感覚はちゃんとしているみたいだな。


 あー……『最近の若者は~』みたいなことを考えてしまう俺は、もうそんな年なんだろう。


「あっ、後に」


 悲しみを振り払うように、俺は若者達に向かって疾走する。


 卑怯な手を使ったのは、舐めた彼らを教育するためだ(言い訳)。


「げふっ!?」


 一足飛びに接近。若者達の一人、一番守りの薄い軽戦士にタックル。


 コツは、堂々と正面から。肩をぶつける感じで、下から掬いあげるようにするとミゾオチに入る。


「こいつっ! 下手に出てやったらつけあがりやがって!」


「いったいいつ、下手に出たって言うのよ……」


 なんてやりとりをしながら追いかけっこだ。


 体勢を立て直した俺は扉まで走る。


 地面を蹴り、壁を走る要領で移動する。扉に足を掛けて蹴り開る。


 誰も気にした様子はなかったが、ここには俺が仕掛けた『サンドウォール』がある。


 砂粒へと還ったのを、追いかけてきた奴の一人に蹴り付けてやった。


「目っ。目がっ! 目がぁ! ママ~!」


「てやっ!」


 全身を鎧で覆っている戦士なので、俺は鉄仮面(てっかめん)に足を巻き付ける。そして一捻り。


 断末魔の声も上げられず、重戦士を沈黙させた。


 初心者ダンジョンへ小遣い稼ぎにやってくるような奴らだ。両手が使えず、ろくな武器もない俺でも、それほど苦労はしない。


 重戦士の背中を蹴って間合いを取る。


「今、ポンチョがめくれて見えたんだが……魔法で拘束……?」


「舐められたもんだな……」


 いつものノリで動いていたら、乳白色のロングポンチョで隠している秘密を知られてしまったようだ。


「フフフッ」


 闖入者達がそれをどう考えているのかはわからない。たぶん、舐めプレイこと舐めプだとでも思っているのだろう。


 だから――。


「見たわね」


 真実に気づく前に片付ける!


「ひっ!?」


『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!!』


【ピロリンッ! ピロリンッ!】


 まだ残っていた若者二人の悲鳴とレベルアップの音が響いた。


 いったい、俺の顔はどうなっていたのだろう。大の大人が、醜態を晒して逃げようとするほどとは。


 逃げ惑う若者の残党を追い払うまでに一分とかからなかった。


「執拗に頭を攻撃しておいたから、記憶も無くなってくれると助かるのだけど」


 落ちている小遣いの元をかき集めつつ、俺はお祈りする。


 ここで、漸くダンが意識を取り戻す。


「うぅ……」


「目、覚めたのね。その、まぁ、ごめんなさい・・・…」


 つい蹴ってしまったことを謝らなければならなかった。


「いや、謝るのはこちらだ。せっかく来てくれていたのに、探索者の進攻を許してしまうとは。勇者が倒してくれたのだろ?」


 あれ……って、お前の記憶が飛ぶんか!


「ありがとう。助かった」


「え、えっと、そう……! そうなのよ! あはははははっ」


 どうやら、俺自身の立場を悪くしなくて済むようだ。


 しかし、どうしたことか……。


「あの……」


「まずは俺の部下からで良いよな? それとも、俺の右腕になりたかったか?」


 取り入ることができればまずは成功だ。


 しかし、なぜ頭を撫でるのか。


 柔和な顔のダンとか、ギャップが凄過ぎて驚く……。顔は無駄に良いんだから、あんまり笑うなよ……。


 こっ恥ずかしさのあまり、ダンの手を振りほどいて走り出す。


「そ、そそそっ、それじゃあ、もっと罠のことを専門家に聞いてくるわね!」


「わ、罠? そんなものは使いたく――」


 ダンが言い終わる前に、俺は風になった。


 最初の邂逅時に俺の毒飯を疑いもなく食べたダンだけはある。

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