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前回の続きです。
《八着目》
「て~ん~ちょ~う~!」
声の主は当然、簪であった。
「あ、簪くん……。 」
袴はなんとなく身の危険を感じて、数歩後ずさる。
そして、案の定。
「買い出し如きに、
どれだけかかっているんですか!」
と胸ぐらを捕まれて怒鳴られるのだった。
「……いや、まだ十分も経ってな……。」
袴は簪に鬼の形相で睨まれながらも、必死に反論するが、
「二秒で買ってこいよ。」
と氷点下の笑顔で言われるのだった。
そして、
「なんて無茶苦茶な! 」
と袴は涙目にならざるを得なかったという。
とそこに、
「はっはっは! いい気味だな付紋袴!
ガキに言われたい放題じゃないか! 」
という空気を読まない、高笑いが響いた。
ちなみにその声の主は羽織である。
まぁ、その言葉はは簪のアッパーによって止められたのだけども。
《八着目 海の魔物その弐》
「なっ! 何しやがるこのガキ!」
羽織は拳を食らった顎を擦りながら、簪に掴みかかろうとしたが、その腕は簪に逆に掴まれ、見事に投げ技を食らうことになるのだった。
投げられた羽織が地面に仰向けに倒れながら、見上げると、
「誰がガキだって? 」
と般若の形相を浮かべた簪が見下ろしている。
実は、この「ガキ」という言葉は簪の地雷なのだ。
なぜなら、
「私は二十四歳なんだよ!
馬鹿にすんなよ、このチビが。」
ということである。
「チビって誰基準だよ!
俺、少なくともお前より背高いぞ!? 」
羽織は怯えて涙目になりながらも、必死にツッこむのだった。
それに対して簪は、
「男女を比べるのは不公平なので、
店長基準です。」
と羽織の手をぐりぐり踏みながら言った。
「痛い痛いって!
そのサンダル鉄でも入ってんの?! 」
羽織は踏まれていない方の手で必死にバシバシと地面を叩くのだった。
袴は苦笑いを浮かべながらその光景を遠目に見ていた。
まぁ、兎にも角にも、この一件は小豆アイスが簪の元に届いたことで、事なきを得る。
*
「ああ~生き返る~……。」
簪は片手にガラス製の器を、片手に木製の匙を持って、庇の下に座り、足を遊ばせている。
アイスを食べていても、かなり熱いせいか
セパレートタイプの水色の水着を着た、簪の肌にはポツポツと汗が浮かんでいる。
ちなみに、男性二人はというと……。
「簪くん、これならどうかな? 」
袴は、また焼きそばを美味しく焼こうと頑張っていたようで、焼そばの入ったパックを片手に、簪の前に立っていた。
で、羽織は、
「くそっ! 出しやがれ! 」
……首より下を砂浜に埋められ、ビーナスの、頭以外の砂細工を頭のすぐ横に作られているのだった。
簪は食べ終えたアイスの棒をゴミ箱に投げ入れると、袴の焼そばを受け取って一口。
そして、簪はにこり笑いかけてから、焼そばのパックを中身の入ったまま袴に投げつける。
そして、
「没、ビックバンあたりから出直してこい。」
という台詞と共に扇風機のほうへ歩いていった。
「地球誕生前からやり直せと!? 」
袴は地面に崩れ落ちる。
その崩れ落ちた横には羽織がいた、彼は必死にもがいても、抜けられなかったようで、砂だらけだった。
「くっそっ! 付紋袴め! 」
「いや、なんでさりげなく私のせいにして
るの!? 埋めたのは簪くんだよ!? 」
袴は、ポタポタとソースを頭から滴ながら全霊でツッコむのだった。
そんな砂だらけの一人と、ソースでベタベタな一人という、駄目な大人二人の前を、突然、人の群れが過ぎ去る。
彼らは口々に、
「ぎゃあああ! 化け物ーー! 」
と叫んでいた。
人の群れを目で追いながら、羽織は言う。
「おい、付紋袴、やばくないか?」
袴は冷めた表情で言う。
「大丈夫、何が来ても不機嫌なときの簪く
んよりはいいよ。」
「……あいつ早くクビにした方がいいぞ。」
袴の言葉に対して、羽織は憐れみを込めてそう言うのだった。
そして、そんな会話をしているうちに、目の前に大きな黒い影が迫っていた。
続く




