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左目の獣

今回の主役も矢原!

明かされる新事実とは!?

《二十五着目》


「やはり俺の左目には秘められし力があったんだな! 」


呉服屋へと足を向けながら、矢原(やばら)は狛犬の御霊(みたま)に意気揚々と話しかけた。しかし、御霊の方はその後ろを歩きつつ、さして興味が無さそうに矢原に返す。


「いや、別に左目とは関係ないぞ。ただの霊感の類いじゃから。」


その答えに、矢原は露骨に不満気な表情を浮かべた。


「はぁ? 霊感があるってことは、俺が聞いた金剛の獣の声も真実だってことだろ。」


肥えた狛犬は、彼の言い分にやれやれと頭を横に振る。


「なわけないじゃろ。お主の主張は非現実的じゃ、馬鹿馬鹿しい。 」


「いや、お前も大概に非現実的な生物だからな!? 鏡見ろよ! 」


そして、矢原が反論すると今度は立ち止まって、何処からか取り出したポテチを口に放り込み、意味ありげに笑った。


「ふふ、わしも真実かどうか分からんぞ? お主の幻覚かもしれぬ。」


「幻覚がポテチ貪り食うわけねぇだろ! つか、なん袋目だそれ! 」


矢原はそれに気がつくと、高速で狛犬の前足からポテチの袋を奪い取り、自分の肩掛け鞄に放り込む。だが、狛犬は慌てるようすも無く不敵に言った。


「さぁのう? お主は今までに食べたパンの枚数を覚えておるのか? 」


矢原はその何処かで聞いたことがある様な台詞になんだかイラッとして、思わず掴みかかる。


「誰が過去全ての累計数を教えろって言ったよ!? 俺は今日一日のことしか聞いてねぇから! 」


すると狛犬は今度、こんなことを言ってきた。


「お主は昨日の夕食を覚えておるのか? 」


「それ、ただの認知症テスト! 」


これには矢原も頭を抱えるしかない。


《二十五着目 左目の獣》


まぁ、兎にも角にも目的地に辿りついたのだからよしとしよう。矢原は呉服屋の玄関前に立って周囲を見渡した。


「早く来すぎたか? 」


だが当然、真っ昼間なので飲食店でもないこの場所には怪異どころか、人もいない。狛犬は矢原のそんな残念そうな横顔に声をかける。


「いいや、丁度いい時間じゃよ。」


「………どういうことだ? 」


矢原は狛犬が何を言いたいのかよく分からず、首を傾げた。狛犬はクイズでも出すように説明する。


「ほれ、店からいい匂いがしておるじゃろ? 」


矢原が言われて鼻を動かすと、確かに店の方からは美味しそうな匂いがして、店内で何かをしていることが伺えた。しかし、矢原にはそれでも分からない。


「そういえばそうだな? でも、これ昼食の匂いじゃねぇの? 怪異となにか関係があるようには感じないけど。」


これがどうして自分の求める怪異に関係しているのだろうか。益々頭を悩ませる矢原に、狛犬は感心したような声を上げる。


「ほう、お主、勘がいいのう。そうじゃ、怪異とは全く関係ないぞ。 」


「は? 」


矢原は一瞬硬直した。

そして、彼が動き出す前に狛犬は店の引き戸を開け、


「おーい店主! わしじゃ、御霊じゃ、邪魔するぞぉ! 」


と店の奥に声を掛ける。

矢原はそこでようやく、狛犬の考えに思い至った。


「て、おい待てよ! まさか!? 」


そう、狛犬は、


「昼飯を食わせてくれぇ!」


昼食をねだりに来ていたのだ。


「やっぱりかよ! 」


矢原は店の戸を内側から勢いよく閉めて、大声で狛犬にツッコむ。

すると、店の奥の戸も勢いよく開いて、そこから現れた店主が手に持った何かを高速で狛犬に投げつけた。


「お前に食わせる飯はねぇ! 」


一瞬、石かと錯覚したが、飛んできたそれは白い大福である。狛犬は口を開くと、それを最低限の動きで受け止め、咀嚼(そしゃく)した。矢原は訳が分からず、


「いや、自分から食わせにいってるじゃねぇか! 言葉と行動が一致してねぇよ! 」


とすぐさま叫ぶが、そんなことお構い無しに、狛犬は矢原の隣で立ち上がり、自由になった両方の前足を使って、店主に手招きする。


「店主よ、お主、その程度か! 」


店主は、そんな挑発的態度の狛犬に舌打ちをしてから店の奥に消え、そしてすぐに元の場所に戻ってきた。


「この程度なわけないだろ! 呉服屋舐めんなっ! 」


怒声と共に店主の手から放たれる豪速球、否、豪速饅頭。それは次々に狛犬の口に飲み込まれていく。


「なにこの儀式! 知らないの俺だけ!? 」


この謎の餌やりは十分ほど続いたが、腹をいつも以上に膨らませた狛犬が店主に、


「ふっ、やはりやるな、店主よ。」


と笑い掛けるとそれは終了し、店主も狛犬に笑い返した。


「お前こそ相変わらず、いい食べっぷりじゃないか。流石は、肥満が加速度的に進行しているだけはある。」


言われた狛犬は店主に向かって鼻を鳴らして、矢原を片方の前足で指し示す。


「なにを言っておる、わしはいつでもスマートな守り神じゃぞ。その証拠に、見ろ、ハンターがわしのナイスバディをカメラで狙っておるわ。」


矢原は呆れながら呟いた。


「別にお前は狙ってねぇけど………。」


すると、店主はようやくそこで矢原の存在に気がついたらしく、声をあげる。


「あれ、君って前に来た、確か、《邪眼の貴公子》くんだよね? 久しぶり、例の病気は完治した? 」


矢原は左目を抑えて直ぐに反論した。


「誰がそんな中二病な名前名乗ったよ!? 矢原だよ、矢原木霊(やばらこだま)! 後、これは病気じゃなくて呪いだから! 」


しかし、店主はそれを聞くと益々白い目をして矢原に言う。


「ああ、うん、そうね。」


矢原は店主を指差して怒鳴った。


「なに引いてんだよ! お前だって御霊が見えてんだろーが! 俺と同類なんだよ! 」


それに茶々を入れたのは当の御霊である。


「いや、霊感があっても、『左目に宿る金剛の獣が~』とかは普通言わんから。というかそんなものおらんし。」


矢原は当然ながら腹を立てて、今度は両手を御霊の両脇に入れ、目線の位置まで持ち上げて睨み付けた。


「いるんだよ! お前らに分からないだけでな! 」


しかし、今度は前方から店主の声が飛んで来る。


「矢原くん、人はそれを妄想と呼ぶんだよ。」


「うっせぇな! 揚げ足の貴公子は黙ってろよ。」


腹を立てた矢原は、狛犬を地面に落として、必死で声を上げた。


「俺は本気で悩んでんだよ、この前だってこの目のせいで………うぐっ!? 」


「え? またこの下りやるの? 」


左目を抑えてうずくまる矢原に、店主は冷たい視線を向ける。しかし、矢原はそれを気にせず独白のように語りだした。


「ああ、《金剛の獣》よ、お前も奴等に怒っているんだな。分かるぞ、馬鹿にされて悔しいんだろう? 俺も同じだ、だから、お前の力を証明する為に、今こそ姿を見せてくれ………! 」


そして、驚いたことに言葉の後、彼の左目が輝き、何かが飛び出してくる。


「え? 」「は? 」


このまさかまさかの展開に、店主と狛犬は唖然とした。二人の目線の先には矢原の左目から飛び出してきた、鬼のような顔を持つ黄金色の獣がいる。獣は低い声で唸った。


「身の程知らずな人間どもめ………我が血塗られた爪の餌食にし。」


だが、拍子抜けなことにそのサイズは(ねずみ)ほどであり、ぶっちゃけ怖くない。顔を見合わせる店主と狛犬。

彼らは、二人で頷き合うと、狛犬は黒い霧と共にライオン程に巨大化して、その肥えた肉体を凛々しい神の使いに変え、店主は矢原の後ろに回り込んで腕で矢原の目隠しをする。


「ちょ! 何すんだよ!? 」


そして、矢原の声とほとんど同時に響く「ぶちっ。」という鈍い音と悲鳴のような鳴き声。店主による目隠しが取れた頃には、そこに金色の獣の姿はなく、赤黒い染みが床に残っているだけだった。


「あああ獣がぁ!! 」


叫ぶ矢原に店主は平坦な声で言う。


「獣? そんなものは居なかったよ。」


ついでに、元のサイズに戻っている狛犬もそれに続いた。


「そうじゃそうじゃ。ここにおる獣はビューティーでスリムなこのわしだけじゃし。」


矢原は、明らかに抹殺されてしまっている金剛の獣の方を見ながら歯を食い縛る。


「お前らどうゆうつもりだ! なんで殺したんだよ! 」


すると、店主と狛犬の二人は顔を見合わせて、同時にやれやれという手話をした。


「矢原くん、君はつかれてるんだよ。ゆっくり休みなさい。」


「店主の言うとおりじゃ。お前さんが見たのは幻覚じゃよ。」


どうやら、自分達の間違いを是が非でも認めないつもりらしい。しかし、その算段はすぐに崩れ落ちる。赤黒い染みがゆっくりと立ち上ぼり、それが元の獣の形を取り戻したからだ。復活と同時に獣は半分キレたように言う。


「貴様ら、何をするか! まだ我は喋り終わっていないぞ! 空気を読め! 」


そしてなぜか人外に常識を咎められた。

店主と狛犬は瞬時に臨戦態勢に入って、もう一度抹消を試みるが、その前に矢原が獣に声を掛ける。


「おお、金剛の獣! 生きていたんだな! これで俺の正しさが証明されて、十数年の苦悩の日々も終わる! 良かった! 」


………まさかその結果、自分の首を絞めることになるとは思わずに。金色の獣は矢原の方を見て言った。


「十年? なにを言っているんだ。我がお前に取り憑いたのは昨日の夜だぞ。先約も居なかったしな。」


「は!!? 」


硬直する矢原と、獣にグーサインを惜しまない店主、跳び跳ねまくる御霊。

店主はひとしきり獣に笑い掛けると、矢原の肩に手を置いて言った。


「中二病、乙(笑)」


「(笑)をつけるな! 」


更に、半泣きで叫ぶ矢原の胸あたりに、狛犬が飛び付いて、


「ほれほれ、ステーキハウスに行って気分を晴らそうぞ。」


とステーキハウスのパンフレットを見せつけてくる。矢原は狛犬と店主を振り払って、店から逃げ出した。


「ちくしょう! 覚えてやがれ! 」


その時、ちらりと目の端に映り込む、雑貨に埋もれた赤い靴。


(あれ? あれって? )


矢原は店から遠ざかりながら、自分に依頼をしてきた少年の顔を思い浮かべる。まぁ、その顔は矢原の顔に飛び付いてきた狛犬のせいで消し飛んだんだけども。


「あーっ! 邪魔だっつうの! 」




つづく。

金剛の獣は特にモデルの居ない適当な怪異です。見た目のイメージはシーサー。中二な心を持つ者に取り憑きます。そう、きっとあなたの黒歴史にも………。

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