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アリスとボブ  作者: 田中八槻
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一章三幕

第一章 僕、ニートやめます 三幕



 日曜日。ついにこの日が来た。三条先生が同期の女の子を連れてくるという日だった。不思議と、前回のような嫌な気持ちはしなかった。望月の期待する通り、きちんとやってみせなきゃ。それは僕にとっては少しのプレッシャーではあったけれども、この時の僕は緊張のあまりハイになっていたので、少しコーヒーを飲んで自分を落ち着かせてもなお、それ以上にそわそわとしていた。

 ……インターホンが鳴った。

 「八木本君、こんにちは!女の子、連れてきたよー!!早く入れてーー!!」

 ……三条先生のほうがハイになっているようだった。

 ドアを開けると、三条先生は待ちきれないといった様子で、部屋に押しかけてきた。ちょっと、僕より先に、部屋に入らないでくださいよ。その後ろから、黒髪の女の子が、か細い声で、

 「お邪魔します」

と言ってついていった。顔はよく見えなかったけど、伸ばしたさらさらの黒髪が印象的だった。そしてちょっと、いい匂いがしたような……?白い石鹸の、飾らない香りだった。それが意外で、少し驚いた。てっきり、年頃の女の子はみんな華やかなシャンプーの香りをさせているように思っていたのだけれど。僕は何となく、その子は「いかにも女の子」というような人ではないような気がした。それが逆に「女子っぽさ」が苦手な僕を安心させた。気がつくと僕は、その香りを追うようにその子の後ろ姿に釘付けになっていた。後から部屋に入ると、

 「八木本君っ、連れてきました!この子が『ボブ』ちゃんです!」

 そして、振り向いた女の子は……正直とても可愛かった。女性の怖いところをすべて取り払ったような、無垢な顔立ちをしていた。こんな美少女とのこんな出会いが、現実にあっていいものだろうか?

 僕がその子をじっと見つめていると、その子は少し視線をそらし、もじもじとする。こんな恥じらいのある女の子は本当に存在したんだ!とりあえず、自己紹介しなきゃ……!

 「はじめまして、八木本翼です。わざわざ来てくれて、ありがとうございます」

 女の子ははっとして、おそらく握手をしようとしたのだろう、手を前に出して……、…………そこから言葉が出てこないようだった。

緊張しているのかな?

 「その……よろしくね?」

おそるおそるもう一度声をかけてみると、女の子は意を決したように、こう叫んだ。

『……おれは、ボブ!!!よろしく、アリス!!!!』

 一瞬驚いて何も頭に入って来なかった。女の子の方は、顔を真っ赤にしてなんとかこの状況から逃れたいという様子だった。「おれ」?「アリス」?というか、最初は何とも感じなかったけど「『ボブ』ちゃん」って、どういうこと??よく見たら、彼女が着ているのは白いスーツである。それも、ボタンが「右側」についているものだ。

 「あはは!ボブちゃん、そんなに緊張しなくてもいいんだよ!ほら、八木本君も、握手握手」

 僕は一旦我に返り、言われるがまま握手する。

 「あの、三条先生、なにがなんだかさっぱりわからないんですけど……」

 「ああ、ごめんごめん、説明するね。ボブちゃんも、自分のことはちゃんと自分で説明できるよね?アリス君は、全然他の男の子とは違うから、優しい子だから、大丈夫だからね」

 「はい……」

 女の子は返事をした。僕もとりあえず、女の子に落ち着いてもらおうと思って、

 「とりあえず、座ってください。お茶、持ってきますね」

と、部屋を離れた。

 部屋に戻って僕も座ると、三条先生は話し始めた。

 「まず、八木本君。君は、『アリス』です」

 「アリス」

意味が分からないので、ひとまず言葉を反復した。

 「アティーナのメンバーはみんなあだ名を持ってるの。コードネームみたいな。それは、いろいろな事情で本名が名乗りにくい子が名乗れるようにっていう配慮なんだけど……とにかく八木本君は、アリス。君の目の前にいるのは、ボブちゃん」

「どうしてアリスなんですか?」

 「第一幹部だから。役職によって、名前が決まってるの。一番目だから、アリス。ボブちゃんは、第二幹部なの」

 わかった。AさんBさん、だ。そうなると他の名前も大体予想がつく。

 「というか、僕が入る前提の話になってません?」

 三条先生はフフンと笑う。

 「そりゃあ、八木本君は絶対入ってくれるって信じてるからね。ね、アリス君」

 アリスって呼ばれると、なんだかむずがゆい。だって、女性名だし。でもそれを言えばボブちゃんも男性名をつけられているわけで……もしかしたら、僕と同じでむずがゆい思いをしていたりして。

 「第一幹部って、具体的になんなんですか?」

 「よくぞ聞いてくれた!第一幹部第二幹部は、他のみんなのお手伝いをする役職なの。そのためにはいわゆるオールマイティーな人でないと務まらないから、潜在能力の高そうな八木本君をスカウトしました!」

 お手伝い。みんなの力になりたい僕にとっては、魅力的な響き。でも、オールマイティーって?僕は確かに昔は器用で何でもできた。しかし、器用貧乏だったのもまた事実である。一抹の不安をおぼえたけど、でも、広く浅く、のほうがお手伝いには向いているのかな?しかし、そんなことはどうでもいい。第二幹部も同じ仕事をするってことは、ボブちゃんも相当できる子ってことだ。すごいなあ。エリートコースのお嬢様なんだろうなあ。きっと、僕は敵わない。でも、お手伝い、やってみたい。ボブちゃんのことも気になるし。どんな子なんだろう。

 「わかりました。アティーナに入るの、前向きに検討します」

 「本当!?」

三条先生はとても嬉しそうだった。そこに、……部屋のドアが開いて、望月が顔を覗かせた。

 「響さん、ちょっとお話があるんだけど、こっちに来て」

 「ああ、良いところなのに。わかった、今行く。じゃあ」

三条先生はボブちゃんの肩をポンと叩いた。

 「あとは、二人でのお話だね」

 そういって、三条先生は部屋を出ていく。

二人でお話って、何を話せばいいの!?

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