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呼び出し!


 そんなこんなで、時刻は昼下がり。

 本日はさっさと帰宅しようとしたところで、帰りのSTの際、エリザベス先生に言われていたことを思い出す。

 ――阿久くん。どうやらヴィーデ先生があなたに用があるようなのよ。だからあなた、あとで第二会議室にいらっしゃい。

 とのことである。

 まぁ仕方ないので、第二会議室へ向かおうとすると、廊下に出ようとする頃から、アルラがぴったりとついて来た。

 こいつに気付かれないように教室を出ようとしたのだが、流石は友達のいない女。俺以外に人間が見えていないのか知らないが、非常に目ざとい。


「何処へ行くの、阿久」


「先生に呼ばれたんだ」


「……女の匂いがするわ」


 こいつの鼻は一体、なにで出来ているのだろうか。

 俺を第二会議室に呼んだのは、道徳教師、ヴィーデ・チェイス。彼女は黒人と白人のハーフらしいのだが、サラリとした白髪に、褐色よりではあるものの、黒人とは異なる肌を持った美しい女性である。

 昔はヤバめの前科を重ねていたらしいが、それも今では過去の話だ。詳しいことはわからないが、犯罪から足を洗って、今ではしっかりと教師としての務めを果たしている――と思いたい――いや、そのハズである。

 しかし、そんな彼女がこの俺に何の用なのか。

 どうにも検討はつかないし、だからこそ、それをアルラにいちいち説明するのも面倒だし、どうせこいつのことだ、何を言っても最後は「他の女の所へ行くのは許さない」で終わるに決まっている。

 だから見つからないようにしていたのに。

 しかしまぁ、見つかってしまったものは仕方ない。どうにか撒くことにしよう。


「アルラ。たまにはお前の家で飯でも食いたいな。どうだ」


 ということで、適当に話題を変えておく。


「いいわよ」


 抑揚のない声の割に、アルラは嬉しそうだ。


「六時には行くから、それまでに飯の準備をしてもらっていいか」


「来なかったら、許さない」


「ちゃんと行く、俺は嘘をつかない」


「そう。ならいいわ。では、帰りましょうか」


 そういって、俺の腕を掴んで昇降口の方向へ進んでいくアルラ。

 アルラの腕を振り払って、俺はその場に立ち止まる。


「だから俺用事あるって」


「女の匂いがするからダメよ」


 だからこいつの鼻は、本当にどうなっているんだ。


「お前が考えるような用じゃない」


「……これは、そうね。恋する女の匂いよ」


「お前一体何の匂い嗅いでんの!?」

 

       ☆


 この後、なんだかんだで言いくるめることに成功したのだが、後でたくさん問い詰められそうだ。頭が痛い。

 ちなみにアルラの捨て台詞は「浮気したら殺す」だった。

 俺たち、付き合ってすらないのにな。


 俺が教室を出ようとすると、待ってくれ、と声がかけられる。

 誰かと思って振り向いてみれば、氷川だった。そういえば、こいつも俺と同じでSTの後にエリザベス先生に呼ばれていたような気がする。


「阿久。キミ、これから第二会議室へ行くんだろう?」


「……なんでお前がそれを?」


「いやね、ぼくも呼ばれていてね。おそらくは、同じ要件だろう」


        ☆


 そういうわけで、俺は氷川と第二会議室へと向かうことにした。


 廊下からは、どこからか肉を焼くにおいがしていた。おそらくは、用務員のオオダイラのやつが焼き芋をしているか、もしくは――。


「焼肉の匂いがするね」


 氷川が鼻を引くつかせて、そう言った。

 俺も、漂う匂いを嗅いでみる。たしかにこれは落ち葉やイモの匂いではなく、肉の焼ける匂いだ。


「……アルバートか」


 そういって、俺はため息をつく。

 理科教師、アルバート・クルックス。パッと見は英国紳士に見えなくもないが、こいつも過去、相当にヤバいことをして豚箱にぶち込まれていた経験があるという。焼肉が大好きで、学内でも授業中でも、如何に肉を上手く焼くかということしか考えておらず、テストの問題も肉に関しての問題ばかりだ。

 例えば物理の問題一つとっても、


『高さ20cmの場所から20gの豚肉を落とした場合、どれだけの運動エネルギーが得られるだろうか』


 ――といった具合で、ありとあらゆる問題で肉が引き合いに出されている。

 アルバートの放つ焼肉の匂いは、制服に染みつくので、生徒とその保護者、および多くの教師たちからは苦情が殺到しているとか、いないとか。

 ……ふと思ったのだが、ヴィーデ先生もアルバートのやつも前科持ちだ。エリザベス先生も「実はわたくし、一度だけ処刑されかけたことがあるのよぉ」とか言っていたし、用務員のオオダイラも過去に投獄されていたそうだし……。

 なんていうか、この学校本当に大丈夫か。


「どうしたんだい、阿久。なんだか顔が青いけれど」


「いや、この学校の未来に一抹の不安を感じてな」


「安心したまえ、阿久」


 ははは、と朗らかに笑った氷川は、さも愉快そうに言った。


「テストは毎回百点なのに、英語の成績が毎回1なぼくよりマシさ」


 この学校、全然ダメじゃねえか。


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