やっぱりここは異世界のようです
「まずは名を名乗っておこうかな。
私の名は、シュラノ・チワーナ皇だ。
何を隠そう、私は高貴なる龍族の中でも特に選ばれた一族チワーナの者なんだよ。
そんな高貴な一族に生まれついた私は、みるみると頭角を表し、遂には次期龍族の主竜候補にまで登り詰めたのだ。
どうだ、スゴいだろ。尊敬しても良いんだよ。」
シュラノは自慢気に羽を広げ、胸をこれでもかと張ってそう言った。
いや……そんな話しどーでもいいんだって。
第一、さっきの馬鹿笑いを見た後にそんな話しを聞いてもねぇ。
しょうがないので僕は指をこちょこちょと動かした。
「あひひひひひ、わ、悪かった。ちゃんと話しを聞くから、あひひひひ、も、もう止めてくれ。あひひひひひひ……」
この能力、以外と使えるのかもしれない。
♦♦♦♦♦
「この世界について知りたかったのだよな?
よし、それではこの私が直々に教えてやろう。」
シュラノは、さっきの出来事がまるで無かったかのようにいきなり話し始めた。
「この世界はエンドレイズと呼ばれている。
この世界にはいくつかの種族の生き物達が互いに共存している。
例えば、我ら龍族と人は長年の友好関係を築いている。」
「と言うことは、この世界には人が居るんだね!」
この世界に人が居る。それが分かって、僕はとても安心した。
もしこの世界にドラゴンしか居なかったらどうしようかと考えていたところだ。
「ああ、居るともさ。沢山な。
ちょうどこの湖をちょっと行ったところに人の国がある。」
シュラノはそう言って湖の反対側の山を指差した。
その方向へは、僕が通ってきた道が続いている。やはりこの道は人が通った跡のようだ。
「それならさ、僕をそこまで送っていってよ。空を飛んだらあっという間でしょ?」
僕はごく普通にお願いをしたつもりだった。しかし、僕のこのお願いを聞いて、シュラノがいきなり怒りだした。
「はぁ、馬鹿言ってんじゃない。何で私がそんなことしなきゃならないんだ。
人を背中に乗せて移動するなどヤヌのすることだ。私のような高貴なもののする事ではない。」
「ヤヌ?なにそれ?馬みたいなもの?
そんなのどうだっていいんだよ。もう僕は疲れたんだ。
シュラノが送ってくれればすごくラク何だけどなぁ」
「馬鹿を言うな、何故私がお前などの為に働かなければならい!
それに、人を乗せて飛んだなどと知れたら、私は一族の笑い者だ。」
いや、もうさんざん笑ったでしょアンタ。笑い者にはならなくても、笑う者ではあるんだから。
それになにが、龍族と人は長い間友好関係を築いてきた、だ。本当は人のこと嫌いなんじゃないのか?
僕は、シュラノの態度をみて、そのように感じた。
「まったく、お前と居れば何時、またわがままを言われるか分かったものではない。
私はもう行く。この先の国には自分で行くのだな浩介よ。」
シュラノはそう言って大きな翼を広げた。どうやら本当に飛んでしまうらしい。
しかし、シュラノは忘れている。
そもそも、どうしてこんな湖の湖畔で僕と話をすることになったのかということを。
僕はシュラノが力強く羽ばたくのを見つめながら、両手を顔の前に持ってきた。
シュラノが羽ばたく度に大きな風が起こるが、そんなのどうってことはない。
なんせ、僕が能力を使うためにしなければならないことは一つだけなのだから。
僕は、シュラノが足に力を入れたのを見計らい、指を動かした。
こちょこちょ
「あひひひひひ、や、止めろ、卑怯だぞあひひひひひひ、こ、こんな事で私があひひひひ、屈すると思うなよあひひひひひひひひひ………(5分後)………お、お願いでしゅあひ、あひ、あひひひひ、もう止めて、なんでも言うこと聞くからあひひひひ……」
う~ん、流石にヤりすぎたかな。
シュラノは、笑いすぎて逆に笑えなくなっている。
よく分からないけど、笑うことに必要な肺とか横隔膜?とかが悲鳴を上げているようだ。ようは、笑いすぎてお腹が痛くなるって言うのの一つ上の段階と言ったところだ。
息も絶え絶えなシュラノが可哀想なので指を止めることにした。
「お、おのれ、この私をこんな酷い目に遭わせるなど、後でどうなるか分かっているのか。」
シュラノは、ぜぇぜぇと荒い息を吐きうつ伏せに倒れている。
そんな状態で凄まれても、全く怖くない。
「ハイハイ分かったからもうしゃべるなって。息もまともに出来てないんだからさ。」
初めて会ったときの恐怖はどこに捨てたんだ!というくらい、僕は自然体でシュラノを労った。
ほんの小一時間でドラゴンと自然体で話せるようになるなんて、人間の適応力はハンパない。
「誰のせいだと思っているんだ。お前などに出会わなければ私はこんな目には……。
よし、決めた。お前を人の国へ連れて行ってやろう。
だが一つ条件がある。お前の旅に私を連れて行くのだ。」
「はぁ?なに言ってんだよ。ドラゴンなんか連れて旅なんて出来るわけないだろ。
シュラノは僕を、その国に連れて行ってくれればいいの。
後は自分で、家に帰る方法を探すから。」
「いや、このままでは私の気が納まらない。お前と共に旅をして、いつか必ずお前に復讐をする。」
おいおい、話がおかしな方向へ進んでいるぞ。
くすぐられすぎて頭がおかしくなったのか?
「ちょっと待ってよ。なんでわざわざ僕に復讐するつもりのドラゴンを連れて行かなきゃならないのさ。
そんなの、僕にメリットが無いじゃないか。」
「いや、メリットならある。
何故ならこの私は龍族のエリート一族チワーナの者だ。
幼き頃からこのエンドレイズの空を端から端まで飛んで旅をしたものだ。つまり、私はこの世界の隅々まで知り尽くしているのだ。
それに、人の国へ行くときは姿を変えることもできる。それくらいの魔法なら私にも使えるからな。」
呼吸が落ち着いたシュラノは、胸を張ってそう言った。胸張るの好きだな。
「え?シュラノ魔法使えるの?」
僕のくすぐり能力然り、目の前にいるドラゴン然り、僕はこの世界がよくゲームとかで出てくるファンタジーの世界に似たものだと考えていた。
だから当然、魔法が存在しているとは考えていた。だけどまさかシュラノが魔法を使えるなんて。
「なにをそんなに驚く。この世界に生きるものなら少なからず魔法を使えるのだぞ。
あ、そう言えばお前は別の世界から来たのだったな。
実は私は、お前の力が魔法の類ではないかと考えていたんだ。しかし、魔法の存在を知らないとなるとそうではないのかもしれないな。
まぁ、お前の能力については、これから見定めるとする。
どうだ?私を連れていく気になったか?」
正直、僕は迷っていた。
確かにシュラノの力は今後役に立つだろう。
しかし、ドラゴンを旅の友に選んで良いものなのだろうか。
あの桃太郎でさえ、始めのお供は犬なのだ。これは……関係ないか。
まぁ悩んでいても仕方がない。取り敢えず人がいる所に連れて行ってもらわなければならないのだ。
このまま、シュラノの同行を拒否し続ければ、人の国まで僕を送っていくと言う約束も反故にされかねない。
シュラノをお供にするかどうするかは、取り敢えず棚上げしておくことにする。
「分かった。それじゃあ付いてきてもいいよ。ただし、僕の邪魔はしないでね。
僕はこのエンドレイズから早く家に帰りたいんだから。」
「分かった。約束しよう。
お前の邪魔はしない。お前の邪魔にならないように復讐をする。」
邪魔にならない復讐って一体どんなだよ!というツッコミを飲み込み、僕はこれから宜しくと右手を出した。
シュラノは、くすぐりられると思ったのか一瞬体をすくめたが、直ぐに意味を理解し、右手(右前足?)を僕の右手に添えた。
ここに、異世界から来たくすぐり能力者(僕)と、龍族のエリート(シュラノ)のちょっとおかしなパーティーが成立した。
一応ここまでがプロローグみたいなものです。
次話から浩介とシュラノの冒険が始まります。
次話からは投稿のペースを少し落とします。あしからず。