中の人と外の人
ーーーー宴。それは酒や食べ物を食べる機会を設け人々を会して楽しむという概念の物である。
普通であればの話なのだが。
俺は既に何が普通なのかという元の基準を忘れてしまった。正確に言えば覚えているのだがその記憶が正しいのか、それとも今の状態が正しいのかが判断出来ないのだ。
俺はここに来て、一週間が経ったのだが毎日宴が開催されるのだ。酒を死ぬほど飲まされ、腹が破裂しそうな位に食わされ、自分の周りには巨乳美人がわんさかといて、主人公感溢れる奴がゴミのようにいて、何故かドラゴンまでいる。
おかしいだろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!
何でだよ!? 俺は一週間前まで家から一歩も出ない主義の人間だったのになんでリア充っぽいことしてんだよ!? というかドラゴンに限ってはまじで説明つかねぇよ!?
「やっぱり異世界召喚だよな」
一週間考えた結果がこれだ。というか普通に考えてもそれしか有り得ないだろ!? 巨乳美女と主人公は何とか人間だから分かるけどドラゴンって何事だよ!? というかここどこだし! 無駄に戦場感出てんだけど? 普通、宴って建物の中じゃないのか?...... でも結構アリな展開だからなんも言えねぇ......
などと思っていた俺はかなりニヤついて居たのだろう、一週間たってまだドラゴンとしか挨拶を交わせていないコミュ障の俺に背後から千載一遇のチャンスが巡ってくる。
「あのすみません。一緒に飲みませんか? まだこの場所来たばっかりで......」
彼女も異世界召喚されたという可能性は無いだろうか。この場所に来たばかりという事はまさか......そのまさかなのか?
「全然いいんだけどさ、最近ここに来たって言ってたけど前はどこに住んでたの?」
慣れない会話に戸惑いながらもなんとか乗り切ったがほっと一息吐く間もなく、返事が返ってくる。
「とうきょ......」
これは間違いなく日本だ。しかも首都ということは話が早い。それにもし現実に戻れたらワンチャンあるよな! 今の内に言っておかないとな、リア充爆......
「トウキョストリアです」
えええぇぇぇぇどこだよそこっ!? 聞いたことねぇよ! 最初の方東京とか悪意ありすぎだろ! 勘違いしてリア充無差別爆破するとだったじゃねぇか! しかもなんだその変な名前の場所は!
「どこだよ......まぁいいや、飲みに行こ!」
そもそもこの子が異世界召喚されたとは限らなかったのに決めつけた自分自身が悪い。せっかく初めて女の子とお酒が飲めるのだ。まだ未成年だが、この世界で酒を飲むことへと抵抗感など二日目にとうに消えている。
「そうですね。行きましょ! あっちです」
そう言ってから彼女は急に俺の手を取り、走り出した。視界に移るものが線に見えるほど物凄いスピードで。理想と妄想とは虚しいものである。今ので確実に分かった事がある。
この世界やべぇ......
三分程この土地を引きずらている俺は人の目を引き、ドラゴン達の機嫌を損ね追いかけられる。ふざけてる。もう帰りたい。異世界召喚なんか全然嬉しくねぇぇぇぇぇぇ!
さらに二分弱の時を重ね俺は意識が朦朧としていた。だが、先程扉を開ける音が鼓膜を通り少し肌寒かった外に比べ弛緩した空気感になったのは確認できた。それから座らされたのも分かった。が、目の前は依然ぼやけ殆ど前が見えない。少しして聞こえて来たのは複数の女性の声だった。良く聞いてみたら結構可愛い声してんなぁ......顔が気になる......
「なぁ誰か回復アイテム的なの持ってない?」
「ポーションならあるよぉ」
きたぁぁぁぁぁぁぁポーションきたぁぁぁぁぁぁぁ! RPGゲームの序盤必須アイテムであり終盤になるに連れてポーションがハイポーションだとかに変わる有能なやつだ!
「すまん、目が腫れて前が見えないから使ってくれないか?」
図々しいのは分かるが激しく痛むのは事実だ。というよりあんな強引に人を案内するやつが何処にいるんだ? あれさえなければ今ごろ可愛い女の子達と......
「ポーションぐらい自分で作りなさいよ。自分で怪我したんだから」
「9割9分9厘お前のせいだからな!? というか俺はポーションの作り方なんか知らねぇし、この目じゃ作れない」
「何で私なのよ。あなたがおたんこなすだから悪いんでしょ?」
何故、反論できるのかが分からない。あんなに人を恐怖に陥れ大怪我にしておきながら、なお俺を貶すなど相当の悪魔でないと出来ない。それよりもそもそもポーション作るものなのか? てっきり買うものだと勘違いしていた。いやまてよ......
パリンッ!!!!
「ちょっとなにしてんのよ!?」
先程あった彼女を筆頭にざわつき始める建物内。少し視界の開いている左目を頼りに辺りを見る限り民家という感じだろうか。それから立ち上がる女性達一行だったがそんなことはこの際気になどしてられない。だから俺は割り続ける。
「ねぇ聞いてるの!? 止めなさいよ」
止めるもんか! 元はと言えばお前が悪い。初めて異世界に来てドラゴンとしかまともに喋れなかった俺に膨らみのある胸と異世界召喚という同じ境遇を演じ俺と仲良くなろうなんて考えは甘い! 俺はリア充を好まない非リア童貞主義の男、雲野光太郎。小学校の時のアダ名は名字の雲と光太郎のこでう○こ。こんな事で非リアを捨てるう○こじゃねぇ!
「止めないと殴るよ!?」
やれるもんならやってみろ!
などと思い続け棚の上に3つ並ぶ内の2つを割り、3つ目を持とうと手を掛けた刹那、怒号が聞こえ肩を震わせ振り返る。と、同時に右頬に強烈な痛覚が訪れ体は宙を舞う。
「いい加減にしろっ! 壺割ってもポーションとか薬草とか出てこないから! そんなド○クエ要素ないから!」
やはり、先程の走りといい今のパンチといいやはり異世界であることを再認識させられる。
そして、倒された雲野は木で出来た異世界召喚で有りがちな家の床に手を着き体を起き上がらせる。
「やっぱり割っても出てこねぇ......ってお前今なんつった!?」
「だからド○クエ要素ない......ってああああああド○クエってなんの事かしら、あはは、そそそれよりもやっちゃいなさいよあなた達! 家のもん壊されたのよ!?」
まるで雷が友達に落ちたかのような絶望的な顔を晒けだし慌てる彼女は滑稽だった。だが、今それをしっかりと見えないのが少し悔やまれた。それよりもこれはまずいかも知れない。普通に考えて人の家の物を理由も無く破壊するなどあり得ない。故にこれはまずい。本能的に逃げろと言われているような気がして俺は咄嗟に赤色の液体の入った容器を机の上から強奪し、入ってきたドアから逃げようとするが既に遅かった。
首もとをがっしりと掴まれ体が浮き上がる。俺は右手に持っていた容器の蓋をあけるが更に体は浮き上がり、その際、中の液体が空中へ散布される。それと同タイミングで聞こえてきたのはボロを出したあいつの声だった。
「火炙りにしちゃいなさい! 中々楽しかった、そうね私の職種だけ教えてあげる、もう会うことも無いしね。私は君の世界とここの世界をつなぐ女神だよ」
言い終わると同時に空中に散布していた液体が目に当たり視界が戻り、ついでに口にまで入った。このコンマ零何秒で分かったことが2つ程ある。一つ目、ここ人の家じゃなくてドラゴンの家だったということ。そして、もう一つはポーションって甘えぇぇぇぇぇ!
次の瞬間、戻った視界は燃え滾る炎で埋め尽くされーーーーー
「死ぬぅぅぁぁぁ」
と、叫んだ声が何故かまだ聞こえる。というか背後がフカフカしているのだが。恐る恐る、ゆっくりと目を開くとそこに広がっていたのは......
「何だ、夢かよ......随分リアルだったな」
時刻は現在午前5時半。俺の名前は雲野光太郎。小学校の時のアダ名はうんこだ。現在高校三年生で進路に行き悩んでるごくごく普通の高校生。で、何でこんなに早く起きてるかと言われれば、高校に進学したときからの日課が影響している。その日課はネトゲ。ネットゲームの略だが俺はその中でも人気の高いMMORPGが大好きなのだ。だから毎日朝早く起きてはネトゲをして、学校に行き、帰ってきてはネトゲをして、寝ての生活を繰り返している。だから今日ももちろんそうするつもりだ。
だが、今日はいつもとは違う朝を送るつもりなのである。なんといっても本日は大好きな制作者さんのネトゲの新作が出たのだから! もちろんやらないわけにはいかないし、当然それに伴う準備も必要となってくる。他の制作者のならば別に家にあるお茶などでも構わないのだが、この制作者のゲームの場合にはジュースにお菓子にデザートまでをコンビニで調達しなければならないのだ。俺はこのような日を“宴”と名付けている。
「行ってきまーす」
と、玄関で発するが返事は返ってこない。当然と言われれば当然なのだ、高校生三年にもなって勉強もせずネトゲとなれば親が呆れるのも納得のいく話である。だから俺は気にせずに車の横に停めていた自転車にまたがり走り出す。コンビニまで歩いて10分、自転車3分といったところである。
気になってしまった。イラストがどんなものなのか。危ないのは分かってはいるのだが、見ずにはいられなくなってしまった。
ポケットからスマートフォンを取りだし検索エンジンのトップへと飛ぶ。そして、彼はこう打ち込んだ。
ーーーーUTAGEーーーー 検索
と、打ち込むが出てくるのは検索結果がありませんともう少し詳しく簡単に打ち込んで見ては? の2文。それを確認してから、雲野は慣れた手つきで文字を打ち込み直す。
ーーーー自称女神 UTAGE ーーーー 検索
「流石に制作者の名前を打ちゃ出てくんだろ......お、これこれ」
出てきたのは彼のブログに繋がる物でそれを押すと今回の制作に関する事が乗っている。その中に含まれているイラストという項目を見つけ選択する。すると沢山の画像が出てきてその内画像の一つを信号が青になり自転車をこぎ始めるのと同時に開く。
「あれこれどっかで......」
気付いた時には遅かった。俺はこの瞬間悟った。死ぬのだと。そして、その死ぬと悟れたのはあるシーンを重ね合わせてしまったからである。明朝の暗闇を裂く眩い閃光と視界を裂く燃え滾る業火をーーーー
落ちたスマートフォンには戦場とドラゴンと勇ましい勇者とその仲間達の宴会が映し出されていた。
2作品目投稿です!楽しんでいただけたら嬉しいです。良ければ1作品目も見てみて下さいね!