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蝙蝠は電脳を舞う

今回は吸血鬼回!

ネット利用で何かが起こる?

《二十六着目》


「きゃあ! 助けてぇ! 」


大鬼に追われ、逃げる若い女性。

過去の風情を色濃く残したこの街では、今日もこうして夜な夜な怪異が蔓延り、矮小な人間に襲いかかろうとする。しかし、そんな現状を知るものは極僅かである。なぜなら………。


《二十六着目 蝙蝠は電脳を舞う》


急に横から飛び出してきた黒いマントの男が、大鬼の顔面に蹴りを入れると、大鬼はその勢いで地面に上半身を叩きつけられた。


「たくっ、面倒なことになったな。」


驚く女性の前で、蹴りを入れた男はその白い髪を掻き分けながら大鬼の背中に乗り、ため息を溢す。女性は一瞬、その男が助けに来てくれたのではないかとも思ったが、そうではないらしい。彼の左手には白い買い物袋があり、とても戦いに来たヒーローには見えない。

そして、それに遅れて目の前に降りてきた不気味な獣人を目にすると、彼女は一目散にその場から逃げ出した。狼の獣人は頭を下げてマントの男に話しかける。


「申し訳ありません。こちらでも手を尽くしてはいるのですが、《門》の閉鎖が追い付かないのです。」


マント男、もとい吸血鬼はそれを聞いてため息をついた。


「だろうな。まぁ、予想はしてたし、そんなに気にすんな、顔あげろ。」


それでも獣人は暫く頭を下げていたが、吸血鬼が大鬼の上から降りてくると顔を上げて吸血鬼に聞く。


「………主様、そういえば、左手に持っておられるのは何ですか? 」


吸血鬼は「お、これか? 」と軽く袋を持ち上げて見せ、説明した。


「この中身は全部、ヤマ◯キのパンだ。今年こそはホワイトプレート二枚を手に入れて旦那に献上しねぇと、割りと本気で食事に誘って貰えなくなる。ほら、お前にも一斤やるよ。」


そして、言い終わると袋の中からパンを一袋取り出して狼男に投げる。狼男は慌ててそれをキャッチして、胸の前で丁寧に抱き抱えた。しかし吸血鬼は、


「ありがとうございます………。でも、主様ってそんなにパン好きでしたっけ? そんなに買ったら余りませんか? 」


と狼男に言われて、難儀そうに頭を捻る。


「そうなんだよなぁ。でも、捨てるとか性に合わないし………。」


そこに、後ろから声が響いた。


「ふははは! 魔王様から息子が使えない奴だとは聞いていたが、やっている事がまるで主婦じゃないか、こいつは聞きしに勝る阿呆だな! 傑作だ! 」


声の主は、先程吸血鬼に一撃で沈められた大鬼であり、彼はまだ地面に頭を擦り付けながらも、豪快な笑い声をあげている。吸血鬼はそんな大鬼の口に無言で大量のパンをぶちこみ、言った。


「お前、それ、その格好で言う? つーか、奥様なめんなよ。奥様方はセール戦争の猛者なんだからな? 」


「ウル、ちょっとスマホ貸せ。」


そして、ウル、と呼ばれた狼男が慌てて自分の毛皮を漁ってスマホを取り出し、吸血鬼に渡すと、吸血鬼はカメラを起動し、大鬼の写真を撮り、高速でスマホを操作する。


「これでよし、後はハッシュタグ一杯つけとこう。」


狼男がその様子を後ろから覗き見ると、そこには大鬼の画像と、


#怪異 #主婦の敵 #拡散希望 #パン祭り #ロイヤ◯ブレッドが好き


という謎のタグが陳列されていた。

狼男は「あ、これだめだわ。」と思ったものの、態々言うのもどうかと思い、後でタグ編集してアップし直そうと心に決める。だが次の瞬間、返信が届いた事で事態は急変した。


「お、返信。」


「え? 」


それは蝙蝠のアイコンの、「まおうたん」による返信で、内容はこんな感じ。


《なにこれ、めっちゃ草生えるw

思わずコラ画像作っちゃったから見てくれ。》


そして、その文章の下には、もとの画像に「俺は最後の一瞬まで、地面を嘗めるのをやめないっ! 」という文が追加され、貼られている。狼男は目を回して頭を抱えた。


「ああ!! ヤバい! ヤバいですよ! この《まおうたん》って、魔王様のアカウントです! どうしましょう、これが俺の書き込みだってバレたら………拷問!? それとも打ち首!? 主様、助けて下さい!! 」


一方で吸血鬼は冷静である。


「まぁ、落ち着けって。こういうときはこう返しときゃいいんだよ。」


彼は慣れた手つきで文字を打ち込んで、魔王に返信した。


《くそリプ乙》


それを見た狼男は遂に吐血する。


「なんで火に油を注ぎに行ったぁ!? 」


直後、新たに通知音が響いた。


「ああ! もうお仕舞いだぁ! きっと凄く怒ってらっしゃる! 」


狼男はもう怖くて画面に目を向ける事さえ出来ない。だが、吸血鬼はそんな彼に態々見えるように目の前にその返信を提示する。その返信の内容はこれ。


《(´・ω・`)》


狼男は血管が切れそうなほど叫んだ。


「ええ!? 落ち込んでらっしゃるの!? どういうことなんですか!? 」


「どういうことだろうか? 」


しかし、言いながらも吸血鬼は平然とコメントに返信する。


《でも、画像は面白かったから保存した。フォローもしていい? 》


そして、またすぐに魔王から返信。

コメントの一番上には「そう言ってお前は何枚保存して行ったぁ! 」という文字の入った画像が貼られていたが、その下には、


《おけ。フォロバする。》


と書かれていた。

吸血鬼は《まおうたん》をフォローして、スマホの電源を落とす。


「これで、よし。」


狼男は精神的なダメージで崩れ落ちて居たから、スマホを受けとれなかったけれど。今まで黙っていた大鬼はぽつりと呟いた。


「ロイ◯ルブレッド美味しい。」


「それな。」


吸血鬼は両手に銃の形を作って、大鬼に向け、同意すると、今度は続けて質問する。


「ああ、そうそう。お前ら、こないだの事件で見つかってない赤い靴はどうした? まじで見つかんねぇんだけど。」


すると、大鬼は大笑いしながらこたえた。


「ああ? 靴? 人間どもが新聞で騒いでたあれだろ。あれならあの人間を殺した鬼灯籠か、魔王様が持ってるんじゃないのか? 少なくとも俺はしらんぞ。 」


「つかえねぇな。」


吸血鬼はそれを聞くと、すかさず袋からパンを取り出して、再び大鬼の口にねじこむ。狼男はそんな様子を見ていたが、不意に空を確認し、吸血鬼に言った。


「主様、夜が明けます。」


声に反応して、吸血鬼も空を見上げる。

空はうっすらと白く、その端から眩しい程の光が顔を覗かせようとしていた。


「仕方ねぇ、帰るぞ。パンは、そうだな………養護施設にでも配るか。」


吸血鬼は手に持ったスマホでもう一度大鬼の写真を撮ると、町の暗がりへと歩き出し、人の姿に戻っている狼男もその後を追いかける。


その視線のずっと先、町の角に人影が見えたのは、気のせいか、はたまた………。



つづく。

狼男と言えば有名怪異ですが、活動可能が月1日(満月)のみって扱いずらいですよね。こんなときこそ毎夜運用可能な吸血鬼のありがたみを感じます………(笑)

そして、次回からようやく時間軸が戻るので、長い過去話もこれでおしまいです。お疲れ様でした。

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