不測の事態
《二十二着目》
針女が謎の展開で去ってしまった後も、袴達は肝試し成功のために色々な手を尽くした。
首吊りの縄を祭りの提灯ばりに数百本増やしてみたり、参加者の影から横回転で現れてみたり、張り紙にケチャップで「祝ってやる」と書いてみたり………。
しかし、努力が必ずしも報われるとは限らない。それどころか、今回のように不運が降りかかることさえあるのだ。
《二十二着目 不測の事態》
袴が、変態行為に走った夜道怪を縄で縛り付けている所に、慌てた様子の狼男が駆けて来る。彼は息を切らしながら袴に聞いた。
「あの、店長さん、主様………もとい吸血鬼様を知りませんか? 」
店主は問われて、路地の向こう側を指差す。
「ああ、あいつならそこにいるよ。」
指差した先には、集まった子供達にのし掛かられたり、翼を引っ張られたりして「旦那ぁ! 助けてくれ! 」と悲鳴をあげている吸血鬼の姿。だが店主はそんな叫びを無視して、狼男に聞いた。
「それで、どうかしたの? 」
「それがですね………。」
彼が言うには、墓の辺りで大変な事態が起こっているらしい。だが彼は、向かおうとした袴を必死に止める。
「とても人間の手に負える問題ではありません、主様を待ちましょう! 」
袴はため息をついて言った。
「いや、めんどくさいしいいよ。」
※
墓場は昔から袴の家のすぐ裏にあるもので、明るければ一見して全体を見渡せるほど狭い、簡易墓地である。袴は周囲をとりあえず見渡してから、後ろからついてきている狼男に声をかけた。
「それで? 私が抹殺すべき相手はどこにいるの? 」
狼男は、自分の両手を組んでゴキゴキと指をならす店主にドン引きしながらも、奥の墓石を指差す。
「あそこです………。」
言われてよく見ると、その墓石の下の辺りから人間の手が覗いており、誰かが倒れているようだ。店主は「なるほどね。」とだけ言うと、警戒する様子もなく墓に近づき、そして、騒動の原因に言い放った。
「お前が迷惑野郎か。死にたくなかったらさっさと爆発するか、土に還れ。」
その言葉に、狼男は思わずツッコむ。
「いや、店長さん、それ Dead or dead じゃないですか! 」
店主は注意されたので、自分の言葉を少し訂正した。
「行事を邪魔したお前の死は既に決まったこと。それを変えることは神が許しても私が許さん。端的に言おう、死ね。」
これにはもう、狼男も頭を抱える。
「この人、魔族より横暴だ!! 」
すると、二人の前に立ち上る砂。
巨大な砂の入道雲から現れたのは、《がしゃどくろ》だった。がしゃどくろは地獄から響くような威圧的な声で言う。
「ふん、人間か…………。愚かな者よ。お前ごときが我に勝てるとでも思っているのか………。」
店主は平然と答えた。
「うん、凄く思ってる。というか私が負けるビジョンが浮かばない。」
近づいて見ると、がしゃどくろの足元に倒れた人間は一人や二人ではない。10人近い人間が、生気を吸われたようにぐったりしている。がしゃどくろは不気味に笑った。
「これを見てもそんな事が言えるとは………。お前は無駄に度胸のあるヤツか、思いやりが無いヤツかのどちらかだな。」
狼男は小さな声で言う。
「………それ、恐らく後者です。」
言った後、直ぐに袴に蹴られたけど。
がしゃどくろは無駄話は終わりだと言わんばかりに攻撃してくる。
勝負は一瞬だった。
「よし、帰ろう。」
店主は崩れた骸骨を無視して、倒れた人間を抱え、歩き出す。狼男も慌てて、軽そうな人間を一人抱えた。
「人は呼んでおいたから、後はなんとかしてくれるでしょ。」
なげやりな事を言う店主。
そんな性格だからだろうか、彼が最後まで、別の墓石の裏で少年が隠れて見ていたことに気づかなかったのは。
-つづく-
がしゃどくろの伝説の前期には、彼?彼女?が人間を襲ったという話は無いようです。目に刺さった筍を抜いて貰ってお礼をしたり、供養してもらって有り難がったり………。人を襲う伝説は後々(江戸あたり)から、つまり後付けなんですね。ということで私も後付けします、彼はいい男のみを狙う変態です。(伝説の語り部は男が殆ど)




