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編集中4

五着目


その日、吸血鬼は袴の様子が気になって付紋呉服屋に立ち寄った。


(最近忙しそうだったし……体調崩したりしてねーといいけど……。)


そして、普段のとおりに店の引き戸を二度軽く叩いて、がらりと戸を開いて言う。

「やあ、元気にやってるかい? 袴の旦……。」


が、そこにいたのは袴ではなく、中学生くらいに見える少女だった。


「……は?」

吸血鬼は、絶句した。


《五着目 アルバイト》


「えーと…嬢ちゃんは……?」

吸血鬼はおずおずと少女に話しかける。


一方の少女は返事をする様子もなく、無表情にじーっと吸血鬼を見つめていたが、急に血相を変えて叫んだ。

「ば…ばばば…化け物ぉおおおお!!!!

誰かぁ!助けてくださいぃ!!!!」


「えっ、ちょっ!まっ!」

吸血鬼はあまりに突然の事態に困惑する。


が、少女は吸血鬼の制止を振り切り、店内を叫びながら全速力で駆け回った。


まぁ、それもそのはず、吸血鬼は普段、人前に出るときは人に化けているのだが、今日は袴に会うだけだと思っていたので、そのままの格好で来てしまっている。


そのため、彼の背には巨大なコウモリの翼が生えているし、獣のような牙も見えてしまっている。

……つまり、驚いて当然なのだ。


「じょ、嬢ちゃん! 一旦落ち着こう! な!

話せば分かるから!!

おじちゃん、なんもしないから! ね!」

パニクり過ぎて、実年齢が割れそうな見た目年齢二十代後半のキザ男。


まぁ、でも、

化け物に落ち着けと言われても無理な話で……少女は落ち着かなかった。

なので結局は、吸血鬼は説得を諦めて、少女の口を無理矢理にふさぐ。

「叫ばないで! 近所迷惑だから! ね!」


少女は涙目で抵抗するが、抜けられない。

吸血鬼が安堵したそのとき、


後ろから飛び蹴りが飛んできた。

「この犯罪者がぁああああ!!!!!」


勿論、言うまでもなく、その蹴りは袴によるものだ。


「ぐぼし!??」

吸血鬼は凄まじい勢いで床に叩きつけられた。


少女は吸血鬼の手を離れ、袴に抱きつく。

「店長っ!」


「大丈夫か、かんざしくん。」

袴は少女の頭に手を置いた。

そして、置いていない方の手で着物の袖からスマホをすっと取り出して、ピピピとボタンを押すと、耳元に持っていって、言った。

「あ、警察ですか? 今、家に変質者が…。」


「ちょっ、ちょっとぉおおお!?

旦那ぁああ?!」

吸血鬼は少女以上に涙目になりながら、袴の手からスマホを奪い取るのだった。


「で、この犯罪者予備軍さんは?」

少女が唾を吐き捨てながら言う。


「ちょっ!? 態度! 態度変わりすぎじゃね!?」

吸血鬼は最早泣いていた。


袴は少女に真顔で言う。

「ストーカーナルシーさんだ。彼は世界変態選手権の優勝候補なんだ。」


「なるほど。」

少女はこっくりと頷いた。


吸血鬼は速攻でツッこむ。

「違うから!! そんな如何わしい選手権ないし!

てか、嬢ちゃんなんで納得してんの!?」


で、今度は吸血鬼がマジ泣きしながら聞く。

「袴の旦那、その嬢ちゃんなんなんだよ。」


袴は少女と目を見合わせてから言った。

「彼女は昨日からうちのバイトに入った、

《玉結 簪(たまむすび かんざし)》くんだ。」


(アルバイト……!?

ってことはこの店に通ってるってことか!?)


吸血鬼は慌てて少女に言う。

「駄目だよ! このおっさんと一緒にいたら! 危ない宗教団体に入れられちゃうから!!」


これに少女は笑顔で答えた。

「心配ありません、もう入信済みなので。」


「手遅れだった……!」

吸血鬼は、床に手をつく。


簪は吸血鬼の反応を気に止める様子もなく、袴に目を移してイキイキと言う。

「このお店、変なお客さんが来るみたいですが、これからも精一杯頑張りますので、宜しくお願いします!」


「無視か!」

吸血鬼が吠える。


袴は簪の目をしっかりと見て笑った。

「簪くん、共に着物道の頂点を目指そう!」


「着物道ってなにさ!?」

吸血鬼は頭を抱える。


「はい! 師匠!」

少女はにっこりと笑い返した。


「だから! この人は見習ったら駄目な人なんだってばぁああ!!!!」

吸血鬼は、完全に蚊帳の外に出されていましたとさ。


続く

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