04.トラブル発生?なう。
今日は休みなので、2話投稿することができました!
いやぁ、よかったよかった!
――ピピピッ ピピピッ ピピ
アラームの音で楓は目を覚ます。
今は6時。
さっさとベッドから立ち上がり、フード付きのジャージに着替える。
フードをかぶり、部屋を出て、学園の回りをランニングする。30分間走った後、部屋に戻り、シャワーを浴びて髪を乾かす。
これが楓の日課だ。
制服に着替え、髪を三つ編みにし、だて眼鏡をかける。
鞄をもって部屋を出て、食堂で軽く朝食を済ませて学園に向かう。
教室に着き、鞄を机の横にかける。
楓は朝から機嫌が良かった。
施設見学ももちろん楽しみにしているが、それよりも楽しみなこと。
今日は、桜の初イベントがある日なのだ。
確かゲームでは、学年首席である桜を生徒会に入れるために、生徒会長である、逢坂 颯真がAクラスに行ったときに、ヒロイン――桜に一目惚れするっていうイベントだったはず、と、楓は一人でぶつぶつ呟いている。
端から見れば、やばいやつだと思うかもしれないが、幸運なことに、楓の近くには生徒はいなかったため、今の楓の独り言は誰にも聞かれることはなかった。
「おーい、お前ら!席に付け~ホームルーム始めるぞ~」
田中先生の言葉で席に座る生徒たち。
「お前ら、施設見学を楽しみに思う気持ちはわかる!だが、その前にきちんとホームルームやれよ~」
「「はーい」」
やっとホームルームが終わり、施設見学のため、学年全員が体育館に集まる。
楓たち1年生は全員で、240人おり、各クラス、40人ずつとなっている。
つまり、今のところ、学年での大体の順位しか分かっていないわけだ。
例えば、Aクラスだったら、1位から40位の中で、Fクラスだったら、201位から240位といった風になっている。
はっきりとした順位は、6月に行われる中間考査で廊下に貼り出されることになっている。
今は4月。
後2ヶ月後にはまたテストということになる。
体育館には、すでにA、E、Fの三クラスの生徒が集まっており、静寂を保っている。
黙ったまま他のクラスを待っている時間は、楓にとって、とても退屈なものだった。
楓は早く他クラスも来てほしいと切実に願う。
やっと全クラスが集まり、施設見学の説明が行われる。
説明は~田中先生がするみたいだ。
「やっと全クラスが揃ったな。俺はBクラス担任の田中 大輝だ。
施設見学についての説明だが、まずはこの資料を見てくれ」
楓は前から配られてきたプリントを受け取る。
「これには、各階と外の地図が載っている。地図には、道以外空白のはずだ。今から、適当にグループを作って、実際に校舎を見て回って、書いてきてもらう。まあ、つまりはオリエンテーションみたいな感じだ。時間は今から3時間後の12時まで。結果は評価には入らないから、皆楽しみながら頑張ってくれ!じゃあ解散!」
先生の合図で、生徒は各々好きな相手とグループを作っている。
早速出来た友達であったり、少し気になる子だったりと様々だ。
「ねえねえ!神楽さん!一緒に回ろうよ!」
「なあなあ、俺たちと回んねぇ?」
早速桜はたくさんの人に囲まれていた。
唯一の友達である桜があれでは、一緒には回れないだろうと判断し、楓は体育館から出ようと歩き出す。
「楓。一緒に回るわよ」
その言葉は、大して大きな声でもなかったのに、周りの雑音が消え、生徒や先生までも桜と楓に注目している。
「え~?あんな地味な子よりも、うちらと回った方が絶対楽しいよぉ~!」
「そうそう!あんな地味子、神楽さんの引き立て役にもならないって。それよりも俺らと回ろうぜ!」
楓のように、見た目がパッとしない女子では、桜のような美少女には釣り合わないだろうと、周りが口々に言う。
「...私の、私の一番の友達を、親友をバカにするのは止めなさい。私が誰と友達になろうが、誰と回ろうが、あなたたちにどうこう言われる筋合いはありません。」
桜は静かに、だが確実にキレていた。
「か、神楽さん?ど、どうしたの?いきなり」
「そ、そんなに怒ることかよ」
「あなたたちは私が自分の友達をバカにされて黙っているほど、薄情なやつに見えましたか。私は私です。自分のやりたいように、好きなように生きます。私は、人の友達を本人の前でバカにするようなデリカシーのない低俗な人たちよりも、私自身を見てくれて、対等に扱ってくれる彼女と一緒にいたいです。」
桜に貶される彼女らの顔は、怒りでか、恥ずかしさでかは分からないが赤く染めていた。
それらの顔を見て、楓は、無意識に桜を止めていた。
「もういいよー桜。」
「でも、この人たちはあなたのことを…!」
「いいんだって。私のために怒ってくれるのは嬉しいよ。ありがとう。でも、彼女らが言ったことは、誰もが思うことなんだって。全員の総意を言っただけにすぎない。一人一人感じることも思うことも違うんだから、仕方ないよ。それに、私は全員に好かれようとは思ってないから。誰か一人でも、自分のことを理解してくれる人がいればそれでいい。
...それよりも、オリエンテーション行こー。時間がなくなるよー」
「分かったわよ。でも、私はあなたたちのことを、一生友達だとは思わないわ」
桜は、さっきまで彼女を取り囲んでいた生徒に言い放つ。
楓はそんな桜の腕を掴んで、体育館から出ていった。
呆然と、口を空けたまま佇んでいる生徒に背を向けて。
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体育館から抜け出した楓と桜は、その後、楽しく施設見学をし、いつも通りの顔で体育館に戻った。
お昼休みになり、桜に昼食に誘われた楓は、二人で食堂に来ていた。
この時、楓は施設見学でのことが印象に残りすぎていて、桜の出会いイベントのことが頭からスッポリ抜けていた。
ご飯を受け取り、空いている席に座る。
二人で談笑しながら食べていると、ふいに女子たちの悲鳴が聞こえた。
楓は桜と顔を見合わせ、「またか」と呟くと、また食事を再開する。
「だんだん女子の悲鳴が近付いてきてない?」
と、楓が桜に話しかけるのと、
「神楽桜は、お前だな?」
と、攻略対象である、逢坂 颯真が桜に話しかけるのは同時だった。
あまりの驚きに、楓はくすくすと笑ってしまう。
「何のようですか?今、見ての通り、楓とご飯を食べているんですけど。それよりも重要なことですか?」
楓のことを無視するように桜が颯真に尋ねる。
「あ、ああ。重要だ。今すぐ、俺に付いてこい」
「嫌です」
「お前に拒否権はない」
「それでも嫌です」
誘いを断り続ける桜に、興味を持ったのか、颯真は桜の顔をまじまじと見つめる。
「…はぁ。そんなに行ってほしいのなら、楓も一緒ではダメですか?」
その言葉に、楓は眉間にしわを寄せ、顔全体で「めんどくさい」とアピールしている。
そのことに気付いているはずなのに、あえて、気付かない振りをして、楓のことをスルーして話を進める桜。
「それがダメなのだったら、私は行きません。どうぞお引き取りを」
「わかった。良いだろう。俺様に感謝しろよ、女」
颯真は楓に顔を向け、「どうだ、嬉しいだろう」といいたげな顔で見つめる。
その言葉に、楓は中指を立てたい衝動を一生懸命抑え、無表情を保っていた。
こんな大勢の人がいる前で、彼を侮辱するようなことをすれば、彼のファンの人たちにボコボコにされてしまう。
何とか心を落ち着かせた楓は、いつの間にか決められていた、桜の同伴のために、昼食を急いで食べる。
そして、颯真に連れられ、桜と共に楓は、食堂を後にした。