もしかして芽生えた?友情って奴が
シュラノは巻物が破れないよう、ゆっくりと開いた。
「我が家が、由緒正しきチワーナ家だと言うことは、覚えているな。
この巻物は、我が家の書庫に保管されていたものだ。
それを昨日の夕食の後、この私がわざわざ取りに行ってやったんだぞ。」
シュラノは、感謝しろと言わんばかりに胸を反らせてそう言った。
「昨日の用ってのは、その事だったんだ。
で、その巻物は何について書かれた物なんだ?」
「そう慌てるな。巻物について話すより、まずは昨日の私の苦労話を話そうではないか。」
「いや、その話は良いから、早く本題に。」
話がそれそうになったので、僕はシュラノを手で制した。
それに、シュラノは苦労話と言っているが、どうせその中身は自慢話に決まっている。
だが、シュラノはどうしてもその話がしたかったらしく、僕が止めたのを無視して話し出した。
♦♦♦♦♦
「私の家は、とにかく広い。
私がドラゴンの姿に戻ったとしても、家の中の全ての部屋を回るのに丸一日かかってしまうほどだ。
住居だけで、それほどの広さを誇る我が家は、当然ながらその他の建物も大きい。
この巻物が保管してあった書庫は、この屋敷ほどの大きさはある。
そんな広い書庫から一つの巻物を探す苦労は、言うまでもない。
だが、私の苦悩はそれ以上だったのだ。
なんせ、私の探していた物は、"異なる世界から現れた異世界人が操る、魔法でも奇術でもない特殊な能力"についての書物なのだからな。
そんな馬鹿げた内容の書物は、我が家の書庫にもあるかどうかは分からない。
そんな存在すらも疑わしい物を探すのだ。私の並々ならぬ努力分かってくれるか?」
シュラノは、恩着せがましくそう言った。
確かに、僕の能力の為に色々としてくれたのは事実なのだろうけど、それを自慢げに話されたら、素直にありがとうと言う気が起きない。
ただ、やはりここは礼儀として、お礼を言うのが筋なのだろう。
「えっと、わざわざありがとう。
だけど、どうしてそんな面倒くさいことをしてくれたんだ?」
僕はお礼と共に、そう訊ねた。
まだ短い付き合いだけど、シュラノの性格からして、わざわざそんな事をしてくれるとは思えなかったからだ。
シュラノは、僕の問に即答した。
「そんなの決まっている。
浩介の能力を解き明かして、復讐に役立てるためだ。
まさか、忘れたわけではあるまいな?私が浩介の旅に同行している理由を。
ん?どうしたんだ浩介。そんなおもしろい顔をして。」
やっぱりだよ。
案の定だよ。
どうせこんな事だろうとは思ってたよ。
そりゃ、そうだよね。シュラノが僕の為にあくせく働くなんて考えられないことだ。
「そりゃ、面白い顔にもなるよ。
なんだよ!さんざん恩着せがましく言っておいて、結局僕を倒すために取ってきたんじゃないか。
何が、『並々ならぬ努力』だよ!何が、『私の苦悩』だよ!
全部自分の為じゃないか。
初めから、おかしいとは思ってたんだよ。
僕が能力の壁にぶつかったのは今日の事なのに、シュラノは昨日の内にその巻物を取ってきてた。
そんなの、ただの偶然にしては出来過ぎてるからね。」
僕は叫ぶだけ叫ぶと、両手を構えてシュラノを見た。
シュラノの真の目的を知った今、僕が取るべき行動は一つ。シュラノを笑わせることだ。
「おい、ちょっと待つんだ。私の話を聞け。」
僕が今にもくすぐろうとした時、シュラノが僕の手首を掴んでそう言った。
「僕の命を狙ってる奴の話なんか、聞きたくないね。」
「そこは、否定しないが……」
「否定しないのかよ!」
「だが、私はなにも今すぐ浩介と決着を付けようと言うのではない。
考えてもみろ、私が本気でお前を殺す気なら、その機会は幾らでもあったであろう。」
確かに、シュラノの言っていることには一理も二理もあった。
思えば、この世界に来てからずっと行動をともにしているのだ、本来なら僕の命は幾つあってもとても足りない。
「なら、なんで僕の能力について、知ろうとしたのさ。」
「理由は、さっきも言った通り復讐に役立てるためだ。だが、それだけではない。
私は気になるのだ。竜族のエリート中のエリートであるこの私が知らないお前の存在が。
お前は何処からやってきた?どうしてやってきた?何のために?誰の意志で?
お前の能力はなんだ?なんのために使う?誰にとって必要だ?
それが分からない。だから私は、浩介について調べたのだ。」
僕がここへ来た理由。僕自身は、もう考えることをやめてしまった事。
シュラノはそれが知りたかったのだ。
自分ですら分かりっこないと匙を投げた問題を、シュラノは解き明かそうとしているのだ。
それを聞いたとき、僕の全身から怒りがスッと抜けていくのが感じた。
「そうだったのか。
だけど、その調べた成果を教えてくれるのは何で?」
「その答も決まりきっている。
昨日約束したではないか、私は浩介の旅の役に立つと。
ドラゴンは、一度した約束は必ず守るのだ。」
「そうか、ありがとう。」
僕は、今度は心の底からありがとうと言った。
シュラノは、自信家で自分本位な所はあるけど、根は良い奴なのだ。
「そうと決まれば早く修行を始めようよ。
僕の役に立ってくれるんでしょ?」
「ああ、その通りだ。
だが……」
シュラノは快く頷いた後、気まずそうにこう言った。
「そのドレスはいい加減脱いだらどうだ?」
もうしばらく、浩介とシュラノのやりとりで物語が進んでいきます。