履き古したスニーカー
履き古したスニーカー。
記憶に残るスニーカー。
ボロボロで、薄汚くて、真っ黒で。
それでも捨てられないのは
僕みたいだ、って思うから。
駆け出したあの日。
小さな身体で
アスファルトを思い切り蹴って、走った。
楽しくて、目に映る全てのものにワクワクした。
履き古したスニーカーは
まだ、輝いていた。
何時からだろう、駆け出すことを恐れたのは。
何時からだろう、『明日』が来ることが恐くなったのは。
何時からだろう。何時からだったのだろう。
スニーカーを見ることを、しなくなったのは。
目まぐるしく季節は廻って
僕もだんだん歳をとって
駆け出すことを恐れた。
『明日』を見ることを、恐れたんだ。
スニーカーは、履けなくなった。
…でも。それでも。
止まない雨が無いように。
人が必ず笑うように。
優しい気持ちが繋がるように。
『明日』はまた、違う日々なのかもしれない。
履き古したスニーカーを
手に取ってみた。
ボロボロで、薄汚くて、でも、どこか輝いていて。
きっと、みんなそうなんだ。
みんな辛くて、でもそれでも泣きながら頑張っているんだ。
泣いて、傷ついて、叫んで、
それでも、頑張って生きているんだ。
履き古したスニーカーを
ゴミ箱へと押し込んだ。
思い出にすがるのはもう止めよう。
『明日』を見に行こう。
履き古したスニーカーは
僕の靴箱から消えた。
それでもきっと
僕の『記憶』には
残っている筈だから。
靴箱の扉を閉じた瞬間に
声が聴こえた。
『いままでありがとう』
嬉しそうな、幸せそうな声で。
だから、僕も微笑んで言ったんだ。
『こちらこそ、ありがとう。』
感想、アドバイス等頂けると幸いです。
ここまでお付き合いくださり、誠にありがとうございました!