店じまい
今回はちょっとシリアス。
《二十七着目》
「上手くいかないなぁ………」
明かりの少ない町を歩く簪は、空を見上げて長い息を吐き、弱々しい声を上げる。
「今日も面接に落ちちゃうし、私の何がいけないんだろう? 」
呉服屋を辞めてから、嫌なことばかりだ。仕事は決まらないし、警察沙汰になりかけるし、仕舞いには問題行動があるとか、イカれてるとまで言われる始末。
簪にはそれが何故なのか全く分からない。
「あーあ、呉服屋に居たときは楽しかったなぁ」
店長なら絶対にそんなことは言わないだろう。
「帰りたい………」
思えば思うほど、足は呉服屋の方に向いていた。
《二十五着目 店じまい》
「えっ!? 」
歩いてたどり着いた場所に、彼女は驚愕する。自分は確かに呉服屋を目指して歩いて来たはずだ、なのに。
「どうして、無いの………? 」
そこに呉服屋は無かった。
ただ、そこにあるのは黒焦げになった木の骨組みの一部のみ。状況を飲み込めない簪に、怯えた様子の男性が駆け寄って来て、今すぐ帰るように言う。簪は彼の差し出した手を払って、聞いた。
「ここで何があったんですか? 」
彼いわく、昨日、ここでは火事があったらしい。そして、それは付け火で、犯人は小学生の少年だと男性は付け加える。
「まぁ、お姉さんの件もあるし、町の人達も味方するだろうから、小学生の子は軽い罪か、上手くいけば無罪だから安心していいよ」
簪は笑う男性に質問を重ねた。
「ここに住んでた人は………? 」
すると、男性は怪訝な顔をする。
「ああ、あいつか。さぁな、でも、死体は見つかってないし、何処かに逃げたんじゃないか」
彼の頭には、未来ある小学生のことしかないようで、店主のことは分からないらしい。簪はうつ向いて言った。
「そう、ですか。あの、私も直ぐに帰りますので、暫く放っておいてくれないですか? 」
男性は少しごねていたが、暫くするとそこを去った。一人になった簪は、無くなってしまった呉服屋を眺めて言う。
「………他人は冷たいですね、店長」
とうとう、自分の考えを認めてくれる味方は居なくなってしまった。彼女の目にはいつの間にか涙が浮かんでいる。
そんな時、簪の背後から聞きなれた声がした。
「あ、簪くんだ。何してるの? 」
「え? 」
振り向いてみると、声の主は確かに呉服屋の店主、袴である。彼はにっこりと笑って、此方に手を振った。
「いやぁ、なんか久々だね。どうしてた? 就職先決まった? 」
簪は思わず叫びを上げる。
「えええええ!? 店長、無事だったんですか!? 」
店主はいきなりの事に驚いて、バックステップを刻んだ。
「え、うん。全然無事だけど。なんなのその反応………。君的には死んでて欲しかったの? 」
簪はそんな店主の腹を叩く。
途端に押さえていた涙が吹き出した。
「そんな訳ないじゃないですか! 私を何だと思ってるんですか! 」
店主は泣きじゃくる簪に困惑しながらも、意見を言う。
「人が死んだら邪魔者が消えたって笑うタイプの人間」
簪は亜高速で、
「それ、ただの悪魔ですよ! 」
とツッコむが店主は、
「え、違うの!? 」
と逆に驚いた。
簪は袴に蹴りを入れてから、気になったことを聞く。
「それで、店長はどうしてここに? 」
袴は瞬きを幾つかして、
「ちょっと荷物を取りにね」
と曖昧に返した。
簪は、その言葉に質問を重ねる。
「どこか行くんですか? 」
店主はこくりと頷くと、
「吸血鬼がタダで場所を繕ってくれるみたいだから、ほとぼりが冷めるまで、魔界? で心機一転、やり直そうと思ってるんだよ。」
と今度は丁寧に答えて、簪に提案をした。
「そうだ、君も来る? まぁ、就職先が決まってなくて、粕田くんの許可が下りればだけど」
簪は一瞬固まるが、直ぐに笑顔になって答える。
「はいっ! 行きます! 」
だが、そのまま行くと思いきや、そうではなく、店主はその返事を聞くと、柔らかい笑みを浮かべて、シャベルを簪の胸の辺りに届くように投げた。簪は思わず次の言葉に困る。
「て、え? これは? 」
店主は動揺している簪にグーサインと共に言った。
「ほら、荷物取りに来たって言ったでしょ? だから、掘り起こすの手伝って」
唐突な労働。
当然、簪は悲鳴を上げる。
「ええ!? いきなり仕事ですか! というか何をどこで探せばいいのか分かりませんけど!? 」
「中に着物入った桐の箱が、敷地内に埋まってる、はず! 」
「敷地内の何処ですか!? 」
「………忘れた! まあ、敷地内全部探せばいい話じゃん。楽勝だね! 」
「いや、結構広いじゃないです! 」
「大丈夫、深さは1メートルくらいしかないし。30センチくらいの箱だから」
「しかも深っ!! そして、箱小さっ! 」
文句をいいながらも探す二人。
こうして、今日も呉服屋は平和です。
《つづく?》
字下げが出来てない? これも怪異の仕業? いいえ、作者のせいです。やり方が分からぬ。
次回はおまけを作りました。
魔界でもなにかが起こる?




