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第三話 【命】

「ブルーノ、チャド、リッキー・・・。お前たちの笑顔は、もう二度と見られないのだな。」


 兵団を引き連れて戻ってきたカイル達と一緒に、俺は兵士の遺体を荷馬車に乗せた。

 勇敢な英雄たちの亡骸なきがらを城へ持ち帰り手厚く葬る。

 それが彼らにしてやれる、俺たちからのせめてもの手向たむけだ


「ごめんね、ごめんね。私がもっと早く来ていれば・・・。」


 女性魔導士(メイジ)の遺体の前で、アイリスが涙を流している。

 恐らく入隊したばかりの新人なのだろう。

 歳はアイリスと同じくらいか―――。

 嫌な世の中になったものだ。

 俺はアイリスのそばに行き、声をかけた。


「・・・アイリス、彼女のために泣いてくれてありがとう。」


 アイリスは俺の胸にしがみつき、声を出して泣いた。

 俺にはその体を抱きしめてやることぐらいしかできなかった。

 思っていた以上に小さく、か細い体だった。


 巨大な竜を一撃で葬る剣士。

 しかし彼女はそれ以前に、1人の「少女」に過ぎないのだ。

 花をで、野イチゴをむ。

 本来は、そうであるはずだ。


「借りが出来たな、アイリス。この命、好きに使ってくれ。」


 アイリスが顔をあげて俺を見た。

 悲し気な顔をしていた。


「・・・だめよ、ルーファス。」


 アイリスは俺から離れ、向こうを向いた。


「あなたは死んじゃだめ。」


 そう言うと、アイリスはまたこちらに向き直り、俺の胸を指でつつきながら言う。


「おじさんのくせに、こんな可愛い少女を抱きしめられたのよ? 死ぬなんてもったいないでしょ?」


 いたずらっ子そうな笑顔がアイリスに戻った。






 しかしなぜ、竜が?

 棲み処(すみか)を荒らしたというならともかく・・・。

 あり得ない、ここは歴代の王族が儀式として長年使ってきた地だ。

 まるで、姫の成人の儀を狙って現れたようだ。

 何か引っかかる―――。


 ガーランド王城へ帰還した俺は、アイリスたちをカイルとマイルズに預け、王の側近である大臣に報告をした。

 すぐにでも国王に引き合わせたかったが、謁見の間に入る以上、ドラゴンスレイヤーの帯刀許可が必要だったからだ。


 国王のレスター三世は幸い無傷で、俺の無事を心底喜んでくれているそうだ。

 ケガを負ったセシリア姫は休養を取っているが、命に別状はないという。

 あいつらの死は決して無駄ではなかったのだ。


 アイリスとパットの話には大臣も驚き、すぐに手配をしてくれた。

 どうやら光の剣技もドラゴンスレイヤーも、国王とは昔から何らかの繋がりがあるらしい。

 俺はアイリスたちを迎えに戻った。




「婚約者のこと、すごく愛していたのね。」


 騎士団の部屋の前にアイリスはいた。


「・・・マイルズか。相変わらずおしゃべりな奴だ」


「みんなもパトリシアさんのことが好きだったみたいね。優しくて綺麗な人だったって。」


「・・・十年も前のことだ。」


「私とほとんど変わらない年なのに、その十年たった今でも、みんなにあれだけ好かれているなんて・・・。けちゃうなぁ。」


「過去の話だ」


「でも、忘れられないのでしょう?」


 パトリシア―――。

 ああそうだ。

 この十年、一度も忘れたことなどない。

 俺はこの十年、パトリシアの仇を討つためだけに生きてきた。

 全てを捨て、ただそのためだけに剣技を磨いてきた。


「仇は誰なの?」


 俺の目の前でパトリシアは殺された。

 奴は彼女を捕らえ、引き裂いた。

 奴は、奴の名は・・・。


「・・・破壊王ハルファス。」


 その名を聞いたアイリスの表情が硬くなった。

 ハルファスと何か因縁があるのだろうか。

 しばらく考え込んでから彼女は言った。


「いいわルーファス、あなたの命をちょうだい!」

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