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編集中10

今回は簪ともう一人のお話です。

《十一着目》


京都のとあるデパート。


その日、最新のヒットソングが流れる店内を、かんざしは軽快な足取りで歩いていた。


「給料も入ったし、

欲しいもの沢山買っちゃおーっと! 」


彼女は、先日店長―はかまから貰ったばかりの給料袋を握りしめ、福々とした表情を見せる。


そんなとき、


「お、嬢ちゃんじゃねーか。」


と彼女に、声をかける者がいた。


《十一着目 極道者(?)》


「こんなとこで会うなんて珍しいな。」


声をかけてきた男は、簪に向かってひらひらと手をふってみせる。

彼女はそんな男の姿を見留めると、表情を呆れ顔に直して、はぁ、と深いため息をついた。


「吸血鬼さんこそ、

ここでなにしてるんですか。」


そう、それは呉服屋の常連の吸血鬼だった。

彼は人に化けていたが、その見た目は翼と牙、瞳を除いて変化はない。


吸血鬼は簪の質問に、白い歯を覗かせながら、すたすたと歩み寄って、


「まぁ、ちょっと野暮用でな。」

と答えた。


対して簪は、

「誰のストーキングですか。」

と、どことなく黒い笑みを浮かべてみせる。


「いや、なんでそうなんのさ!

嬢ちゃんの中の俺のイメージって

どうなってんの!?」

吸血鬼は彼女の考えを必死に否定した。


が、それでも簪は、

「性犯罪者です。」

と、鬼の質問にきっぱりと答える。


いつもの正装ではなく、ゆったりとした私服を着た鬼は半泣きになりながら、

「ちょっ! 俺まだ刑務所に入るようなこと

してねーぞ!? 」

と簪の言葉にツッコむのだった。


「“まだ”ってなんですか、

今後する予定があるんですか? 」


「いや! ないよ! 」


そんなこんなの雑談の末、吸血鬼はこれ以上ありもしない罪状を並べられてはたまらないと、


「そうだ嬢ちゃん、

ここで会うのもなんかの縁だ。

適当に飯でも食いいこうぜ。

勿論、俺の奢りで。」


と簪に提案した。

簪は今の今までご機嫌斜めだったが、現金な彼女はその言葉にぴょこぴょこ跳ねて喜んだ。そして、思い付いたように言う。


「あ、ならもう一人もいいですか? 」


その言葉に、吸血鬼は呆れたような笑顔を浮かべながらも、


「ああ、いいぜ。

誰か友達と来てんのか? 」


と微笑ましそうに頷いた。

が、そんな和やかな雰囲気は

簪が

「いえ、友達じゃなくて………。」

といいかかったとき、背後から聞こえた


「おい、お前

わいの彼女となにいちゃついとんねん。」

という言葉で消滅した。


「みぎゃああああ!! 刺青いれずみ者ーーー! 」

吸血鬼はあまりの驚きに、悲鳴を上げる。


そんな鬼を見下して、屈強そうな男は

「覚悟はできとんのやろな、兄ちゃん。」

とゴキゴキ指を鳴らす。


「覚悟ってなに!? コンクリ風呂に入る

覚悟なら一生できる気がしねーよ!?

あんたどこの組の人間!?」

吸血鬼は腰を抜かしながら、

必死に男に質問を投げ掛けた。


その質問には、ヤクザ風の男の横に立っている簪が答えた。

「彼氏です。」


「まじでか!? 」

吸血鬼は冷や汗をだらだらと流しながらも、

「嬢ちゃん、そいつと付き合うのは絶対

よくねーよ!

俺が誰か紹介してやるから、そんな

ヤクザと付き合うのは止めとけ! 」

と必死に説得する。


が、簪は首を傾げた。

「え? 彼はヤクザじゃないですよ? 」


「刺青! 刀傷! 悪人面!

そいつはヤクザ以外の何者でもねーよ!

逆にヤクザじゃなかったら何なんだよ!」


「ケーキ屋さんです。」


「最早嘘臭さを超越して嘘だよ! それ!

そいつがメレンゲ作ってるとことか、

全く想像できねーもん!!

むしろ作ってるのは犯罪歴だろ!! 」


そこに、話題に上がっている彼も、

「なんや、失礼な兄ちゃんやな。」

と乱入した。


「そないわいの作ったもんが気になるなら

ほれ、ここにあるで。やる。」

そして、鞄からスッと小さな包み紙を取り出して、吸血鬼に手渡す。


「お、おう………。」

吸血鬼はおずおずと頷いてそれを受け取った。


包み紙の中身は、手渡してきた極道男の見た目からは想像もできない、可愛らしい見た目のカップケーキだった。


恐怖を醸し出す男は、包み紙を開けた私服の鬼に「くうてみろ。」と目線を飛ばした。


鬼は自分が喰われてはたまらないと、カップケーキに口をつけた。


「ぐふぅ!? 」

そして、悶絶した。

「なんだこれ! 材料なに使ったんだよ! 」

悲鳴を上げる西洋鬼。


それに対して、簪は真顔で

「あ、それ新作のニンニクケーキですね。」

と答えた。


「もろ俺の弱点じゃねーか!! 殺す気か! 」

咳き込むストーキング常習犯。


そこに、かの男の声が入った。

「………なんや、うまないか? 」


男は嫌みではなく、素直にその質問をしているようだった。

しかし、魔界の犯罪者予備軍はそれには気づかなかったようで、


「いや、旨いわけねーだろ! 」


と精一杯の怒声を浴びせる。


ヤクザ風の男は少し黙った後、

「そか、じゃ、没やな。」

と頷いた。


「へ? 」

動きを止めて驚愕する鬼。


それに対して簪の彼氏は、落ち着いて言う。

「うまないケーキはいらんやろ。」

そして言うなり、吸血鬼が悶絶した際に落としてしまった包み紙を拾って、くしゃりとポケットの中につめた。


それでも疑問そうに見つめる鬼に、

男は少し言葉を付け足す。

「そないなもん作るくらいなら、

なんも作らん方がええ。

それがわいのポリシーや。


不味いもん食わせて

悪かったな兄ちゃん。」


それから、彼はそれを言い切ると、

簪に声をかけて彼はあっさりその場からさろうとした。


簪は、

「え、ちょっと待ってよ! カズくん!

あんなに頑張って作ってたのに!

それに、まだ………。 」

とヤクザ男―いやいや、粕田かずた足斗たるとに声をかける。


「ちょっまてよ!」

それに続いて鬼も言葉を投げ、

彼に駆け寄って、引き留めた。


鬼は言う。

「あんたの店の場所教えろや!

知り合い全員に宣伝してくっから! 」


そして、牢屋にギリギリはいっていない鬼は店名と場所を聞くと、それをメモ帳に走り書きして、飛び去るかのように、すぐに視界から消えた。


簪はそれを目にすると、

がっくりと膝をつき、


「まだ、奢ってもらってなかったのに! 」

と床を叩いて悔しがるのだった。


つづく

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