表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/43

シリアス展開になる予感

「状況から考えると、浩介が私に触れたことで能力が解けたと考えるのが妥当だな。」


 シュラノは、何処から取り出したのか軟膏のようなものを顔に塗っている。

 傷口に滲みるのか、時折顔をしかめている。

 その原因を作った身としては、申し訳ないことこの上ない。


「そう考えるのが妥当だろうね。

 でも、なんで僕が触れたら能力が解けるんだ?」


「そんな事私が知るか。浩介の能力は分からないことだらけだからな。

 そんな事を言いだしたら、なぜ恥苦笑は指を動かすだけで相手を笑わせるのだ?」


「それは……分からないけど……。」


「そうだろ?

 発動条件の理屈も分かっていないのだ。そんな状況で、解除条件が分かるものか。」


 と、シュラノが珍しくもっものな事を言った。

 シュラノがまともな事を言うと、こっちの調子が乱れる。


「でもさ、これじゃあ謎が増えただけじゃないか。

 いくらこの能力……恥苦笑がパワーアップしたからって、こんな曖昧な力を使うなんて危険すぎるよ。」


 先程も、恥苦笑はシュラノを殺しかけている。

 僕の能力『恥苦笑』は、もう人を笑わせるだけのハートフルな能力ではなくなっている。

 能力の対象者を呼吸困難に陥れ、窒息させると言う恐ろしい能力に変貌してしまったのだ。

 悲しいことに、これからは暇つぶしにシュラノをくすぐることが出来なくなってしまった。


「確かにそうだな。ついさっき私も殺されかけたことだし。

 だが、今はそうも言っていられないだろ。あのコーヒと言う女の子を救わなければならないのだからな。」


 そうだ、僕はそのために修行をしたのだ。

 だけど、


「それならもういいんだよ。

 僕はあの子を笑わせられなかったけど、ミミが採ってきた薬草で、もう解決しているはずだからさ。」


 そう、僕が今更能力を向上させた所でなんの意味もないのだ。

 今頃、ミミが採ってきたにっこ草とか菜憎草とかいう薬草の効能で、コーヒの感情は戻っているはずなのだから。


「それはどうだかな」


 シュラノは、なにか思わせぶりな口調でそう言った。

 もしかしたら、シュラノはこの時既に気付いていたのかもしれない。

 コーヒにかけられた呪いは、ミミや僕が考えているよりもずっと強力だということに。


♦♦♦♦♦


 その悲鳴が聞こえたのは、僕らが裏山を下りようとした時だった。


「イ、イヤーー」


 この声を金切り声と呼ぶんだと納得してしまうくらい、切羽詰まった叫び声が聞こえた。

 その声の主は、恐らくミミだろう。

 これだけ広いノンシュガー家の端に居た僕らがはっきり聞き取れるほどの大きな叫び声を上げているのだ。

 一瞬で、何かとんでもないことが起こっていると気が付いた。

 そして、それと同時に僕らは駆け出していた。


♦♦♦♦♦


 僕とシュラノは山の斜面を激走したため、猛烈な早さでコーヒの部屋に着いた。

 その間、時間は二、三分と言ったところか。

 我ながら、よくそれだけ走れたものだと後になって思う。

 多分、女の子の悲鳴は男子をパワーアップさせる力を持っているのだ。

 ただ、この時はそんなパワーアップは関係なかった。

 なぜなら、僕らが部屋に着いた時には、ミミはぐったりと床に倒れていたのだから。


「ハァハァ……ミミ?

 おい、どうしたんだよ。一体何があったんだよ?」


 全力疾走を終えたばかりで息が整わない僕は、フラフラと床に横たわったミミに近づいた。


「ハァハァ……ミミ返事をしてくれ。

 一体何があったんだ?」


 もう一度訊ねたが、返事はない。

 ミミは、まるで死んでしまったかのようにピクリとも動かない。

 その事が、僕の鼓動のスピードを早めた。

 僕は、フラフラとミミに歩み寄り、両手でその体を持ち上げた。

 僕の両腕にすっぽりと収まったミミの体は、信じられないほど軽かった。

 女の子の体重がどれくらいなのかという事を僕は知らないが、それでも明らかにミミの体重は足りていなかった。

 その時、部屋の入口に立っていたシュラノが突然叫んだ。


「危ない、浩介逃げろ!」


 僕が聞き取れたのは、「浩介に」という所までだった。

 なぜそこまでしか聞き取れなかったかというと、突然何者かに殴り飛ばされたからだった。


「うぐぅ……」


 これまで感じたことのない衝撃が、僕の右わき腹を襲った。

 右わき腹に痛みが襲う前に、体が飛んでいく感覚がした。

 そして、気が付いた時には、僕は壁にもたれ掛かるようにして座っていた。

 何が起こったんだ?だけに殴られたんだ?僕はまだ生きているのか?

 いろんな思いが頭の中をぐるぐる回った。

 それはもう走馬燈のように。

 僕は、そんな走馬燈の中に一つの違和感を見つけた。

 それは、僕の両腕が湿っているということだ。それはもうびっしょりと。

 その両腕の感覚に気が付いた時、僕は一つの謎が解けるのを感じた。

 その謎とは、ミミの体が異様なくらい軽かったことだ。


 真実に気が付けばこんな事謎でも何でもない。

 ミミの体から、血液が大量に流れ出ていただけなのだから。













題名通りなんですけど、ここからシリアス展開へと移行していきます。


もしかしたら苦手な方が居られるかもしれませんが、またすぐに緩い展開に戻りますので我慢してやって下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ