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青と蒼  作者: みつる
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朝起きると私はすぐに日めくりカレンダーの日付を確認した。4日時間が飛んでいた。もう一人で抱え込むには限界だった。涙が頬を伝う。今回で3回目だ。飛ぶ時間はバラバラだったけど、その間の記憶は無くって学校が億劫になった。自分の筆跡で書いてあるノートも私の知らないことを当たり前のように喋りかけてくる友達も全部が気持ち悪い。心配されるだろうけど、もう母に相談するしかない。私は階段をゆっくりと降りる。朝食はもうできているようで、いい匂いがこちらまで届いてくる。なんて言えばいいんだろう?最近記憶が無くなるんだけど、どうしたらいい??軽い感じで言ってみようか。


食卓に行くと、なぜか私の好物ばかりが並べられていた。急なサプライズにびっくりした。誕生日でもないのに、どうしたというのか!

「なんで朝からこんな豪華なの?今日なんかあるの?」

私が何気なく言った言葉に、母がとても悲しそうな顔をした。まるで故人を偲ぶような。私はその表情を見て自分が失敗したことをすぐに悟ったのだった。

「・・・昨日の残りでしょ。早く食べて片付けちゃって痛んじゃ勿体ないし」

母が私に背を向け、そんなことを言う。そして、そのまま台所に向かっていく。さっきの悲しそうな表情を私に見せないように無かったことにするように。

「お母さん」

私は母を呼び止めた。ピタッと母は止まったのだけど、こちらに向き直る様子はない。今、母はどんな顔をしているのだろうか?

「どうしたの?」

「私、病気かもしれない」

「どうしたの?急に。とりあえず食べちゃって、食器片付けられないじゃない」

最後の方は声がかすれていた。母はたぶん知っている。知って私に隠そうとしてる。

「昨日・・なにがあったの?どうしてご馳走なの?」

「青。まだ台所に残りがあるから運んでよ」

母は私の質問に答えない。答えたら隠したかったことがバレてしまうから。嘘をついて私が騙されてしまえば、もっと悲しくなってしまうから、答えられない。

「お母さん」

泣いてしまいそうになるのをぐっとこらえる。続く言葉が上手く出てこない。私はおかしくなってしまったのだろうか?

「青。こっちに来なさい」

「なんで?」

「運ぶの手伝って欲しいから」

私は母の言いつけどうり動くことにした。少しでも普段通りを装いたかった。母が隠そうとしているならば私は知らない方が良い。だけど母の近くに来たとたん、いきなり抱きしめられた。とても力強く、私と顔を合わせないようにして。

「食べたら病院に行きましょう。もう大丈夫だから」



心療内科からの帰り、夕暮れの道を母と手をつないで帰る。この年になって母と手をつないで歩くなんて恥ずかしいけど、心が安らいだ。

「青さ、車にはねられた時の事覚えてる?」

人が安らいでる時に唐突に思い出したくない想い出を掘り起こされた。

「思い出したくないくらい覚えてるよ・・」

「うん。私も思い出したくないけど忘れられない。ちょうどこんな夕暮れだったよね。青が何考えてんだか道にフラフラーって出て行って、あっ・・てなった瞬間に目の前から青が消えて車が出てきて!もう頭、真っ白になっちゃった(笑)」

「笑い話だっけ?・・その想い出・・」

「で、青がゴロゴロ転がって、私は時間が止まったみたいになちゃって!そしたら青がむくって立ち上がって、こっちきて、お゛が゛あ゛ぁぁぁさ゛ぁぁんって(笑)」

「そうだったねー(半笑)」

「もうどうしたらいいかホント分かんなくなちゃって、あせちゃって、とりあえず、しからなきゃ!ってなって、危ないでしょ!って青をおもいっきりビンタしたよね(笑)」

「うん・・・そうだったね(遠い目)」

手をほどきたくなってきた。でも、母はとても強く握っていて離せそうにない。

「もー青ギャンギャン泣いちゃって、私も安心したら泣けてきちゃって、二人で泣いて、青をはねた人に病院まで送ってもらったのよね」

「そうだったね。しばらく車もお母さんも怖かったもん」

「忘れたくても忘れられないよね」

「うん。。きっと大丈夫だよ」

そう言って、私も母の手を強く握り返した。あの時のビンタが今になって効いてきてるんじゃないって言おうとしたけど、空気読めてなさすぎかな?ってなってやめておいた。

母にお願いして、日記を買ってもらった。今日あったこと明日あること、一日でも少しでも覚えていたかった。夜寝る前にその日あったことを日記につけて私は眠りにつくことにした。明日の私が困らないように頑張れるように少しでも怖くないように。


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