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第五話 【棘】

 パットの解呪ディスエンチャーントは城の中庭で行われることになった。

 我が国の呪術師エンチャンター200人が総がかりで挑む。


「もう、みんな嫌いよ・・・。」


 解呪には希望者のみをつのって欲しい、そうアイリスは大臣に懇願した。

 だが、誰一人として拒む者はいなかったのだ。


「アイリス、お前はこの国にとって救世主なのだ。お前のためになるのであれば、死ぬことですら名誉だと考えているのだ。」


「バカよ、みんなバカなのよ・・・。」


「そんな馬鹿ばかりのこの国が、俺は好きだ。」


「・・・もう! 私はルーファスが一番嫌い!」


 そう言ってアイリスは、つんと顔をそむけた。

 そしてパットの元に行き、彼の頭をなでくり回した。


「パットが一番かわいい!」


 パットは何のことか分からず、きょとんとしている。




「つまり、パトリック殿の体から悪魔が現れ、攻撃してきたと言うわけですな?」


 大臣と高位魔導士ハイ・ウィザードたちが、呪いについてアイリスと話をしている。


「そう。上半身だけだったけど、武器を振り回してきたわ。」


 高位魔導士たちが一斉に驚きの声をあげる。

 呪いは普通、呪われた者の自由を奪うものである。

 だがパットにかけられた呪いは、呪術者自身が乗り移ってくるものなのである。


「失われた太古の呪法、古代高位呪詛霊術ハイ・アナーサムに間違いないでしょう。」


 声のほうを見ると、一人の少女がパットの両耳に手を当てながら魔法をかけている。

 身長150センチほどで、黒髪が腰まで伸びている。

 そう、俺はこの少女を良く知っている。


「ルイッサ、戻ったのか。どうだ、分かるか?」


「ええ、ルーファス。使われている言語そのものすら、もうこの世には残っていないという呪法です。さすがは悪魔といったところでしょうか。ただ、武器を振り回したというのが引っかかりますが・・・。」


 ルイッサは一瞬でこの呪いを解析したようだ。

 そこへアイリスが目を丸くしながら割り込んできた。


「え? え? ルーファス・・・、え?」


「そうだアイリス、紹介しよう。彼女が王宮呪術師ロイヤル・エンチャンターを束ねるルイッサ・クリスタル魔導士長だ。」


「え? え?」


「ご挨拶が遅れまして申し訳ありません、アイリス様。パトリック様の体内に巨大な妖気を感じましたので、それで調べておりました。見たところ、どうやら封印は6つあるようです。しかもそれぞれを別の悪魔が守護しています。」


「え? え?」


「大丈夫だ、アイリス。ルイッサの言うことは信頼していい。まだ若いが、彼女の頭の中にはこの世にあるすべての魔導書の知識が詰まっている。いわば、魔法の字引じびきといったところだ。」


「そうじゃなくて!! この子、いったい何歳なのよっ!?」


 それが聞きたかったのか。

 俺の代わりにルイッサが答えた。


「わたくしですか? ええと、先月で13になりました。」


「えーーーーーーっ!?」





「そんなに落ち込むな、ルイッサは特別だ。」


「だって私より3つも下なのに魔導士長なんかやってるし、ダリル叔父様ですら分からなかったことを一瞬で見抜いたし・・・。」


 アイリスはがっくりと、うなれている。


「はぁ・・・。」


「お前には俺をはるかに上回る剣の腕があるじゃないか。」


「なんかそれじゃ私が筋肉バカみたいじゃない!」


 いつの時代にも「神に愛された」、いわゆる寵児ちょうじという者は存在する。

 アイリスも、ルイッサも、その一人であることに間違いはない。

 もっとも、ルイッサの場合は―――。


「来てくださいませんか、アイリス様。ルーファス、あなたも。」


 大臣たちと共にパットを調べていたルイッサが深刻な顔をしている。

 パットの体はルイッサの魔力の影響で青く光っている。

 ルイッサは呪文の詠唱に入った。 


「シャマイムを流れる炎の大河よ、全てを見通す赤き果実をここへもたらせ! 天界守護光フォビドゥン・レイ!」


 白い光が放たれると同時にパットは目を閉じた。

 催眠トランス状態に入ったようだ。

 そしてパットの体は宙に浮き、うつ伏せの状態で3メートルほど上昇して止まった。


「やめて!? パットに何をするの!?」


 アイリスは慌ててルイッサに詰め寄るが、ルイッサは魔力の放出をやめない。


「・・・アイリス様は、この事実を受け入れねばなりません。」


「え?」


 パット自身に異変が起こったのはその時だった。

 目もくらむような白い光が辺りを照らし、そして一瞬でかき消えた。


「・・・アイリス様。これがパトリック様の、真のお姿です。」


 誰もが息を飲んだ。

 パットの姿は無かった。

 我々の眼前に浮かぶのは、いばらで全身を覆われて血まみれになっている青年であった。


「ああ・・・、ああ、そんな・・・。」


 届くはずの無い手を青年に伸ばしたアイリスの額に、青年の血がしたたり落ちた。

 我に返ったアイリスが悲痛の叫びをあげる。


「兄さん・・・、いやぁあああああっ!!」

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