唐突な大事件
《二十三着目》
「どうしてこうなった………。」
店主はいつものカウンターに座りながら、ため息を漏らす。その理由は誰が見ても明らかだった。彼は今、玄関扉の外にいる町の住人達から「出ていけ! 」と罵声を飛ばされ、彼らに店を囲まれている。
正直、この事態になってしまった理由は分からないが、なってしまったものは仕方ない。
諦めて雑誌に手を伸ばした袴の背後から、戸を叩く音が響いた。
《二十三着目 唐突な大事件》
裏口を開けてみると、そこにいたのは面接に来たこともある百々目鬼である。百々目鬼は店主が顔を出すと、呑気な声を上げた。
「いやぁ、大変なことになってるみたいっすね、店長。」
店主は彼の笑顔に、笑顔を返して言う。
「そうなんだよ、いきなり出ていけなんて意味不明なこといわれてさぁ。私にはお化けを操った覚えも、人を殺した覚えもないんだけどね。」
百々目鬼は店主の様子に満足したのか、嬉しそうな顔で、何かの箱を渡してきた。
「ははっ、店長さんが操ってるのは、吸血鬼さんくらいっすよね。」
店主は、
「まあ、アイツは(都合の)良い奴だから………。」
とこぼしながら、箱を受けとり、愚痴るように続ける。
「とにかく、今日はこんなだし、昨日は泥棒が入ったみたいで、帰ったら店が荒らされてたし、もう散々だよ。」
「何か大事なもの盗られたんすか? 」
百々目鬼は心配そうに聞いた。
店主は彼の質問に首を横に振ってから、答える。
「いや、特に何も。強いて言えばこの前拾った赤い靴が無くなってたってくらいかな? 持ち主が取りに来たのかも。」
「乱暴な持ち主っすね。暴走族かなんかなんすか? 」
そういう彼の服装は特効服で、後ろには改造されまくった赤いバイク。袴は冷たい目で言った。
「いや、暴走族は君でしょ。」
しかし、百々目鬼に慌てる様子はなく、彼はむしろ堂々と反論する。
「俺っちは当たり判定無くせるし、事故らないから大丈夫っす! 」
それに店主は、
「百々くん、それフラグ。 」
と高速でツッコむが、当の百々目鬼は自信満々だ。
「フラグはへし折っていくスタイルっすよ! 安心して下さい、俺っち、1級フラグ建築士って呼ばれてますから。」
「どうしよう、更に不安になった。」
そして不安は的中し、百々目鬼は次の瞬間、右からやって来た首の無い馬に轢かれる。
「ええー………。」
彼は怪異なので、死んではいないと思うが、用件を聞く前にこんな事故が起こるとは、いやはやフラグは恐ろしい。
唖然とする袴の前に、馬から降りた人物が話しかけた。
「無事か旦那! 」
袴は彼の質問に首を振る。
「いや、一人お前に轢かれて大変な事になってるぞ。」
だが、吸血鬼はぶっ飛んだ百々目鬼の方を一瞬見ると、すぐに店主の方に向き直って、
「なるほど、なんも問題ねぇな。」
とのたまう始末。
店主は仕方がないので、用件を聞く事にした。
「………それで用事は? 」
すると吸血鬼は思い出したように、動揺して話し始める。
「実はな、昨日の夜から突然、この京都中に《門》が出来て、怪異がそこから沸いてるみたいなんだ。そんで、片付けが間に合わないから、旦那の安否を確認しに来たんだよ。」
店主は片手を顎に当てて、考えるような動作をすると、吸血鬼の目を見返した。
「やっぱりお前のせいか。」
睨まれた吸血鬼は、
「どうしてその結論に至った!? 」
と慌てて否定の動作をする。
まぁ、関係なく袴に胸ぐらを掴まれたんだけども。
結局、吸血鬼の話というのは、気を付けろというだけの話だった。逝ってしまった百々目鬼の話は、なんだったのか全く分からない。
「俺っち、死んでないっすよ!? なんで死んだ前提で話を進めるんすか! 」
店主は物言わぬ骸に話しかける代わりに、受け取った箱を開いた。
「だから、生きてますってば! 俺っちに直接聞いてくださいよ! 」
箱の中には、真っ赤な字で書かれた
《オ前ハ人殺シダ生キル価値ハ無イ》
という脅迫文のような手紙。それは声さえも聞こえてくるほどの威圧感を放っている。袴は、天井を見上げて、百々目鬼が生きていたら何を言ったのかを想像することしか出来なかった。
「もう、なんなのこの人!? 」
-つづく-
作中に出てきた馬がデュラハンの馬だと思った君!貴様、西洋被れだろう、隠してもわかるんだよ?ちなみに、実際は妖怪の首無し馬です。知らなかった人は今すぐ検索してSAN値を削ること!はい、話はおしまい!




