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敵キャラって仲間になると途端にキャラが緩くなる

「お前は何者だ?」


 目の前にいるドラゴンは、確かにそう言った。

 僕を食べることも、口から火を噴くこともせず、喋ったのだ。

 あまりの衝撃に、僕は固まってしまった。

 僕が黙っていると、ドラゴンが質問を繰り返した。


「もう一度問う、お前は何者だ?」


 ドラゴンは鼻と鼻とがくっつくほど近くに寄ってきた。

 その眼光の鋭さと、時折のぞく真っ白な牙が僕の恐怖心を更に煽る。

 他にどうすることも出来なかった僕は、震えながらドラゴンの問いに答えた。


「ぼ、僕は、香坂浩介こうさかこうすけです。」


 僕がそう答えると、ドラゴンの黄色い瞳がギロッと動いた。

 一挙手一投足が怖くて怖くて仕方ない。


「そうか、浩介か。

 なら浩介、お前に問う。お前は一体何をした?」


 ドラゴンの地響きのような声がそう言った。


「な、何って僕は何にもしていない。」


 僕の声は蚊の鳴き声のように小さい。

 あまりの恐怖に思考が鈍っていた僕は、ドラゴンが訊ねた意味を理解できないでいた。そんな中でも、僕は嘘偽り無く正直に答えた。しかし、僕の答えはドラゴンの納得するものではなかったようだ。


「嘘を吐くんじゃない。お前が使ったのは魔法か?それとも奇術か?

 なんでも良い、正直に答えろ!あの時私の体を駆け巡ったこそば痒い感覚は何なのだ!」


 魔法?奇術?なんのことを言っているんだ?

 もう分からない。頭の中の回線がパンクしてしまいそうだ。

 僕はもう、ドラゴンの問いに答えることも出来ずに、ただ力なく首を振った。


「そうか、どうしても口を割らないのだな。

 それでは仕方ない。お前など、食い尽くしてくれる。」


 ドラゴンはそう叫ぶと、その口を大きく開いた。後少し首を伸ばせば、僕は頭から丸飲みにされてしまう。

 僕はとっさに右手を出し、制止を促すように左右に振った。


「待って、待ってくれって。怒らせるようなことをしたのなら謝る、ごめんなさい。だから食べるのはちょっと待って。

 僕はついさっきここに来たばかりなんだ、なにも分かってないんだ。

 お願いだから話を聞いてくれ!」


 さっきまでの震えていた声が嘘のように、僕は早口でそうまくし立てた。人間、本当に窮地の立たされると案外今まで以上の力を発揮できるものだ。

 すると、今にも喰ってかかりそうだったドラゴンが動きを止めた。それは、まるで先程の光景をもう一度見ているかのようだった。

 口を開いたまま固まったドラゴンは、「フグッ」と声になっていないうめき声を上げて横に倒れた。

 僕はドラゴンが固まってから倒れるまでの光景を、呆気にとられて見ていた。

 すると、倒れたドラゴンが倒れたまま口を開いた。


「やはりお前の力ではないか。つまらない嘘を吐きよって。

 この私を二度も倒した人間などお前が初めてだ。こんな屈辱を味わったのも初めてだ。」


 僕はドラゴンの言葉を聞いて「だから僕は何もしてないんだって!」そう言おうとした。

 しかしそこでふと、あることに気付いた。それは、ドラゴンが固まったときの僕の行動だ。

 一回目、ドラゴンが空中で止まったとき、僕は両手を必死に振っていた。

 そして今回、またしても僕は右手を振っていた。


 僕が手を振るとドラゴンが固まる。


 そんな仮説が、僕の頭の中に生まれた。

 ん、ちょっと待て、確かさっきドラゴンは"こそば痒い感覚が体を駆けめぐった"と言っていた。と言うことは、


 僕が手を動かすと、ドラゴンがこそば痒くなる。


 その仮説に辿り着くと、僕は自分の手とドラゴンを見比べた。


「まさか……ねぇ?」


 僕は、おずおずと手をこちょこちょと動かした。

 こちょこちょと言うのは、人の脇とかあしのうらとかをくすぐるときのそれである。

 それは、仮説を証明するための行為と言うより、仮説が間違っているのを確かめるための行為だった。

 しかし、現実は僕の予想を裏切らなかった。

 僕が指をこちょこちょした瞬間、あれほど強面だったドラゴンが、腹を抱えて笑い出したのだった。


「あひひひひひ、い、息が出来ない。

 お、おのれ、あひひひひ、私に何をしている、あひひひひ……」


 腹を抱えて笑い転げるドラゴン。それはとてもシュールな光景だった。

 僕は、十秒くらいこちょこちょを続けると、指を止めた。

 すると、呼吸障害に陥っていたドラゴンの笑いもピタッと止んだ。

 これはもう確実だ。

 僕は自分の両手を見つめ、そして天を仰いだ。


「変な能力身についたーーーー」


 僕のその叫び声は、あたりの山に反射して何度も僕の元に返ってきた。



♦♦♦♦♦



「なるほど、お前は異世界から飛ばされてきたのか。

 しかし、不思議だ。お前の能力はこの私ですら見たことがない。一体何なのだ?」


 僕の目の前にいる座ったドラゴンがそう言った。

 あの後、僕はドラゴンに僕の身に起こった全てのことを話したのだ。


「知らないよ。」


 僕は短くそう答えた。

 なんだよ、離れた相手をくすぐる能力って!全然格好良くないよ。

 大体、今の状況ってなんだよ。

 なんでドラゴンと一緒に湖の湖畔に腰掛けて話をしなくちゃ行けないんだよ。

 僕は心の中で愚痴を吐きながら、同時に少し希望のような感情を持っていた。

 この世界に来て初めて言葉を話せる生き物に出会ったのだ、何としてもこの世界のことを聞き出して元居た世界に帰る方法を探さなければならない。たとえその相手がドラゴンだったとしても。


「僕の能力の事は今は置いておこう。

 それより聞きたいことがあるんだ。」


「私の武勇伝か?」


 え、いや違うんですけど。


「いや、それじゃなくて、この世界は一体どんなところなのかと言うことを……」


「そんなに聞きたいか、私の武勇伝。

 仕方ない、私を倒したお前にだけ特別に話してやろう。」


 いや、だから違うって。

 そう思った時には、既にドラゴンの武勇伝は始まっていた。






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