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魔法ってほんとにあるんだね

 僕の目の前に、旅人風の男性が立っていた。

 緑色のマントを身に纏い、ブーツを履き、西部劇の登場人物が被っているような帽子を被っている。

 その男性は気怠そうに首を回すと、大きく一回伸びをした。


「やはり人の体は窮屈だな。特に背中のあたりに違和感を感じる。

 少し感覚が鈍っていたかな、なんせ前に人の姿になったのは100年以上前の事だからな。」


 男はそうぶつくさ言いながらストレッチを始めた。

 僕は、その男の声を聞いて目を丸くした。だって、その声はシュラノと全く同じだったのだから。


「えっと……もしかしてなんだけど、あなたはシュラノですか?」


 僕が恐る恐る訊ねると、男は振り返ってこう言った。


「なに当たり前のことを聞いている。この私以外にシュラノなど居はずがあるまい。

 当然この私こそが、高貴なるシュラノ・チワーナだ。

 ん?どうしたのだ浩介?

 そんな風に頭を抱えて、頭痛でもするのか?」


「そりゃ頭も痛くなるよ!なんだよその姿!

 めちゃめちゃカッケーじゃんか!」


 そう、シュラノは格好良かったのだ。

 そのせいで僕は、酷い頭痛に襲われていた。

 ドラゴンのシュラノを見ていて、僕は勝手にダサいおやじの姿を想像していたのだ。

 無駄にプライドが高かったり、やたら器が小さかったり、キレやすかったり……。シュラノの性格は校長にも教頭にも成れなかった定年間際の男性教師のようだったからだ。

 だが、実際に人の姿になったシュラノはどうだ?

 体格は細身ながらもがっちりとした印象のある細マッチョ。

 顔は例えるなら仮面ライダーシリーズの主役やれそうな感じのイケメン。鼻が高くて、目は少し鋭くて、唇は薄め、もう何から何まで格好いい。


「そうか!めちゃめちゃカッケーか。

 案外人を見る目が有るではないか浩介よ。

 これからはもう、私をくすぐるなどというふざけた行いは慎むように。」


 シュラノは、驚いた僕を見て満足げに胸を張った。

 その姿はドラゴンのシュラノと被るところがある。

 確かに今後シュラノをくすぐるのは控えた方が良いだろう。

 ドラゴンが巨体を揺らして笑い転げる姿もなかなかシュールだったが、このイケメンがヒイヒイ言いながら笑い転げるのは、なんだか別の意味でヤバい気がする。


「分かったよ。もう、当分はくすぐらないから。

 それより、人の姿になったことだし早く城の方へ行こう。

 僕は、あまりのんびり出来ないんだ。」


 そう、僕は早くこの世界から抜け出さなければならないのだ。

 この際、シュラノが予想以上に格好良かった事には目を瞑るとしよう。とにかく、まずは人に会わなければ。


「よし、それならこの山を降りてヤヌ車乗り場まで行くとするか。

 人の姿で旅をするならヤヌが一番だからな。」


 シュラノはそう言って、僕の先に立って山を下り始めた。



♦♦♦♦♦



 山を下り終え、水田の中のあぜ道を少し行くと少し大きな道に出た。

 その道をまた少し行くと、水田と道との間に小さな小屋のような物が見えてきた。

 小屋というか、ベンチに屋根を付けたものというか……。

 見た目は完全に、バス停のそれだった。


「ここが、ヤヌ車乗り場だ。

 一時間に一度、車を引いたヤヌがここを通る。それに乗ればアステカ帝国の中心地まで歩かなくて済む。」


 どうやら見た目通りの用途のようだ。

 シュラノはバス停じゃなて、ヤヌ停?のベンチにドカッと腰掛けるとマントの下から巾着を取り出した。


「別の世界から来たと言うことは、浩介はここの通貨を持っていないのだろ?

 ここは共に旅をするよしみとして、私が特別に金を貸してやろう。

 ほら、この巾着には10万クーが入っている。」


 シュラノは焦げ茶色をした頑丈そうな巾着を僕に放り投げた。


「え?シュラノが僕に金をくれるの?

 一体どういう風の吹き回しさ。」


 シュラノはなんの特もなしに人に金を貸すようなドラゴンではない。

 それが、この短い時間一緒に過ごして感じた僕の印象だった。


「誰がやると言った。貸すと言ったのだ。

 それに、私は高貴な家の者だからな。それくらいの端金を浩介に渡したくらいでなんの問題も無いのだよ。」


 はぁ、そうですか。シュラノの言い方は一々鼻につく。

 だが、シュラノの言う通り僕はこの世界のお金を持っていない。ここはありがたく頂いておくことにする。

 僕は受け取った巾着をズボンのポケットに仕舞いシュラノの隣に腰掛けた。

 ベンチに座ると、一気に疲れが押し寄せてきた。

 改めて思うと、今朝トラックにひかれてから、僕の人生は激動している。

 正直、今でもこれは夢なのでは?と思っている。

 しかし、この体のだるさとシュラノから受け取った巾着の重みが、その考えを否定した。

 立ち止まるといつも自分の置かれている状況について考えてしまう。

 いや、こんな状況に陥っているのだ、それも仕方のないことなのだろう。

 だけど、僕はそれを考える度に答えの出ないもどかしさを感じていた。

 だから、もう僕は考えないことにする。

 僕がこの世界に飛ばされてきたのも、僕に変な能力が身に付いたのも、全て僕の考えの及ばない別の次元での出来事なのだろう。

 それなら、考えない方がラクである。

 思考を放棄することほど人を解放する物はない。と、僕は思っている。

 だから、僕はこの世界について考えない。

 その代わり、僕は元の世界に戻るために一生懸命になる。

 その方が余程有意義である。


 僕は、古臭いベンチの上でそう誓った。










物語の進みが遅くてすいません。

次話かその次あたりに、一つ事件が起こる予感がします。

気に入って頂けたなら、お気に入り登録等よろしくお願いします。

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