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案件1「ダンジョンマスターのお仕事1」

 ダンは戦士だから頭の回転が単純なんだろう。


 だからって停止したままだと困るのだが……。


「ねぇ、大丈夫? 精悍(せいかん)な顔が台無しよ」


「……あ、あぁ。いや、少し唐突だったので飲み込むのに難儀した」


 申し訳ない。


 さすがに今のは突飛過ぎた。俺だって、顔見知り程度の人にいきなり「結婚してください」なんて言われたら答えに詰まるさ。


「いったい、どういうことだ? ダンジョンマスターを懐柔しようとしているのだろうとは思っていたが、求婚されるとは思わなんだ……」


 ダンがここまで戸惑っているのを見るのは初めてかもしれない。


 少し噛み砕いて説明すべきか。


「これはいわゆる賭けでもあるのよ。事態を解決する手段を得るための、ね」


 そう、俺に与えられた選択肢は二つだ。


 一つは、魔王を倒すこと。もう一つは、ダンジョンマスターの力を借りること。


 女勇者の肉体は借りものだ。体はちゃんと返してやりたいし、願わくば一度諦めた元の世界へ戻りたい。


 後者の事情までは、ダンが知る由などなかったようだが。


「なるほど。無限の財貨と千変の秘宝を内包した魔王様の宝物庫であれば、持ち主さえ倒しうる手段があってもおかしくはない」


「えぇ、それを探すために頑張らなければならない。最悪、私を縛りつけている拘束を外す手段でも良いわ」


 歴代の魔王が溜め込んだ世界のあらゆる宝に不可能の文字はない。


 けれど、それだけの代物を部下程度の立場の俺にタダで渡せはしないはず。


「魔王様の敵である勇者に協力できるはずもない。が、ダンジョンマスターという立場上、魔王様に挑戦する者の努力に報いねばならない。というわけか……」


「魔王へ挑戦する者を選定し、中立でなければならない貴方達の誰かに取り入るのが近道なのよ」


「そういうことなら、あい分かった」


「ありがとう、ダン。私はいつでも式を上げ――」


 ダンならわかってくれると思っていた。


 信じて正解だったようだ。


「――分かったが、結婚はできん」


「なっ……!? どういうことよ、ダン!」


 そんなことはなかったようだ……。


 断られることは可能性として考えていたが、上げて落とすのはないだろう!


「まぁ、落ち付け。その心意気は認めると言っているのだ」


「ならっ……!」


 ダンの非道に、俺は食ってかかる。


 確かにダンジョンマスターは世界に四体いる。


 しかし、ダンに断られてしまうと、以後は徐々に成功の確率が減って行ってしまうのだ。


「だから落ち付け。これは俺の立場すら危ぶむ選択なのだから、慎重になるとは当然だろう?」


 ダンの言う通りだ。無理強いはできない。


「……どうすれば良い?」


「お前の言った通り、有用性を示すしかなかろう。急ぐ計画ではなかろう?」


 役立つようなら、部下やら幹部やら嫁、という感じで起用してくれるってことだ。


 もとよりそれも予定の内だし、慌ててもどうしようもないか……。


 なにせ、直ぐに目的の宝物を探せるというわけではない。


「そうね。貴方のダンジョンは、どうせまだ1レベルなのでしょ?」


「……」


 痛いところを尋ねられて、ダンも男前な顔にシワを寄せる。


 ダンジョンにはレベルがあって、挑戦者達を倒すごとに一定の経験値が入るのだ。それが規定数溜まればレベルアップという方式。


 1レベルごとにダンジョンフロアを一つ拡張、巡回する魔族達のレベルアップ、マスターによるアイテム一種の独占権、からいずれかを選択できる。


 1レベル目の景品は、ダンが武器を選択している。


 二メートル強はある体躯にすら、背負うと表現するのが正しい“バスターソードⅡ”を携えている。勇者ちゃん()の体が二つ背負えるんじゃないだろうか?


「そんなことだろうと思って、レベル上げの秘策を教えてあげるわ。ちょっとこれを見て頂戴」


 俺はそう言って、ダンの大きな手を引き、部屋の入口へと向かう。


「これは……“マテリアル”が壁と扉に刻んであるのか。あそこに見えるのは『サンドウォール』だな」


 部屋を出て直ぐに、ダンが俺の仕掛けに気づく。


 それと同時に、隣の部屋に展開されていた砂の壁――『サンドウォール』が崩れて砂塵に戻る。


 しかし、扉を閉めると再び『サンドウォール』が三メートル四方の壁として立ち上がった。


「扉の開閉に合わせて“マジックチャーム”で“マテリアル”に“魔エネルギー”を通しているのか……。罠の一種、か?」


「正解よ。これなら、魔族達をバラバラに巡回させることなく挑戦してくる探索者の位置を探ることができるでしょう?」


 ダンジョンに罠はつきものだが、古臭いものでは昨今の探索者達にダメージを与えるのは難しい。


「『サンドウォール』に限らず他の魔法で良いわ。向こうが数なら、こちらも数でまとまって動かないと勝てないのよ」


 唸るダン。


 その思案顔を見ながら、俺もちょっと得意気に胸を張るのだが……。


「しかし、罠などという(こす)い手は、ダンジョン特有の恥ずべき手段……」


「ここはダンジョンなのだけれど?」


「愚劣な手段でしか探索者を倒せぬなど、ダンジョンマスターも同議!」


「貴方がそのダンジョンマスターなのよ……?」


「男には、勝負よりも大事なものがあるのだぁっ!」


「そんなんだからっ。いつまでも、初心者ダンジョンなんて、揶揄されるのよぉっ!」


 怒りの二段飛び蹴りが、ダンの頭部を捉える!


 これには大山(おおやま) ○達も拍手してくれるだろう。

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