始めての戦い~プーラン一家~
「おいガキ、おめぇがワシらを倒すやと?
身の程知らずのガキやな。ワシがここいら一帯の山賊の首領"プーラン一家"の頭プーラン・ブラブラ様やと知らんのか?
今すぐワシを怒らせたこと後悔させたるわ!」
シュラノが挑発を終えると、運転席にいた山賊の男がそう怒鳴った。
プーラン・ブラブラって……。僕は、吹き出しそうになるのを必死に堪えた。
僕が笑っちゃいけない、僕は笑わす側だ。
しかし、よくそんな名前大声で名乗れたな。僕がもしそんな名前だったら、生きていける自信がない。いや、死ぬ前にそんな名前を付けた親を殺すかな?
余談はさておき、
僕に(というかシュラノに)怒ったブラブラ(笑)は勢いよく立ち上がると、荷車に足をかけた。
運転席で屈んでいたので分からなかったが、ブラブラは山賊の中で一番大きな体をしていた。
威圧的に僕を睨んだブラブラは肩に掛けていた大きな斧を構えると、それを大きく振り上げた。それは、丁度スイカ割りをする時のようなあの姿勢である。それはそれは、くすぐり甲斐のある姿勢だった……。
ブラブラは、「覚悟せい!」と叫ぶと僕に切りかかってきた。いや、切りかかろうとした。切りかかろうとして出来なかったのだ。
なぜなら、僕がブラブラの脇に狙いを定めて両手の指を動かしたからだ。
こちょこちょ
「ぐぅ……」
ブラブラは、僕のくすぐりを受けそう呻き声を漏らした。そして、斧を取りこぼし腹を抱えた。
いや、それは僕にそう見えるだけであって、ブラブラは自分の脇を押さえていた。
それはまるで、見えない蟲を追い払うかのように、見えない手を払いのけるかのように。
しかし、そんな行為は僕の能力の前では無意味もいいところだった。
ドラゴンのシュラノですら耐えることの出来ないくすぐったさ、それをただの人間のブラブラが耐えれるはずがない。
僕は更に指の動きを早めた。
こちょこちょこちょ
すると、とうとう耐えられなくなったのか、ブラブラは荷車から転げ落ち、腹を抱えて転げ回った。
「ぶ、ぶららららら、な、なんだ?
が、ガキぶららららら、、ワシに何をぶららららららららら、……」
それはそれは耳障りの悪い笑い声だった。
というか、笑い方が「ぶららららら」ってよっぽど気に入ってるんだね、その名前。
僕はそれから数秒間ブラブラをくすぐると指を止めた。
僕の能力から解放されたブラブラは、「ぜぇぜぇ」と苦しそうな息をして地面にうずくまってしまった。そのブラブラの元に数人の山賊が駆けつける。
「お頭!お頭しっかりして下せぇ。お頭!」
手下その①がブラブラの肩を揺するが反応はない。当たり前だ、息も出来なくなるくらいくすぐってやったんだから。
と、僕がブラブラの様子を見ていると、突然横から「危ない!避けて」という声が聞こえた。
余りに突然の、そして余りにかわいらしい声に驚いた僕は、声の主を確認する暇もなく体を伏せた。いや、それは伏せたと言うには余りにも不格好なものだった。
ただ単に崩れ落ちて倒れ込んだ、と言った方が正しいだろう。これもひとえに、日々の運動不足のなせる技だ。
狭い荷車の中で突然倒れたため、僕は頭を椅子に思い切りぶつけてしまった。
「痛っ……。なにが危ない!避けてだよ、避けたせいで頭打っちゃったじゃないか。」
と、不平を漏らしながら立ち上がろうとした僕の目に衝撃的な物が映り込んだ。
いや、別にその物自体はさほど衝撃的ではい。言ってしまえばただの棒切れだ。
そう、先っぽに尖った打製石器のような石の付いたただの棒切れだ。
衝撃的だったのはむしろ、それのある場所だった。
なんと、その切れ味の悪そうな槍が先ほどまで僕の頭があった場所に突き刺さっていたのだ。
いや、突き刺さるという表現は少し違う。そう、それは切っていたのだ。僕がとっさに避けた事により、その槍は空を切っていた。
「なっ……」
僕は絶句した。
あと少し避けるのが遅かったら、あの声が聞こえなかったら、僕は今頭に穴の開いた肉塊に成っていただろう。成り下がっていただろう。
それを思うと絶句した。
僕は言葉が出ないまま、視線を横へずらし槍の持ち主を見た。
それは、さっき僕に「ウルサいぞ」と言ってきた例の山賊だった。
僕は、その姿を目に留めると、頭で考える事なく体を動かした。
まるで、何かに命令され、突き動かさせているかのように。僕はその山賊をくすぐった。くすぐりまくった。
その山賊が動かなくなると、横にいた山賊を。それがまた動かなくなると、そのまた横を。
僕がある程度くすぐると、山賊は死んだように動かなくなった。
僕は壊れたように山賊をすくすぐり、そして山賊を笑い壊していった。
それは、多分僕の中の恐怖心の仕業だったのだろう。
槍で襲われたことによる恐怖が、僕の中の防衛本能とか、野生の本能とかを呼び起こし、そして使役したのだろう。
僕は、その時初めて感じた。恐怖心と言うものは、人を強くし、そして人を壊すと言うことを。
だって、僕は確かにあの瞬間、恐怖心に支配されたあの瞬間、誰よりも強かったのだから。
♦♦♦♦♦
僕が覚えていること、それは驚くほど少なかった。
ただ、気付いたときには僕らを囲んでいた山賊達は既に、1人残らず地に伏せていた。
ただ1人の例外もなく、全員が苦しそうに悶えている。
「凄いな浩介。さすがの私もお前1人でここまでやるとは思っていなかったぞ。
浩介がやられかけた所へ手助けし美味しい所を持って行くつもりだったのだが……まぁ今回は素直に誉めようとしよう。
って、ん?どうした浩介?元気がないではないが。」
山賊を倒した事を労うように僕の肩を叩いたシュラノが、僕の顔を見てそう言った。
そうか、僕は今元気が無い顔をしているのか。
正直、僕は今の状況を受け入れられていない。
僕に出来たことは、
「あ、うん。そうだね。」
と、他人事のように返す事だけだった。
今の僕の心には、嬉しさというものは存在していなかった。そこはただ単に、信じられない気持ちと驚きで満ちていた。
僕の得た能力。その真の力の一端を見た気がしたからだ。
しかし、そのことで僕が高揚したり傲ったりする事はなかった。
人間が、予想以上の力を得たときに感じる感情。それは、自分へ対する畏怖だった。
浩介の能力は、あまり戦闘向きではないので今回の話は短めです。
今回の戦闘を機に話が少し動きます。
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