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吸血鬼ちゅるる  作者: 野良にゃお
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第六幕)悄然と言えば悄然

第六幕)悄然と言えば悄然



 真夜中。が、しかし。あと数時間も経てば明け方という時間帯になるあたり。隙だらけの穏やかすぎる表情ですやすやと眠るカットベルを残してベッドから抜け出した清水坂は、呼び出された先へと向かっていた。


「・・・・」

 つい先程、浜本からTELがあったのだ。話したい事がある、訊きたい事もある、その内容は会ってから、だから今すぐ来てほしい、と。なので清水坂は、人通りのない深夜の道を駆けているのである。


 ・・・・。


 呼び出された先は、清水坂の自宅から小一時間はかかるであろう距離に漸く一軒あるファミリーレストラン。大通りに面しているがそこだけが異様に明るいという、夜の待ち合わせにはもってこいの場所。


 その店の中。窓際の席に、俯きかげんで座っている浜本が見える。その表情は思い詰めるという程ではないものの一応に固く、何やら頗る緊張しているようでもあった。これからの事を考えると、無理もないと言えば無理もない事ではあるのだが・・・・。


 からん、からん。


 清水坂が店内と外を仕切るドアを引くと鈴の音が鳴り、その音に反応して顔を上げた浜本と視線が重なった。


「あ・・・・う」

 いつものように・・・・と、自然にと思いながら。浜本がぎこちなく手を振る。


「・・・・」

 その様子を見て清水坂は改めて緊張したが、無理に微笑みながら手を上げて応えた。


「「・・・・」」

 その様子は端から見れば付き合い始めの純真カップルといった感じなのだが、勿論そうではなく、その心中はそれぞれに複雑な感情が揺らめいており、清水坂は浜本に近づく毎に、浜本は清水坂が近づく毎に、その揺れがその度合いを増していた。


「お待たせしました。ご注文の清水坂幸太郎です」

 ゆっくりとではあったが一直線に浜本へと向かっていた清水坂は、努めて明るくそう言って緊張を忘れようとした。


「よ、よっす。思ってたよりも早くてビックリです。えっと、まぁ、とりあえず・・・・座ってよ」

 浜本も同じく、努めて明るく振る舞おうと試みたようだが、どうやら清水坂よりも緊張の度合いが大きかったようで、ぎこちなさは拭えなかった。


「いらっしゃいませ。ご注文の品がお決まりになりましたら、そちらにございますボタンを押してお知らせください」

 清水坂が腰掛けるとすぐ、店員がお冷とおしぼりを運んできた。そして、そう言ってクルリ、戻ろうとする。


「あ、すいません。ポテトフライとドリンクバーお願いします」

 その店員を呼び止め、清水坂は注文した。食事をするつもりはなかったのでメニューを確認する必要がなかったし、浜本は少なくともドリンクは注文しているという事がテーブルを見て明らかであったので、早めに済ませて一対一の状況になろうと思ったのだ。


「かしこまりました。では、ドリンクの方はセルフとなっておりますので、あちらでお好きな飲み物をお選びください」


「はい、どうもです」

「では、ごゆっくり」


 ・・・・。


「「・・・・」」

 店員が接客を終えて戻っていくと、店内に流れる静かなBGM以外然したる音の無い世界が暫し続く。現在のところ、利用している客は清水坂と浜本のみのようだ。


「あのさ、清水坂はやっぱ、炭酸ホワイト?」

 その世界を変えようとしたのは、浜本であった。しかしながら空気は相変わらずぎこちなく、バタバタガタンという音が鳴るのではという雰囲気で立ちあがりながらそう訊いた。私が行きますよという意思表示を示したのであろう。いつもそうだったから。そのいつもの雰囲気に我が身を置いて落ち着こうと思ったから。そして、清水坂を目の前にした途端に自ら呼び出したにも関わらず緊張が止め処なく上昇していたので、インターバルをとる為でもあった。


「え、あ、お願いします」

 浜本のぎこちなさによって緊張が更に強まっていた清水坂も、やっぱり少しだけインターバルが欲しいなと感じていたので、少しだけ安堵しながらそう言って微笑んだ。


「うん。じゃあ、待っててね」

「うん・・・・了解しました」

 ぎこちない浜本の背中を、清水坂はぎこちなく見送った。


「・・・・」

 浜本は最初、清水坂にTELするのを迷った。かなり躊躇した。しかし、見てしまった。聞いてしまった。どういう事なのか判らなかった。理解する事が出来なかった。思考する事が出来なかった。其処に居た清水坂が、昔から知っている清水坂とは違っていたからだ。


 ある決断を胸に清水坂の家に向かっていた浜本は、その道すがらに黒衣に身を包んだ何者かと話している清水坂を見つけた。その黒衣の者は見知っている者であった。更には、自らを清水坂の伴侶と言う女性が現れた。その女性は聞き覚えのある容姿であった。何が起きているのか? 何が起きようとしているのだろうか? しかし、近寄って姿を露わにして加わる勇気はなく、気配を消す事にのみ努めながら様子を窺っていた。やがて黒衣の者が逃げるように去り、清水坂と赤髪の女性が何処かへと歩き始めた。浜本は気づかれないように追う。



 その先は廃校だった。



 一部始終を目撃してしまった浜本は、この店に入って考えた。漸く考えた。頭の中を整理する事から始めた。心を落ち着かせようと努めた。その結果、整理できず落ち着かず、勢いのまま清水坂を呼び出してしまった。


 何をどう訊こうというのか。

 訊いてどうなるのいうのか。


 自身の行動に対して様々な質疑が浮かんでくる。しかし、そのどれにも明確に答える事が出来ず、そうしている内に予想よりも早く清水坂が来た。清水坂がその能力を最大限に使用したとして、それを自身の経験で大凡ながら想像してみると、TELを終えてすぐに来てくれたという結論に至り、その事実をどう捉えれば良いのかという新たな疑問が加わってしまった。そしてそれは、自身の思惑が絡んでいるだけに、手強い難問と化していた。


「清水坂・・・・」

 ボタンを押してジュースをグラスに丁寧に注ぎながら、浜本は背中の向こうに座る清水坂への想いに様々な思惑を絡め続けた。


 ・・・・。


「・・・・」

 その一方で清水坂は、ガラス窓に映る自身を眺めながら思考を巡らせていた。浜本は何を思っているのだろう。何を考えているのだろう。呼び出した理由はなんとなくではあるが察しがついていた。いつもなら、話しがあるのであれば家に来て部屋に上がる筈だからだ。呼び出したという事は、その部屋に誰かが居るという事を知っているからで、知っているのに時間を待たずあえて呼び出すという事は、話しとはその誰か・・・・つまりカットベルが関係している事で、真夜中というこの時間を加味して結論づけると、最低でも今夜の一連の内のどこかからかを見られてしまった可能性は大きいという事になるからだ。


 だから思う。浜本は何を思っているのだろう、と。何を考えているのだろう、と。ガラス窓に映っている自身の姿は見る感じ人間のそれと変わらないのだけれど、その身体には吸血鬼の血が流れ、人間を越えた能力を宿している。こうして座っているだけならば何ら変わらないのに、それなのに、違うのだ。もう、人間では・・・・。


「ない、か・・・・」カットベルと出逢ってまだ一週間すらも経過していないというのに、思いもしていなかった方向へと進んでいる。能力云々を別にすれば、何だかロミオとジュリエットみたいな感じだな・・・・。


「いいや、違うかな」

 これではまるでロミオとジュリエットみたいだと思ってすぐ、彼等は三日間くらいの物語だったっけと思い出した清水坂は、俺達とは違うと思い直した。それに、こっちはまだ始まったばかりで終わりにあるのが明か暗か見えていないのだから、とも。


「でも、覚悟したんだ」

 兎にも角にも、覚悟を決めたからには他にも覚悟を決めなくてはならない事がある。


 の、だけれど。


「覚悟、かぁ・・・・」覚悟って何なのだろうね。今、俺に出来る事・・・・か?


 ・・・・。


「おまたせ・・・・」

 お互いにどのくらいの時間を要した後だろうか、そう言いながら浜本が戻ってきた。


「え、あ、ありがと」

 清水坂はそう言って、早速グラスを口に運んだ。


「えっと、浜本、これ」

 炭酸無しホワイトだった。


「え? あ、あの、ああの、なな、何かな」

 びくん。と、浜本が反応する。


「いやその・・・・あ、話しって、何?」

 炭酸が何処かでサボリかましているみたいなんですけどぉ・・・・と、いうツッコミを入れさせて和むつもりなのかと思った清水坂は、それならばとツッコミを入れようとしたのだが、呼びかけただけで狼狽する浜本を見て今はそのいつもとは違うのだという事実を思い出し、促した方が緊張が解れて話しだしやすいかなと自身から話しを振ってみる事にした。


「へ? え、えっ、と、えと、そ、その、あのね・・・・」

 清水坂は穏やかに訊いたつもりだったが、浜本の狼狽ぶりは続いていた。


「TELで言ってた事って、さ・・・・ついさっきの事?」

 浜本にしては珍しいくらいの狼狽ぶりを見て、まずは自身が落ち着かなければと思うに至った清水坂は、この分だと浜本からは切り出せないかなと思い、予想していた事を自身から言い出す事で再び促してみた。


「う、あ・・・・うん。そう、なんだけどさ」

 浜本が肯定する。その心中はまだ複雑だったが、清水坂の穏やかな表情を見て自分も前に進む事を決めた。


「やっぱそっか・・・・で、浜本はどう感じたの?」

 どう言われても受け入れようと覚悟しながら、清水坂は話しを進める。


「清水坂って、さ・・・・改造人間だったの?」


「え?」

 が、暫し待とうと思い直した。


「本郷猛さんとか、一文字隼人さん的な、さ。あっ、あ・・・・もしかして、秘密結社の方?」


「・・・・」

 天然なのか養殖なのか、付き合いが長いだけに逆に判然としない。


「・・・・ゴメン。清水坂とこういう空気になるの、あんまりないからさ」

 どうやら、この場にどうしても漂う重すぎる空気を自分なりに少しでも軽くしようと思っての事だったようだ。


「そっか・・・・こっちこそゴメン。よし、いつもどおりでいこう」

 それが判った清水坂は、努めて明るくそう告げた。


「うん。その方がアタシ達っぽいよね」

 目の前にいる清水坂に自身のよく知る清水坂を感じた浜本は、それで気持ちが軽くなったような気がしてそう返した。自然と微笑む事も出来た。その心に宿っている清水坂との想い出が脳内で映像化されていく。


「じゃあ、面倒だから簡単に一言で言うと」


「上司に弄ばれ続けた揚句に凌辱までされた気の弱いオフィスレディーするからさ、清水坂はその上司ね。深夜のファミレスで泣くわ喚くわの大騒ぎ。わお楽しそう。それじゃあ、始めるよ? よぉーい!」


「すいませんでした激しく遠慮しますゴメンなさい詳しくお話ししますどうか許してくださいボクが間違ってました」


「うむ。判れば宜しい」

「はい。ゴメンなさい」


 浜本が努めていつもの感じになろうとしていると見て取れた清水坂は、それを通り越していつもどおりにまで戻っているかのような浜本を見るに至って少しだけ後悔したが、しかしそれはそれで浜本らしいと懐かしい感覚にもなったので、その浜本を受け入れつつ、カットベルとの事を出会いから順になるべく詳しく、けれど慎重に配慮しながら、話し始めたのだった。


 ・・・・。


 そして。


「浜本には言おうと思ってたんだよ。ほら、会いたいとか言ってたし」でもさ、言えない事情がわんさかで、危険な事に巻き込みそうな事態も次から次へとでさ・・・・ゴメン。


「それはイイんだけど、清水坂の話だとそのカットベルさんっていうバンパイアはさ、詰まるところ清水坂にワザと殺されようとしたって事?」それにしても、噂に聞く闇夜の悪魔とは似ても似つかない感じね・・・・。清水坂が危ないと思って跳び出そうとしたら、めちゃんこ強いから驚いたんだよ? でも、そういう理由があったんだね。


「うん。なんかさ、そういう掟とかがあるらしくて」そこまでしてもらってまで人間に戻りたいとは流石に思ってなかったんだけど、所謂ところの怪異の者の側では人間ってそのくらいの価値なんだろうね。そうじゃなきゃそこまでしようなんて掟、考えないもんね・・・・たぶん。


「そうなんだぁ・・・・」それにしても、人間に戻す方法ってあったんだ・・・・でも、それなら知らないのも無理ないか。だってそんな事までして人間に戻してくれるようなバンパイアなんているワケないもんね。あ、そう言えば、タチの悪いバンパイアにそうされて、それで利用されている者を助ける為に、そのバンパイアを葬るハンターがいるとかなんとか・・・・清水坂が言うあの教団も、表向きはそれを名目に活動してるんだったっけ。ま、表向きって言っても、裏世界の話しなんだけどさ・・・・ま、とにかく。清水坂が人間に戻りたいと言ったから従うなんてそんな掟を守るバンパイア、初めて聞いたよ。しかも、闇夜の悪魔と恐れられているバンパイアがねぇ・・・・。


「・・・・」人間に邪険にされたって言うか、迫害とかされた歴史があるみたいだし、もしかしたら恨みや憎しみとかとは裏腹の、何かこう複雑な心境とかあるのかな。そういう深い部分までは考えてなかったけど、思慮しておくべき事かもしれないなぁ・・・・。


「ねぇ、清水坂? 清水坂はさ、自分がバンパイアになったって知った時、どう思った?」たぶん、カットベルさんは掟に従ったと言うよりも寧ろ・・・・清水坂に従ったんだね。怪異の者にとってみれば人間族って憧れだから、人間も人間を好むだろうと思っているし。


「最初は人間に戻りたいって思ってたんだけどさ、外見が変わらないからなのかな、これはこれで仕方ないかなって思ってる。便利って程に使う機会はないだろうけど、不自由なワケではないし、理由はどうあれ助けてもらったワケだし」これほどの能力なんて、怪異の者同士の戦闘以外は使い道がないよな。なるほど、たしかに人間なら畏怖の念を抱きつつも抹殺しようとするかも。度を超えた能力を有している者は抹殺しようとする、とかなんとか・・・・たしかにそうかも。人間同士でもそうだし。人間じゃないなら尚更に。


「そういうプラス思考なトコ、清水坂らしいよ」カットベルさんはきっと、清水坂を大切に想ってるんだね。そんな短い間に清水坂と何があったのかな・・・・話しを聞いた限りでは判んないけど。私なんか、もっともっとずっと前からこんなに近くにいたのにさ。


「ん? あ、でもさ、足手まといになるんじゃないかな、オレ」喧嘩レベルの話しじゃないし、死という認識を概念としてではなく現実として意識しておく勇気・・・・って言うか、選択肢の内の一つとして覚悟しておくなんて、はたして俺に出来るのかな。いいや・・・・しなきゃならないのか。覚悟しなきゃな・・・・どうやって?


「まさか清水坂、戦闘にまで参加するつもりなの? 喧嘩レベルの話しじゃないんだよ? いつどこで襲われるか判んないんだよ? そんなの危険すぎるよ!」バンパイアは基本的に戦闘民族だし、あの闇夜の悪魔の血が流れている今の清水坂なら、好む好まないは別にしてそういう場面に遭遇したらきっと、さっきのあの時みたいに前に出て打開するという思考になるんだろうけどさ。でもさ、今はまだ人間の頃の感覚が殆どな筈・・・・それなのに、どうしてそんな簡単に身を置けるの? そんなにカットベルさんが大切なの? あ、でも清水坂は優しいから、何とかして守ろうとするかもなぁ・・・・。


「正直に言えば、凄い怖いよ。たぶんそれはまだ大したレベルではないんだろうけど、それでも殺されるかもしれないっていう事態になった事あるし。慣れる慣れないとか、運が良いとか悪いっていうのも変な話しなんだけど、実際に殺されると自覚せざるをえない状況に身を置いたり、この手で殺したりする場面を経験する事になったら、精神的に自滅しそうな気がする。だってそれは、想像する事も出来ないような経験だから。でもさ、それでも・・・・」あの時は無意識に動いていたけど、よくよく考えてみれば酷い事をしてるんだよなぁ・・・・罪悪感がないのは、カットベルが言ってた血の影響ってヤツなのかな。いいや、違うな・・・・きっとたぶん、あの大男が人間じゃなかったからだな。それに・・・・。


「そう思ってるのに、それでもカットベルさんの傍に居てあげるの? イヤだって清水坂が言えばさ、カットベルさんならその気持ちを尊重してくれるんじゃない?」あ、イヤな私が出てきてる。しかも、それに気づいたのに止められないでいる。私、完全に嫉妬してる。嫉妬してるんだ、私・・・・。


「それは・・・・うん。そうだと思う」あの大男は人間とはかけ離れた容姿だったからっていうのもあるんだろうなぁ・・・・カットベルの敵だからではなく、偏見? 差別? スフィアさんは人間っぽかったから助けた? いいや、スフィアさんは走り去るのを見て気づいたんだっけ。やっぱ、カットベルの事が好きだからなのかな・・・・でも、カットベルも今の俺も同じ怪異の者なんだよな。


「それならどうして? どうして言わないの?」どうして私を選んでくれないのよ!


「それは・・・・」惚れちゃったから、カットベルに。


「ねぇ、清水坂」私の事、どう思ってくれてるのかな。


「ん?」あれ、何か急に雰囲気が・・・・どうしたんだろ?


「もしも私が、さ。実は、カットベルさんのように怪異の者だったとしたら、さ。清水坂はそれでも・・・・今までみたいに、仲良くしてくれた?」私の位置が知りたくてたまらない。もしも、


「そんなの当たり前だよ」浜本?


「え・・・・」っ、と。


「急に、どうした?」そんなの当たり前の事なのに。


「そっか・・・・うん」即答してくれるんだね・・・・嬉しいな。うん。そうだったよ。清水坂ってそういう男だったんだ。そうだよね、うん。清水坂ならさ、それがどうかしたの? って感じでさ、おもいきって訊いたのにコッチが拍子抜けしちゃうよってくらいにさ、悩んでいた私がバカみたいじゃんってくらいにさ、真正面から受け止めてくれるんだよね・・・・こんなふうに、今みたいに、さ。誰よりも優しいから、清水坂は。いつだって私の味方してくれたから、こんな感じでヤキモチ焼いちゃうのって久しぶりかも。あの時だって、最終的にはカットベルさんと仲良くて見ていられなくて逃げ帰るように後にしちゃったし。


「浜本?」どうした?


「清水坂、ありがとう・・・・」うん。うん。そう。そうだったよ。そうなんだよねぇー。こんな事なら言えば良かったよ、私。痛恨の大失敗です。


「そんな当たり前の事を訊いて、どうしたんだよ、急に」しかも、脈絡ないし。


「そうだね。ゴメン・・・・あはは」たしか、人間は親兄弟や子供とかとは五割のシンクロ率で繋がっているという。それはつまり、人間は様々な感情の半分を共有しているという事で、半分は我が身に起きた事と捉える。そして、たしかミツバチはそれが人間よりも多くて八割弱程あって、だから仲間が攻撃を受けると我が事のように大挙して敵を迎撃しようとする。そんな話しを何かで読んだ記憶がある。それをふまえて考えてみればきっと、バンパイアのそれは人間よりも強いという事で、たぶんミツバチのそれくらいあるのだろう。殆どの血がカットベルさんの血である今の清水坂は、それが愛情と重なってより強い絆で結ばれたのかな。そうじゃなきゃ、あんな戦闘をあんな冷静にこなせないもん。試合や喧嘩とは違うんだから。


「ホントにどうしたの? 急に」それにさ、怪異の者になったのは浜本じゃなくて俺だぞ。


「あのね、清水坂?」私ね、ホントは清水坂の事が好きなの。大好きなの。しかもね、ずっと以前からそうなんだよ。カットベルさんよりも早く、清水坂の事を・・・・好き好き光線だっていっぱい発射してたんだぞ? なのに清水坂ってさ、そういうの気づかないんだよね。周りは殆ど気づいてるくらいだったのに。大好きだから清水坂と・・・・って、今更そんなのズルいか。でもね、告白する勇気がなかったんだよ。だって、自信なかったもん。だから今もまだ、真実は言わないでおこうとしてる。受け止めてくれるんだと判った今でも私は、劣等感と憧れを抱いてる。固執してる。


「浜本、どうした?」何か今日の浜本はいつもと違うぞ・・・・って、それはそうか。怪異の者がいて、怪異の者になったって言われても、だよな。


「え? あ、あのさ・・・・あ、うん。しかし残念だなぁ~って、思ってさ」こういうヤリ方じゃないと、チラ見せする事すら出来ないんだよね、私。目一杯に見せつけたいクセにさ。


「ん? 残念って?」やっぱ、怪異の者ってのは少なからずショックなのかな。


「だってさ、彼女が出来ちゃったならもうさ、清水坂とのストレス発散はNGでしょ?」ストレス発散、かぁー。そんな軽い想いなんかじゃなかったのに、どうして私、そう言っちゃったかな。どうしてちゃんと言わなかったのかなぁ・・・・。


「なんだよ、それ」ストレス発散、か・・・・ホントは俺、そんな軽い想いなんかじゃなかったよ。


「まさか浮気させるワケにはいかないもんね。これじゃあ、他に相手を探さなくちゃだよ」やっぱり、痛恨の大失敗だよ。


「何人もキープしてるんじゃなかったのかよ」浜本は美人だし、優しいし。


「えっ、清水坂だけだよ。ホントにそう思ってたの? そんなの見栄を張ってただけ!」清水坂以外ともだとしたら、それはもはやサルだよ。少し考えたら判るのに・・・・って、清水坂とだけでも既にサルかもだけど。でもそれは清水坂とだから・・・・って、清水坂のバカ! 私は一途なんだぞぉー! あ、そっか。私のせいか。


「オレにそんな見栄を張る理由が判んないよ。浜本って手紙とかいっぱい貰ってたから、ホントにキープしてると思ってた」違ったのか。モテそうなのに・・・・。


「実は、あれは全て女子。更に言うと、同性には今でもモテモテです」そんなのそういう事にしとけば清水坂が嫉妬とかしてくれるかなって思ったからに決まってるじゃん・・・・これも痛恨の大失敗か。でも、少しは疑えよなぁー。それに、ヤキモチすらしないし。


「そうだったんだぁ・・・・知らなかった」あれって女子からだったのか。めちゃんこモテそうなんだけど。聞いてみないと判らない事ってあるんだな。


「完全に清水坂仕様になってるから、メンテナンスが大変だよ・・・・」清水坂以外と、か。考えらんないよ、そんなの。


「何か、その、ゴメン・・・・」そう言われると、罪悪感が・・・・でもやっぱ、浜本は男からもモテると思うんだけど。


「じゃあ、責任とってくれる?」一緒にナゴヤに行ってくれるとか、今すぐ捺印して区役所に提出してくれるとか、なんてね。


「えっ」からかってるだけなんだろうけど、答え方によってはブッ飛ばされるような気がする・・・・女心は複雑だし。


「チョット、悩まないでよぉー!もう決めたんでしょ? ったく、清水坂はエスのクセに優しいからタチが悪いよホント」しがみついちゃうぞ?


「エスってそんな・・・・」それは、浜本の方が・・・・でもないか。


「たっぷり経験してますけどぉ? すっかり清水坂仕様になってますし。身に覚えがないなんて言ったら、弄んだ上司と弄ばれたOL遊びしちゃうぞ?」嫌いなんかじゃなかったけどね。寧ろ好・・・・って、完璧に清水坂仕様だな、私。


「ゴメンなさい」でも、あれは浜本が・・・・うん。自粛。ブッ飛ばされそうだから黙っておこう。


「なんなら、キープしとく?」私はそれでもイイよ。もしかしたらまさかの大逆転とか、ある・・・・のかな。


「それはどういう意味でしょうか?」からかうなよなぁ・・・・やっぱ、浜本の方がエスだよ絶対。


「勿論、女のプライドです!」ホントはさ、諦めたくないっていう未練がましさなんだけどね。


「プライド?」意味が判んないよ。からかって楽しんでるようにしか見えないけど。


「カットベルさんに出会わなかったらさ、で、ナゴヤに一緒に来てって言ったらさ、清水坂は来てくれた?」あう、う、ヤバい! 訊いちゃったよ、私。


「えっ・・・・」と、急だな。でもそれは、勿論。


「あ、やっぱ」答えが怖いから言わないで!


「行ったと思う」いつかは俺の事、好きになってくれるかもって思っていたから。


「え、ホント?」そうなの?


「うん」もしも浜本が、来てとか来いとか言ってくれたら嬉しいもん。卒業後の事を何も決めていなかったのは、そのもしもを期待してだったりもするし・・・・。


「そっかぁー」こんな事ならさっさと言えば良かったよ。間違いない。これはもう痛恨の大失敗だぁー! 油断していた私のせいだ。だからきっと、うん。これは運命なんだね。素直にならなかった罰だ。


「うん・・・・」結局は、俺の片想いのまま終わったんだけどね。


「ねぇ、清水坂」それなら、背中を押してあげなきゃ。


「ん?」何かまた、雰囲気が変わった感じが。


「カットベルさんを大切にしなよ?」たぶんきっと、清水坂だけが頼りだと思うよ。だって、清水坂に向けるあの表情、そしてあの態度は、噂に聞く闇夜の悪魔とはまるで違ってたもん。


「えっ、と」守れるのかな・・・・俺なんかで。


「大切にしてあげなよ?」吸血族の吸血行為は二つの理由がある。一つは眷属にする為。そしてもう一つは・・・・愛情の証しとして。清水坂がカットベルさんの血を吸っても、カットベルさんは眷属にはなっていない。と、いう事は。うん・・・・私の負けだ。


「うん」そうだよね。頑張るよ。


「それと、その教団にはかなり気をつけて。敵に回すとなると厄介だから、凄く」頑張って、清水坂。私はいつだって、清水坂の味方だよ。


「う、うん・・・・」浜本も知ってんのかぁ・・・・有名なのかな? あ、そう言えば。何て名前なのかすら知らない。


「よし、話しは終わり! 夜が明ける前に帰ろう」

 そう言って最後のヒトツ、すっかり冷めきってしまったポテトを口に運んだ浜本は、ひょいっと立ち上がるとスタスタとレジに向かった。


「え、あ、家まで送るよ」

 清水坂が慌てた様子で追いかける。


「大丈夫よ。襲われても負けないから」ありがと、清水坂。カットベルさんのトコに帰ってあげて。私は負けないから、ホントに大丈夫だよ。


 だって私・・・・、

 モンスターだもん。


 からん、からん。


「じゃあ、気をつけて」

「うん。じゃあね」


 清水坂と浜本が店を出たのは、夜が明けようとしている頃であった・・・・。


 ・・・・。


 ・・・・。




            第六幕) 完

            第七幕へ続く

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