第7話 誓い
「ふふ~ん、ふふ~ん」
俺の耳に上機嫌な少女の可愛らしい鼻歌が聞こえていた。
勿論この鼻歌の主は俺の奴隷であるルアのものだ。先程俺はルアのお願いを受け入れた。あの時、俺が言った言葉をルアが聞いた時の彼女の嬉しそうな顔は多分一生忘れないだろう。
にしてもさっきからルアの表情は緩みっぱなしだ。俺に受け入れられたことが相当嬉しかったのだろう。さっきからずっとこの調子だ。
今も鼻歌を歌いながら俺の着替えを手伝ってくれている。
着替えが終われば早速訓練場に向かうつもりだ。
ララ王女?知るかそんな奴!つか、なんなんだよあの物言いはさっ!いくら俺が勇者なのにも関わらず何の能力も持ってない屑で無能だからってあそこまで言う必要なくないですか?ちょっと傷つくよ?
今も自分で言っててかなりダメージが大きいんですけど。
まぁ~そんなことはさて置きただでさえ弱い俺がみんなより3日も遅れてんださっさと訓練場に行って遅れた分を取り戻さないと。
そー言えばみんなどれくらい強くなったのだろう。そう思いルアに尋ねてみた。
「なぁ~ルア」
「何ですか誠様?」
「あのさぁ・・・皆って今どのくらい強いの?」
「そぉ~ですね緋山様達のパーティでしたらもう団長よりも強いですね。」
「え!?うそほんとにっ!」
「はい、まことでございます。」
「ほかのパーティもまだ団長にはおよばないにしても、あと1か月もすれば完全に追い抜かれるだろうと団長様も申しておりました。」
マジかよ仮にもあの人界最強の世界騎士白竜連合の団長だぞ。そんな人よりも強いってどんだけチートなんだよ緋山達の奴。
「他にもすでに緋山様のパーティは全員第三階梯魔法を行使できる領域まで達しています。」
「その他のパーティも第二階梯魔法までは完全に習得しています。」
「みんなすげー。俺も頑張らないとな」
「ふふっ、そうですね誠様も負けてはいられませんね。ですが無茶だけはなさいませんようお願いしますね。誠様にもしものことがあれば私どうしたらいいか・・・」
「他の人のものになるなんて絶対に嫌ですよ!」
「わかってるって。無茶はしないさ」
そう言って俺は心配そうにこちらを見上げる彼女の頭を優しく撫でてやった。
それだけで彼女は幸せそうに身を預けてきた。
「よし!準備もできたことだし早速訓練場に行くとするか!」
「っと、その前に自分のステータスを確認しとかないと。今の俺のステータスはっと・・・」
―――ステータスプレート―――
名前:黒川 誠
年齢:16歳
種族:人間
生命力:10 精神力:5 攻撃力:10 防御力:10 敏捷性:20 運:-100万
適正魔法:なし
特異能力:なし
固有能力:なし
称号:世界一不運な男【効果】ありとあらゆるものにおいて災厄が降り注ぐだろう
あーそうだった今まですっかり忘れていたが俺、超弱いんだった。それもこの世界の平均を大きく下回っている。しかもなんだよこの運:-100万ってしかもこの称号。
3日前のステータスと変わっているぞ。確かに見間違いだったが余計悪い方向に見間違いしてんじゃねぇ―か。
俺がそんなことを思っていると、ルアが気づかわしげに声をかけてきた。
「あの、ご主人様のステータスがどのようになっているのかはわかりませんがあまり気を落とさずに」
そうルアが励ましてくれた。
「いや、そう言ってもこのステータスはひどすぎると思うよ?ほら」
俺はそう言ってルアに自分のステータスプレートを見せた。しかしルアは首をかしげていた。どうやら見えないらしい。それというのもこのステータスプレートは俺たちが住んでいた地球でいうところの身分証明書みたいなものだおいそれと他人に見られてはたまったものではない。なので普段は本人にしか見えない仕組みになっている。そして所有者の魔力を通せば任意の第三者にも見せることができるようになっている。
なので俺はルアに教わりながら魔力を流してみた。ちなみにこれを成功させるのに1時間はかかった。緋山達は一回でできたというのに、どんだけセンスないんだよ俺。しかも一回の表示でかなり疲れた。それもそのはず俺の魔力量はたったの5なのだから、ルアに教えてもらったが魔力量というのはこの精神力とイコール関係なのだそうだ。そりゃ~俺の魔力量は5ですもん。疲れもするわ。
そしてやっとのことでステータス表示に成功しルアに俺のステータスを見てもらったところルアは驚愕に目を見開いていた。
俺は不思議に思いどうしたのかとルアに聞いてみた。するとルアは・・・
「あの誠様もしかして変換魔法をお使いになっていますか?」
「いや、使ってないけど?」
俺は何故ルアがそんなことを聞いてくるのか不思議に思った。
「誠様のステータスがひどいとは事前にララ王女様から聞かされておりましたが、まさかこんなにもひどいとは。」
「ってすいませんっ!私ったらついとんでもなく失礼なことを申しました。どうぞ煮るなり焼くなりいかようにも罰してください。」
「いやいや待ってルア、君の言っていることは本当なんだし、それに俺も怒っていないよ。」
そう言って優しくルアの頭を撫でてあげた。それだけでルアの尻尾はちぎれんばかりに左右に振られていた。
「と言うかルア。そんなにひどいの俺のステータスは?」
俺は自分のステータスがそこまで酷いものかと思い聞き返した。まぁ~流石に-100万はないだろうけど。
「はい、そうですね。かなり酷いですね。この世界の標準は知っていると思いますが誠様のそれはこの世界での子供よりも弱いです。」
「運に限っては初めて見ました。」
「そこまでっ!」
俺子供より弱いんだ。なんかもうやばい。
「はぁ~わかったよルア。なら尚更、訓練に打ち込まないと。一刻も早く自分の力で君を守れるくらい強くなるために。」
そうルアに告げるとルアは顔を真っ赤にして俯いてしまった。その後小声で「そういうことをおっしゃられるから私は誠様を愛してやまなくなるのです。」と、いう言葉は聞こえなかったことにする。
そして俺とルアは二人そろって訓練場に向かうために部屋を出た。
ちなみに訓練場に向かう道中ルアのステータスプレートを見せてもらったが今度は俺が驚愕に目を見開く番だった。ルアのステータスは次の通りである。
―――ステータスプレート―――
名前:ルア
年齢:16歳
種族:獣人族【ウルフ族】
状態:奴隷
生命力:700 精神力:600 攻撃力:500 防御力:500 敏捷性:1000 運:200
適正魔法:風(疾)・光
特異能力:身体強化
固有能力:読心術
称号:エリートメイド【効果】普通のメイドより何倍も優れたメイドに与えられる称号。
これはかなり高ステータスだ特に敏捷力なんかでいえば団長と同じだ。他のステータスも平均以上だ。称号は・・・よくわからないが多分すごいのだろう。
なんかさっきルアに対して言った言葉を思い出して恥ずかしくなってきた。守れるくらいに強くなるって本当に俺なんかになれんのかよ。先が思いやられる。
「あの、どうかなさいましたか誠様?」
俺が物思いにふけっているとルアが声をかけてきた。
そんなルアに対し俺は、「いや、ルアのステータスを見て驚いただけだよ。」と正直に感想を伝えた。
そしたらルアは少々自慢げに答えた。
「こう見えても私はメイド養成学院では首席で卒業したんですよ!」
ただその後に・・・
「ですが私は獣人族でしたので表彰台に立つことはおろか卒業式に出ることすら許されませんでしたが。」
そう悲しそうにルアは答えた。
「え、じゃあ誰が1位の表彰台に立ったの?それに卒業式に出られなかって・・・」
俺がそう問い返すと。
ルアは少し悔しそうに答えた。
「もちろん後日、私宛に卒業証書だけは届きました。ですが私の代わりに一位の表彰台に立ったのは当時の次席で今は緋山様の専属メイドをしているフレイア・バーナという女性です。」
なんとルアの1位は学院によって次席のフレイア・バーナという女性に書き換えられてしまったそうだ。しかもルアは獣人族だからという理由だけで卒業式にすら出られなかったという。
他にも彼女に対し学院は食堂及びその他学院内の公共施設の利用を禁止した。理由は獣人族といると他の生徒に悪影響が出てしまうからである。授業だけはみんなと一緒に受けさせてもらえたそうだが果たしてそれが彼女にとって居心地の良いものだったかはだれが考えても結果は明白である。
唯一彼女自身に与えられたものは学園から少し離れた森の中の小さな一軒家である。
一軒家と言っても最初はとても人が住めるようなものではなく彼女一人で一から修繕したと言っている。
なので彼女自身今自分が住んでいる家はとても住みやすいと言っている。そこに関しては学院に感謝していると・・・
もしみんなと同じ寮にでも入れられたらと思うと、どうなっていたかわからないと彼女自身そう語っている。
実際ほかのメイド達の部屋はとても豪華だが寮と言うだけあってすぐ隣が自分と同じクラスメイトだったりするのだ。
彼女からすればそんなとこよりも森の中で一人で静かに暮らしている方が幸せなのだそうだ。
もともと獣人族の彼女たちは普段から森の中で生活し狩りなどをして生活している。なので逆に今の生活に関していえばかなり満足していると言っている。
そんな自身のことを嬉しそうに話す彼女を見ていると、俺自身とても悲しくなってきた。彼女は笑っている。とてもつらい過去を話しているはずなのに笑っている。多分それは俺に自分のことを少しでも知ってもらえるからなのだろうなんて健気な子なんだ。
そんな彼女だから俺は守りたくなる。俺の全てをなげうってでも・・・
気付けば俺は彼女を抱きしめていた。はたから見ればこんな広く長い廊下でこいつら何やってんだ?となるところだが今はそんなの関係ない。
俺は今にも消えてしまいそうだった彼女を必死に抱きしめていた。この腕をほどくと彼女が消えてしまいそうで怖かった。
最初から感じていた、笑顔を絶やさず気丈に振舞い時には泣いて甘える、そんなどこにでもいるような普通の女の子でも時折感じた彼女が放つ独特の雰囲気、美しいようで儚く綺麗なようで儚い今にも消えてしまいそうなそんな彼女だけが放つ雰囲気。
今もそう俺自身感じただからとっさに体が動いた。彼女を失わないように。
そんな俺に彼女はとても焦っていた。
「い、いきなりどうなさいましたか誠様。」
「あ、あのさすがにこんな、まだ日も沈んでいないうちからなんて、ですが誠様が望むのであればルアはいつでも準備はできています。」
ん?なんだか変な誤解を生んでしまった。俺は慌てて彼女の誤解を解くために彼女から離れた。
「ちち、違うよそういう意味でしたのではなく、ただ、なんというか君が消えてしまいそうだったから。悲しそうだったからで、決してやましい気持ちなど微塵もなく、いや、ちょっとはあったかも・・・」
「とりあえずいきなり抱きついたりなんかしてごめん!!」
俺が慌てて弁明の言葉を言うと彼女は笑いながらこう答えた。
「またルアは誠様にご心配をおかけになっていたのですね。本当に申し訳ありません」
「いや、別にルアが誤ることじゃないよ。それにさ俺は俺の大切なルアに対してひどい仕打ちをしてきた人たちと学園が許せないかな。」
「だからルアは何も悪くないよ。」
そうルアに微笑みかけた。そしたら突然ルアが俺に抱き着いてきた。
今度は俺がキョドル番だった。
「え、ちょ、ルアいきなりどうしたの。」
俺は心臓の鼓動を落ち着かせようと必死だった。
そしたらルアがこう答えた。
「すいません少しだけご無礼をお許しください。」
「わかったよ」俺は一言そう言ってルアを抱きしめ返した。
「私のために怒ってくれた人なんて今までいなかったから、それに今にも消えていしまいそうなのは誠様の方です。」
「初めて会った時からそうでした。」
「誠様は初めて私に微笑みかけてくださいました。初めて守ると言ってくださいました。誠様は勇者でこれからは先程のお言葉通りどんどんお強くなっていくと思います。」
「ですから私はそれが当たり前なのだと感じていました。他の勇者と同じようにそれが当たり前なのだと、しかし間違っていました。」
「確かに誠様は勇者です私にとっては英雄です。しかし誠様も私と何も変わらぬ一人の人間なのです。」
「だからこそこの私がお支えしないといけないというのに、ダメですね私は誠様に甘えて支えられて、これじゃどちらかメイドかわかりませんね。」
「あ、誠様は男性ですから執事ですか。」
そう冗談っぽく彼女は笑った。そして一言。
「誠様どうか私の前からいなくならないでください。私をずっと誠様のお傍においてください。誠様のためなら私はどんなことだって受け入れます。どんなことだって致します。だからどうか・・・」
彼女は必死に訴えかけた。
俺はそのとき思った。我ながらなんて単純な奴だろう先程会ったばかりだというのに彼女のことをこんなにも愛してしまっている。
気付けば俺はその先を彼女に言わせないために自身の唇で彼女の唇をふさいでいた。
そして彼女に告げた。
「俺は君が好きだ愛しているさっき会ったばかりでこんなこと言うのは可笑しいとわかっているけど自分の気持ちに嘘はつきたくない。だから俺を信じて、君の目の前から消えたりしないし今よりももっと強くなって君を守り続けると誓うよ。」
その答えに彼女は「私は奴隷です獣人族です人間ではありません。それでも愛してくれますか?」そう問い返してきた。
答えは決まっている。
「もちろんだ!」
俺の答えに彼女は満面の笑みを咲かせた。
そしてもう一度俺と彼女は唇を重ねた。
廊下の陰から一人の少女が見ているとも知らずに・・・




