第一話 【光の剣士】
「ここまでか・・・。」
真紅の羽を持つ巨大なドラゴン。
それが洞窟の中を飛びまわる姿を見て、俺はそうつぶやいた。
姫を守る際、王宮魔導士たちが命を賭して倒した個体と、つがいなのだろう
疲弊しきった我々に、猛り狂った魔物を倒す余力など残ってはいない。
今までの選択に間違いは無い。
カイルたちなら国王と姫を必ず城まで送り届けるはずだ。
そのために俺は別動隊を率い、竜を引きつけたのだ。
しかし竜は咆哮をあげながら、手当たり次第に洞窟を破壊している。
狂った竜の行動は読みにくい。
万が一、国王や姫の後を―――。
俺は副団長のマイルズを呼んだ。
「俺が風上から竜に斬り込む。お前達は馬で国王の護衛に戻れ。」
50メートルもの巨躯を誇る炎竜は、鋼鉄の剣をも弾き返す強固な鱗を持つ。
そもそも人間に倒されるような存在ではないのだ。
危険な存在でありながら、どの王国も討伐に乗り出さない理由がそれだ。
部下たちの剣技では、かすり傷一つ与えられない。
他に選択肢は無かった。
「・・・ルーファス団長、ご武運を!」
一瞬ですべてを悟ったのだろう。
2メートルもある巨漢のマイルズは、見たことのないほど見事な敬礼をしながらそう言った。
俺はドラゴンの前に躍り出た。
奴は気付いたが、威嚇すらしようとしない。
自分は強いという、絶対的な自信があるのだろう。
恐るべき速さで迫るドラゴンの口から、黒煙があふれている。
ファイヤーブレスを放つ気だ。
そっちが竜族最大最強の技を出すつもりなら、こっちも奥義で迎え撃とう。
問題は、この足。
先の戦いで部下をかばってできた傷だ。
血がふき出している。
奥義に耐えられるか。
「翼の一枚でもいい、せめて、お前の機動力だけでも奪い取る!!」
勝てるはずはない。
しかし、勝つ必要もない。
マイルズ達が城まで撤退する時間を稼げればそれでいい。
飛翔するドラゴンの口が開く。
喉の奥が燃えているのが分かる。
3000度に達するその火炎は岩すら溶かす。
やはり俺はここで死ぬようだ。
心残りはパトリシア、お前の仇を討てなかった。
俺は意を決して奥義を構えた。
その時だった―――。
「・・・光!?」
きらめく閃光が、そのブレスごと、巨大なドラゴンを真っ二つにした。
大きな地響きを立てて、巨体は大地に突き刺さった。
何が起こったのか分からなかった。
俺はまだ奥義を放ってもいない。
「危なかったわね。」
気が付くと、目の前に少女が立っていた。
歳は16、7歳といったところか。
銀髪で、青い瞳をしている。
唖然とする俺をよそに、少女は怒った口調で続ける。
「まったくもう・・・。仲間を救っても、自分が死んだら意味が無いじゃないの!?」
剣士の出で立ちをしたその少女の手には、身の丈ほどもある大剣が握られていた。
その剣は青く光り輝いていた。
いや、妖気を発している―――。
「・・・ドラゴン、、、スレイヤー・・・?」
そんなものは夢物語だ。
なぜこんな言葉が口をついて出たのか。
しかし、少女の反応は意外なものだった。
「あら、さすがは騎士団の団長さん、良く知ってるわね。」
少女は得意げに続ける。
「カッコいいでしょう? 『ブルーブレイズ』というのよ。あ、名付けたのは私ね?」
まさか、あり得ない。
竜殺しができる剣など、ただの噂に過ぎないはずだ。
しかし、現実に今―――。
「・・・それは君の剣なのか?」
「そうよ。」
「あの竜を倒したのも君か?」
「うん。」
「さっきの光は?」
「使ったのが光の剣技だからよ。あれは『光撃波導斬』という技。」
俺は言葉を失った。
光の剣技を使える一族は、十年前の大戦で死に絶えたはず。
仮にその生き残りだったとしても、華奢な少女の腕力で振るえるはずがない。
しかし竜を一撃で葬り去る剣技など、他には―――。
「どうしてここに?」
「あなたたちを追ってドラゴンが入っていくのを見たからよ。」
「君の名は?」
そう聞くと少女は、いたずらっぽそうな笑みを浮かべた。
「もう団長さん、質問ばっかりねぇ。」
これがアイリスとの出会いだった。