4. あり得ない勘違いをどうせよと
「乙葉、好きなのは分かるけどね。そんなふうにしつこくすると嫌われるよ」
お姉ちゃんが真剣な顔で忠告してきた。
いや、だから彼の趣味なんだってば! ちょっとビミョーだから言えないけど。
「お前、白鳥が好きなの?」
大地、石化の呪いは解けたんだね。あっ、表情筋はまだか?
「好きに決まってるわよねぇ。あんなカッコいい男の子、胸キュンものよ」
母よ、あなたからの『胸キュン』発言は痛すぎる。韓流の見すぎだな。
「乙葉は大地くんと付き合っているんじゃなかったのか?」
止めは父の爆弾発言。
「えっ?」
「はっ?」
「違えよっ!」
「違うからっ!」
「俺、他に好きな人いるし。それに、乙葉が好きなのは耕平先輩だと思ってた」
「は? 誰、それ?」
「狭山耕平。サッカー部二年の」
あー、あれか。茶髪ツンツンヘアの。
「それは愛里の好きな人! って、これは聞かなかったことにして下さい」
「そのくらい、俺にもデリカシーはある」
「大地からデリカシーなん……いえ、何でもありません」
「あぁ? ケンカ売ってんのか?」
「滅相モゴザイマセン」
「誠意がねえ!」
ピンポーン
「大地! 大地ぃ!」
玄関から大地パパの声がする。
「いつまでお邪魔しているんだ。恵菜ちゃんにデレるのもいい加減にしなさい!」
「えっ?」
「はっ?」
『恵菜』とは、うちのお姉ちゃんの名前である。
「うるせぇ、バカ親父っ!」
大地の顔は真っ赤で、お姉ちゃんはポカーンとしてる。
そうか、大地の好きな人って、お姉ちゃんだったんだ。
そういえば、昔っからお姉ちゃんの後をついて歩いて、抱きついて、胸に顔をスリスリと――?
「やだ。セクハラ」
私の口から思わず言葉が漏れる。
「お前、何考えてやがる」
「あんたが小学生の頃のセクハラ行為について」
「いくら俺でも、小学生でそんな妄想持ってねえよっ!」
じゃあ、どんな妄想を?
「だって、だから……恵菜姉ちゃん、いい匂いするから……好き……」
ますます、墓穴を深くする大地が不憫だ。
でも、いいなぁ。
駈くんも私に『好き』って言ってくれないかな。付き合うくらいだから、嫌われてはいないんだろうけど。
寝る前にメール入れておこうかな。
現実逃避している間に、しびれを切らした大地パパが家に上がってきて、大地と掴み合いのケンカになっている。
カオスだ。
とりあえず晩ごはん下さい。