再会
全校集会は中止、私とヒロイン由利子は先生に応接室に連れていかれた。
「あなた、どうしてこんなところにいるの」と話を聞く。
私が死んだあと、由利子は何もする気が無くなり家に引きこもっていたらしい。
仕事人間の夫は大した料理も出来ず、カップラーメンやコンビニ弁当を食べ、
それにも飽きて、お菓子等を適当に食べてだらだら過ごしていた。
お母さんのご飯が食べたい…と呟いた時に、机の上に放置していた乙女ゲームが光った気がした。
久しぶりにやってみようかな~と思って乙女ゲームを始めて、名前を入れたら
次の瞬間に、乙女ゲームの主人公に転移していたらしい。
せっかくなので乙女ゲームの主人公としてイベントを消化していたら、
悪役令嬢アシュリー、つまり私に出会って叱られた。
私に叱られる度に、亡くなった母に叱られた事を思い出して
私に会いたくて行動していたら、エドワードルートを進んでしまったという。
「あの階段で倒れていたのはどうしたの?」
「お腹がすいて倒れてたの。エドワード殿下に何度も説明したのに話を聞いてくれなくて…」
私は前世、娘のしつけを失敗したらしい。
先生の許可を得て、私は由利子を公爵家に連れて帰った。
公爵家には、私の趣味で和風の食材を揃えている。
たまに作る日本食は父もお気に入りだ。
料理長の許可を得て、2人でキッチンに並ぶ。
由利子に一つ一つ教えながら作らせる。
メニューは米飯と豚の生姜焼きと味噌汁と酢の物だ。
お米をといで水につける。
いりこを湯につけてだし汁を取る。だしの素があれば楽なんだけど…そこまでは無い。
肉と野菜を切る。
酢の物の野菜を軽く塩もみする。
生姜焼きの豚肉をたれにつける。このたれ、醤油、みりん、おろし生姜の他に玉ねぎとニンジンとニンニクをすりおろしたものを混ぜるのが我が家の味付けだ。
土鍋でお米を焚いて、豚の生姜焼きを焼く。
だし汁に短冊に切ったニンジンと食べやすく切った玉ねぎを入れて火にかける、煮立ったら火を止めて味噌を溶かしいれて刻んだ小ねぎを入れる。
酢の物用の野菜の水を軽く切って、酢を適量入れる。
作った食事を母も一緒に食べると言い出した。
現世の母と前世の娘と共に食卓を囲み、前世の娘が作った料理を食べる。不思議な空間だ。
由利子の作った料理は美味しかった。
エドワード殿下が「由利子を返せ」と馬車でやって来た。
「どうする?」と聞くと「エンディングを終えたら元の世界に戻れると思うから行く」と言い出した。
賭けである。そもそもなんでこうなったのか、神ならぬ身にはわからないのだから。
「由利子、これだけは覚えておいて。レシピ帳は食器棚の引き出しの中よ」
由利子はうなずいた。




