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零度真央 #6〜過去〜


 遠い昔の事、世界が一つだった時の事。


 一人の優秀な人間がいた。


 その人間は優秀すぎるが故に禁断の領域にまで足を踏み入れてしまった。


 それは、後に魔法と呼ばれる存在の開発。


 その人間が作り上げた魔法は不完全で不安定で不確定なものだった。しかし、その人間は道の力を手にしようとする欲に溺れその魔法を自分自身に唱えてしまった。


 不完全で不安定で不確定なその魔法『禁忌魔法ヴァー・ス・デェイ』はその人間を姿の異なる三つの種族に変えた。


 一つの姿は白く輝く肌に純白の羽を持つ欲に塗れ欲に溺れた聖なる存在に、


 一つの姿は純粋な心と邪悪な心を命と呼ばれる限りのある檻で囲む並みの存在に、


 一つの姿は黒く濁った肌に異形の肉体を持つ限りから引き離された調和を望む邪悪な存在に、


そして、三つの存在は全て『テン』という名を名乗っていた。


 三つの異なる存在は互いを理解することが出来なかった。そして、三つの存在は互いを認めることが出来ぬまま世界を巻き込み世界を三つに分断した。


 それは後に


 天界、


 人間界、


 魔界、


と呼ばれるようになった。




 聖なる存在『天使』は力を追い求める者たちを率いて天界を作り上げると、天界を天高くへ運び、天空の都市として繁栄させた。


 並みの存在『人類』はそれまでと変わらぬ生活を望む者たちを率いて人間界に残り人類を繁栄させた。


 邪悪な存在『魔王』は魔族と呼ばれる者たちを作り出し種族の垣根を超えた平和な世を作り上げる為に魔界を繁栄させた。


 時が経ち繁栄が落ち着いても世界が一つに戻ることは無かった。


 いつしか、天界はその存在を人々の記憶から抹消されていた。


 いつしか、人間界は魔界の異形の姿に恐れを抱き魔界へ攻め入った。


 いつしか、魔界は自国に攻め入る人間から自国を守るため人間の命の芽を摘み取った。


 それが当たり前になった頃、人間界に天界から『テン』が舞い降りた。


 天界の『テン』は人間界の『テン』を名乗り人間界を我が物として、人々に忘れ去られた力『禁忌魔法ヴァー・ス・デェイ』をもとに天界が独自に開発した魔法の力を与えた。


 それにより人間界は魔界では対抗し得ない力を得て魔界を攻め落とした。


 しかし、『命』という限りから引き離された魔界の者たちはすぐに復活し、繁栄後の当たり前の世界を取り戻した。


 天界の『テン』は魔界に対抗すべく魔界に限りをもたらす剣を作り上げた。それが人間界で受け継がれていくことになる『聖なる剣』だった。


 天界の『テン』は一つ見落としていた魔界にも『テン』という存在がいたことを。


 魔界の『テン』は魔界復活の際に魔界の者たちに魔法の力を与え、自らの命を犠牲に魔界最強にして魔王にのみ所持が許される剣『魔なる剣』を作り出した。




魔法の導入によりその後、数十年、数百年に渡り優劣が決まってはいない。








 俺が昔から聞かされてきた元の世界の話は大体このようなものだった。


 しかし、俺のように魔法を使えない魔族もいた。その昔話との矛盾が気になり、俺は魔王時代いくつかの文献を読み漁った。その中には過去に魔界にやって来た人間が持っていた人間界の真実が書かれた書物もあった。








 私が生まれる前から一度たりとも玉座を他の者に渡すことのない国王様を我々国民はとても不審に思っている。


 前に国王様の真実について調べていた記者がいた……。私の妻となるはずだった『ミズノ・カレン』だ。


 彼女は私にこう告げた、


「国王様は私たちの知らない魔法で兵を操り私たちに魔界の誤った情報を与えている」


と、それが彼女の告げた最後の言葉となった。


 最後の言葉を告げた彼女は白い羽のような矢で心臓を一突きされ命を失った。


 主である勇者『レイド・ユウト』はこの事実を信じなかったが、他の旅人は必ずこう言った。


「天界の悪魔『テン』が口封じをしたのだ」


と、


 私はこの書を魔界へ持ち込む。もしも、私の命が尽き何者かがこの書を読んでいるのなら私のこの想いだけは継いでほしい。


「国王『テン』は世界を揺るがす悪魔だ」








 『テン』それが天風楓を指し、生徒会が『テン』の操る兵を指すとしたら。


 零度優と零度真央の青春とか言うくだらない生活を過ごすあの学校を俺たちのような世界に変えるわけには行かない。とまでは思っていないが、この謎を解決することで俺と優が元の世界に戻る手掛かりが掴める気がしていた。


今回の話は優と真央の世界の過去について掘り下げた話になっています。

今回登場した『テン』という存在が今後どのように物語に絡んでいくのか楽しみにして頂ければと思います。


妙なまでに淡々とした後書きになってしまいましたが今回はこの辺で失礼致します。


東堂燈

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