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エピローグ 〜共鳴〜

 黒の天使テンを目の前にサキュバスとマホは怒りに燃えていた。


「そう怒っても結末が変わることは無い。彼らは見知らぬ土地でその生涯を全うする。この世界ではすでに死人だ。別世界で死のうが変わらないはずだろう?」


 その言葉で二人の怒りは頂点に達し二つの剣も空気を引き裂くかのように鳴り響いた。


「あなたは」


「絶対に倒す」


 怒る二人の声は自然と重なりあった。


「燃えろ。『禁忌魔法エンジェル・フレイム』」


「その程度、私には効かぬ」


 黒と白、二色の杖から放たれた炎をテンは鷲掴みにすると炎を握りつぶし消し去った。しかし、その手は消された炎の恨みと言わんばかりに真っ赤な腕に鷲掴みにされていた。


「何だ? あっちの世界もこちらの世界も禁忌魔法の禁忌にまつわる記憶だけすっぽりと消去されているのか?」


 突然聞こえたその声に一人は喜び、四人は恐怖した。


「よくぞお戻りになられました、魔王様」


「今戻った。勇者と共にだが」


 魔王の言葉に今度は二人の顔が渋り、三人が喜んだ。のだが、その顔はすぐに渋った。


「ゆ、ユウちゃん?」


「皆ただいま」


 テンの腕を鷲掴みにしている見た事も無い真っ赤なゴーレムはマホ達にとって懐かしく聞き覚えのある少女の声を発した。


「その鎧を着たまま戻ってきたのは正解だったな」


「スキル解除するのを忘れていただけでしょ?」


「ま、魔王様? 失礼ながら別世界に飛ばされていた間に勇者と何が?」


 すると魔王レイド・マオと勇者レイド・ユウは声を揃えて言った。


「姉弟になっていた」


「してい? あぁ、魔王様が勇者を弟子にして育てたのでございますね」


「ちょっと、サキュバスでもその発想は許さない。ユウちゃんが魔王の師匠に決まっているでしょ」


  勇者と魔王の言葉で魔法使いナルミ・マホとサキュバスは敵前であることを忘れ、口喧嘩を始めた。その光景を見ていたユウとマオはどこかで見た様な既視感を感じていた。


「おい、貴様ら。よくもまぁこの状況で仲間割れが出来たものだな」


「でも、この状況だからこそだよね。だってこっちの方が断然優勢だし」


「確かに、そこの僧侶の言う通りだ。俺とユウもとい勇者はあちらの世界でお前の半身を倒してきたところだ。そんな俺たちがこちらについているのだからどちらが優勢だか勇者ほどのバカでもわかるはずだ」


 本来、勇者側全員が反論してもおかしくない発言をしたマオだったが、マオに「バカじゃない」と反論したのは勇者だけだった。


「私の半身が倒された? 虚言を吐くのも大概にしろ。下等生物」


「虚言だと思うならわたしが掴んだ右腕を見て見ればいいでしょっ」


 ユウはマオにバカにされ、八つ当たり気味にテンにそう言い返した。


「右腕? それがどうした?」


 テンは言われるがまま右腕を見た。つい先ほどまで真っ赤なゴーレム、あちらの世界でマオがデスゴーレムと名付けた鎧に掴まれていたその腕は真っ赤に染まりゆっくりと消滅し始めていた。


「再生だ。再生しろ」


「なるほど、あの時テンがユウのバカみたいな名前の剣で倒れなかったのはそんな仕掛けだったのか」


 テンの望みが叶うことは無くテンの右腕は季節が過ぎた桜の花びらのようにはたまた秋の落葉のように儚く散ってしまった。


「で?」


「で、だと?」


「お前は俺たちには勝てない。あっちの世界の半身と同じように戦うか? それとも自分からこの世界と別れるか? 俺は魔王だが悪魔じゃない。自分の最後くらい決めさせてやる」


「甘い、貴様は甘すぎる。貴様は知らないだろうが、この城内にこの国内に一体いくらの兵が潜んでいると思う? 貴様ら数人をねじ伏せることなど容易い」


 あちらの世界の半身とは違い余裕も油断も見せないテンとは違いこちらのテンが知らないテンたち天界人の弱点を知るマオとユウの二人は余裕綽々だった。


「あぁ、そう。このメンバーならそっちの連れている兵の相手なんか簡単だ。それよりも」


「国王様、あなたを倒す方が簡単だけど」


 デスゴーレムの鎧を纏ったユウの両手はテンの身体を掴んだ。その瞬間、テンは自分に降りかかる恐れを感じた。


「や、やめろ。その薄汚い手を離せ。城内、国内の下等生物共、この薄汚いネズミどもを捕らえろ」


「魔王様、兵の方は私たちが相手をします故、あの愚か者の相手をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「もとよりそのつもりだ」


「では、こちらをお返しいたします」


「ユウちゃんのだけど、サキュバスが信頼している相手だから特別。これも使って」


 サキュバスとマホは魔なる剣と聖なる剣をマオに託すと黒と白お揃いの杖を握り王室を出て行った。


「確かに受け取った。それにしても、姉妹のような二人だな」


 とても数日前まで敵対していたとは思えない二人の信頼関係につい頬をほころばせながらマオはユウの助太刀に向かった。


「スキル発動『精製』」


 魔なる剣と聖なる剣を素材にマオは一本の剣を精製した。


「バカな姉のセンスに合わせるのなら『双剣奇跡剣』とでも名付けてやろう」








 王室を出た四人の周りには森での戦闘とは比にならないほど多くの兵士が押し寄せていた。


「任せてとは言ったものの」


「この人数相手はちょっと」


 二人は顔を見合わせると満面の笑みで言った。


「やる気が出てくるよ」


 二人は敵同士だった仲間に背中を預けお揃いの杖を構えた。


「スパークランス」


「エアロウェーブ」


「眠ってください。スリープメア」


「爆裂乱舞」


 四人はそれぞれがそれぞれをかばい合いながら兵士を王室へ近づけまいと戦った。しかし、その数は一向に減ることは無く魔法使いのマホとサキュバスの魔力は底を尽き始めていた。


 リョウと格闘家の二人は魔力こそ残っているもののサキュバスが国内に入る直前でかけた癒しの魔法が解け始めて来た所為で思うように力を出すことが出来なくなっていた。


「でも私たちが」


「こんなところで」


「倒れる訳には」


「行かない」


 魔力も体力も底を尽きているのにもかかわらず、四人はしっかりと足を地に付けて立ち上がり続けた。だが、有限である魔力と体力は尽きた。それでも四人が攻撃を辞めることは無かった。


 四人を立ち上がらせたのは仲間と紡いできた絆だけだった。ただそれだけでも四人には無限の力が供給された。


「マホ、皆、力を貸して」


 サキュバスの言葉に三人は誰も何も訊かずに手を差し伸べ自分に残る僅かな力を注ぎ込んだ。


「究極魔法ネクサス」


 その魔法はどの魔導書にもどんな魔法も書かれている歴史書にも載っていない魔法であったが誰もが使う事の出来る潜在魔法であり、最強の魔法だった。


 ネクサスが発動すると全てが白く染まる浄化の光が放たれた。その光は邪悪な心に蝕まれた悪しき心を静め、兵士たちに憑りついていた真っ黒な天使を一匹残らず消し去った。


 真っ黒な天使が消えたことでマホ達を襲う者はいなくなり、安堵感から四人は引き寄せられるように床に倒れた。








 王室の中ではまだ交戦が続いていた。


「何故だ、何故誰も来ない?」


 そう叫ぶテンの身体は元の色が黒であったとは誰も信じないほど真っ赤に染め上げられていた。


「不死の俺が言う事ではないが、まだ永遠の命にすがるのか?」


「私は永遠に生き、この世を統べる義務がある。今ここで貴様ら下等生物如きにやられるわけには行かないのだ」


 マオはゆっくりとテンに近づき、ユウにテンから手を離すように命じた。


「何の真似だ?」


「お前にこの世を統べる義務などない。ただの人間であるお前にそんな義務を果たす義務などない」


 真央の持つ双剣奇跡剣は振り下ろされ、テンの身体を斬り裂いた。


「これが死ぬという感覚。死を知らぬものに伝えるにはこの感覚は上等すぎる」


 最後の最後に王室にネクサスの効果が流れ込んできた。それは死に向かうテンの心を穏やかにした。




「これでようやく終わったな」


 テンと言う存在から世界が解放された翌日、マオとユウは旧中立地帯に来ていた。そこには二本の双剣が墓石のように建てられていた。


「マオ国王はこれから、世界は平和になると思う?」


「さぁな。それはこれから俺とユウ王女がゼロから、いやレイから作り出せばいい」


「何それ、優等生気取り?」


「劣等生のお前からこんな発言は出ないだろうからな」


 二人はそう言うとバカみたいに笑い合い、人間界と魔界の中立地帯だったその場所に新たに建国されるレイドという国を見つめた。


ついに『優等生は劣等生』も最終回を迎える事になりました。

他の作者様は比べ物にならないほどの話数なのではっきり言ってこの程度の話数で終わるのは恥ずかしいのですが、望んでいた終わり方は出来たと自負しています。

唯一、予想外だったのは何度か話題にあげたねじり鉢巻の存在でしょう。お菓子の分際で活躍し過ぎです。余談ですが、ねじり鉢巻のモデルにした某棒菓子は大好きです。


次回作ですが、この後17時からスタートさせていただきます。もしかしたら既に更新されていてご覧になった方もいらっしゃると思いますが、『優等生は劣等生』の前日談で『エピソードユウ 終わらない物語』というタイトルでユウがマオこと魔王と戦うまでを描こうと思っています。

『優等生は劣等生』のように不定期更新となりそうですが、長々と続けていけたらと思っていますので応援よろしくお願いします。


長くなってしまいましたがこの辺で失礼させていただきます。

また、次回作でお会いするのを楽しみにしております。


東堂燈

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