第十話 【爆裂】
「口の減らぬ小娘だ。光の一族とはいえ、しょせんはガキ。このハルファスの敵ではないわ!」
「ガキですって!? もう、あったまきたわ!!」
アイリスが正面から斬り込む。
速い―――。
神剣グラムの青い光が残像となって美しい円を描く。
上段斬り、袈裟斬り、横薙ぎ、逆袈裟・・・。
ハルファスは2本の魔剣で対抗するが、防ぐのがやっとのようだ。
「アイリス、俺の分も残しておいてくれよ!!」
俺はハルファスを挟み込むように、ヤツの背中から斬り込んだ。
どちらか片方の魔剣を封じれば勝てる。
「こ、こしゃくな・・・!」
その時、上空から無数の衝撃弾がハルファスの背中めがけて飛んできた。
ルイッサたち魔導士団の魔法攻撃だった。
浮遊の魔法で浮かび上がり、空から攻撃しているのだ。
「ちょこまか逃げられなくなったのは、ハルファス、あなたも同じのようですね。」
「おのれ!! 邪魔臭いハエだ!! 先に叩き落としてくれる!!」
ハルファスは近くにいた少女魔導士たちに狙いをつけた。
炎の剣の先端に火球が生じ、それが3メートルほどに膨れ上がった。
「むっ、いかん!? 避けるんだ!!」
くそっ、俺のところからでは救いに行けない!
俺は捨て身で皇龍殲滅斬を放ったが、ティルフィングの横薙ぎで返り討ちに遭う。
致命傷は避けたが、体に大きなダメージを負ってしまった。
「くはっ、間に合わないか!?」
炎の剣から轟音とともに巨大な火球が放たれた。
「そーれ、劫火爆裂熱球!!」
巨大な火球が魔導士たちめがけ、高速で飛んでいく。
少女たちは恐怖のあまり体がすくみ、逃げることさえできないようだった。
万事休すか。
「やらせない!!」
アイリスだった。
高々と跳び上がった彼女は、神剣グラムで火球を真っ二つに斬り裂いた。
だが、次の瞬間―――。
「え・・・?」
二つに裂けた火球が激しい爆発を起こした。
咄嗟に魔導士たちをかばったアイリスが炎に包まれ、そして墜落する。
「アイリスーー!!」
「アイリス様!?」
ハルファスが高らかに笑う。
「ワハハハハ、それは爆裂球よ!! どうだ、火の神イグニスの炎は熱かろう? ワーッハッハッハ!!」
命を救われた10人ほどの少女魔導士たちが、泣きながらアイリスのもとに駆けつけた。
ひどい火傷を負っていることが、ここからでも分かる。
「神官!!」
神官クラスの治癒魔法が必要と判断した俺は神官たちを呼んだ。
このままではアイリスの命が危ない。
だが神官のいる位置はハルファスを挟んで反対側だ。
「間に合うか・・・!?」
事態を察した少女魔導士たちが、一斉に治癒呪文を唱え始めた。
良い判断だ。
それぞれの治癒能力が低くとも、複数でかかれば少なくとも延命させることは出来るに違いない。
「そうはさせぬ!!」
ハルファスが少女たちに向かっていく。
しかし彼女らは微動だにせず、呪文の詠唱を続けている。
アイリスのために命を捧げる覚悟なのだ。
「待て、ハルファス!! お前の相手はこの俺だ!!」
死なすわけにはいかない。
もう、ただの一人も―――。
俺は悪魔に斬りかかった。
「ほう・・・。貴様、ティルフィングを食らってまだ立てるのか?」
俺の連撃を2本の魔剣で防ぎながらハルファスは言う。
「面白い!! どちらが真の二刀流使いか、ここで証明してやろう!!」
明らかに分が悪い。
そもそも炎の剣の一撃を防げないのだ。
しかし勝つ必要もない。
ドラゴンの時と同様に、アイリスが回復するまでの時間を稼げばいいのだ。
「ハハハハ、逃げ回るだけでは俺を倒せぬぞ!?」
露骨な時間稼ぎは危険だ。
アイリスを狙われては元も子もない。
近づいてくるハルファスに向け、俺は遠間から奥義を放った。
「剣王流奥義、地龍疾走破!!」
両手の剣から放たれた衝撃波が大地を走る。
リーチの短い剣から放てる、数少ない遠距離奥義だ。
「狙いは良いが・・・ふんっ!!」
ハルファスは炎の剣を大地に突き立てた。
俺の放った衝撃波は弾かれて消えてしまった。
「炎の剣とやり合うには、ちと貧相な剣だ。では魔剣の衝撃波を見せてやろう、地龍疾走破!!」
俺と同じ技を!?
衝撃波がデカい、俺の3倍以上だ!!
「ぐおおおおおおっ!?」
両手の剣で防御したが、とてもこらえきれない。
剣は2本とも粉々に砕かれ、俺の体も吹き飛ばされた。