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《六着目》
ある日の夕方。
「拾っちゃいました。」
と簪が言った。
……尻尾が鎌になっている鼬を抱き抱えながら。
そして、そんな彼女に袴はにっこりと微笑んでから言った。
「すぐに捨ててきなさい。」
《六着目 鎌尾の鼬》
「えー!なんでですか!?
外は雨なんですよ!凍えちゃいます!」
簪は鼬を抱きしめたまま、袴との距離を詰める。
袴は素早い動きで簪の接近を避けながら、
「大丈夫だって、その生物なら!
というか君、それが何なのか分かってて言ってるの!?」
と声をあげる。
「これは鎌鼬です。
東北の伝承に出てくる妖怪で、つむじ風を起こして人を切り裂くといわれています。」
簪は一瞬の隙をつき、袴の背後をとった。
「何故に知ってて拾ってきたの!?」
袴は絶叫にも似た声をあげるのだった。
そんな最中。
「ちょいとちょいと、姐さんに兄さん、言い争いはお止めくだせぇ。」
という渋い声が響いた。
声の主は当然といえば当然、鎌鼬である。
暫し沈黙の後、簪が袴の方を見て言う。
「……なにこれ?」
「いや、君が拾ってきたんだよね?!」
袴は全力でつっこんだ。
その様子を見ていた鎌鼬はすっと自らの尾を自分の腹にあてて言った。
「お二方、今回はあっしの腹に免じて争いをお納めいただけはいたしませんか。」
袴は音速で鼬を取り押さえる。
「いただけねーよ!!
なんで話し方は極道調なのに、やることは武士なの?!」
「店長、指詰めもどうかと思います!」
簪も一緒になって小動物の自決をとめるのだった。
*
「で、お前はなんなんだ?」
袴が呆れ顔で聞く。
鼬は店の柱に括り付けられながら、
「あっしは、しがないながれの妖、
鎌鼬の《かま》と申します。」
と答えた。
それから、渋い声でとつとつと話を始める。
「あっしは仲間を探して、北の地からこの身一つでやって参りましたが、
なにぶん、田舎者でありましたので、
住み家もそうそう見つからず、食にも困り、この身尽きんとしておりました。
そこを、
姐さんに拾っていただいたのでございます。兄さん、どうか姐さんを咎めるのはやめてくださいませんか。」
袴はなにも言わずに鼬の話を聞いていたが、ため息混じりに言った。
「いや、どういう目的で此処にいるのかだけ答えてくれればいいから。」
「……。」
鼬はちらりと余所を見て考えてから、
袴に向き直り、真顔で言った。
「家と食を下さい。」
そして、袴は言う。
「着物に着替えて出直してきやがれ。」
そんな二人(?)の問答が繰り広げられる中。
唐突に簪が割り込んで、
おずおずと袴に言った。
「店長、やっぱりこれは動物虐待ですよ。
やめましょうよ。」
鼬は相変わらず柱に縛り付けられていて、
確かに動物虐待と言われても仕方がない状況である。
袴はうーむと顎に手を当てた。
「いや、自決されても困るし。」
悩む袴に簪は、
「え?だったらこうすればいいじゃないですか。」
と言って、スタスタと鎌鼬に近付き、尻尾の鎌の両端に手を添えて、
足を降り下ろし、へし折った。
「えっ!? ちょっ! なにしてんの!?
それ、さっきの比じゃなく動物虐待!!」
袴は光速で叫んだ。
そして、急いで鼬の側に駆け寄る。
「大丈夫か!?」
―返事がないただの屍のようだ―
「……………。」×2
暫しの沈黙の後、袴は
「還るべき場所に還してきなさい。」
と簪にスコップを差し出した。
「はい。」
簪はそれをすっと受け取ったのだった
鎌鼬のその後は今後描く予定です。
乞うご期待 (?)