神隠しの原因
《十九着目》
「いやぁ、行っちゃったね。」
ちゃぶ台に酒を並べながら、袴は座布団の上に足を組んで座っている吸血鬼を見下ろした。
吸血鬼は目の前に出された酒には手を着けず、自分のマントの中から取り出した赤ワインを、これまた取り出したグラスに二人分注ぐ。
「行っちゃったなぁ。」
袴は吸血鬼の向かいの座布団に座って、無言で猪口に口をつけた。
「………最近のゴタゴタ、お前のせいじゃないだろうな? 吸血鬼。」
吸血鬼もまた、相手が出した酒を無視してワインを口に流し込む。
「なわけねぇだろ、俺は平和主義者だぞ。そんな不埒な輩に《門》をくぐらせるとでも思ってるのか? 」
袴はため息をついた。
「物凄く思ってる。」
《十九着目 神隠しの原因》
店主の予想外な返答に、吸血鬼は思わずワインを吹き出す。
「まじかよ!? え? こんな長い付き合いなのに、俺、信用されてないの!? 」
袴は無言で手近な棚からタオルを取り出し、机を拭いた。
「信用されるわけないだろ。常日頃ストーカーにいそしむ変態野郎だぞ。」
吸血鬼はそんな袴の手からタオルを奪い取って、掌から呼び出したコウモリに咥えさせる。
「誰がストーカーだ! 俺が女の後をつけ回してるのは食料のためだからね! これはライオンがシマウマを追いかけるのに等しいの! 」
タオルを持ったコウモリはさっさと、風呂場の方へと飛んで行くが、二人の会話は終わらない。店主は足元に置いていたリモコンを手にとって、テレビをつけ、吸血鬼に聞いた。
「お前が原因じゃないなら、何が原因だって言うんだよ。」
地方局のテレビは、最近多発している神隠しの話題で持ちきりになっている。
吸血鬼は店主の質問に答えた。
「原因は十中八九、俺の馬鹿親父だろうな。世界征服なんて古くさいこと考えるみたいだったし。」
すると、袴は静かに立ち上がり、吸血鬼の頭に拳骨を落とす。吸血鬼は何が起こったのかよく分からず瞬きを繰り返しながら言った。
「いてっ! なんで俺叩かれたの!? しかも今、割りと本気だったよね!? 」
袴は物分かりの悪い魔族に説明する。
「親の責任は子の責任だろうが。お前、今から魔界に帰って、さっさと親父ぶっ殺して来い。」
「ええええ!? 」
吸血鬼は驚愕した。
「仮にも息子に、親父殺せとかそういうこと言う!? というかそんな簡単な話じゃないから! 殺せたらとっくに殺してるから! 」
しかし、店主はいたって冷静である。
「なんだ、元々殺す気満々じゃねぇか。『穴があったら入りたい』ならぬ、『隙があったら殺したい』の域で日常的な殺意じゃねぇか。」
「否定はしない、だけどそう言われるとなんか腹立つ! 」
「否定しないのかよ。」
吸血鬼は息を整えて、グラスにもう一度ワインを注いだ。
「まぁ、今回のことで色々言いたいこともあるだろうけど。餅は餅屋っていうだろ? ここは俺に任せてくれ。」
店主はそのグラスを、猪口を持った手で退けて、ワインを日本酒にすり替える。
「安心しろ、元々そのつもりだ。私は他所のゴタゴタよりも、着物の布教で忙しいし。」
自分の飲み物を退けられた吸血鬼は、仕返しに店主の前の猪口もグラスにすり替えた。店主は無言で赤い水面を見つめたあと、何を思ったのか、吸血鬼の持ってきたワイン瓶に濁った色の日本酒を注ぎ込みながら言う。
「それに、今は肝試しの準備もあるから、本当に魔王討伐どころじゃない。」
吸血鬼は店主の魔実験で産み出された異形の飲み物を、追加で取り出した二杯のグラスに満たして、自分と店主、両方の前に置いた。
「ああ、今年もやるのか肝試し。 」
吸血鬼は、濁った赤のグラスを手にとって言う。続いて店主も、不可思議な香りを漂わせる飲み物のグラスに手をかけた。
「手間が掛かる割に喜ばれ無いから、やりたくないんだけどな。押し付けられたんだから仕方ない、お前も手伝え。」
そして、二人で目を見合わせた後、同時に、グラスの中身を口に流し込む。
「………人数集めとく。」
「………そうしてくれ。」
その後二人は直ぐに台所に歩いていって、残った中身を捨てた。
-つづく-
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思い付きの魔実験は悪魔しか産まないぜ………フッ
(実体験)




