目が覚めたら、自分の部屋のベットだったという寝落ち展開!ではないから安心して
サブタイトル長いですね。
すいません。
閉じた瞼の裏がうっすらと白くなる。
朝日の柔らかな暖かみが全身に射し、目を開けと催促してくる。
寝起きの気だるさを感じながら、僕はその催促に従って目を開いた。
そして、思い出した。
僕は今、異世界に居るということを。
目を開いた僕は、首だけを動かして辺りを眺めた。
見上げれば、知らない天井があり、左を向けば窓から異世界の風景が飛び込んでくる。
そして、右を向けば、シュラノよアホ面が視界に入ってくる。
「夢じゃなかったのか……」
僕は、誰かに訊ねるようにそう言った。
だが、当然その問に返事は返ってこない。
仕方がないので、僕はゆっくりと起き上がり、ベッドから下りた。
すると、その足の動きにつられて、ドレスのスカートがヒラリと舞う。
「そっか、こっちも現実だったのか……」
朝っぱらから、テンションが下がってしまった。
僕は朝、低血圧なんだぞ、これ以上元気を無くさせてどうするつもりだ。
と、ぶつけようのない怒りを持ったまま、僕は食堂へ向かった。
元気を出す一番簡単な方法は、ご飯を食べることなのだ。
♦♦♦♦♦
シュラノがなかなか起きなかったので、僕とミミは、先に朝食を食べることにした。
ちなみに、ミミは僕が起きた頃には、既に家事に追われていた。
昨日から思っていたことだが、ミミは、とても働き者だ。
「そう言えば、昨日からミミとコーヒさん以外に誰とも出会ってないけど、他のお手伝いさん達は?」
僕は、例の甘いシロップのかかったパンをかじりながらミミに訊ねた。
これだけ広いお屋敷なのだ。お手伝いがミミ一人ということはないだろう。
そう思って訊ねたのだが、ミミの返答は予想外のものだった。
「その実は、今このお屋敷で働いているのは、私だけなんです。
ご主人様があの様なお姿になられた後、執事の方も家政婦の方も、庭師もヤヌ車の運転手も、コック長までもが、一斉にお止めになったのです。
皆さん、長年ご主人様にお仕えしていたのに、なんの躊躇いもなく……」
ミミは、そう言うと俯いて黙り込んでしまった。
僕は、そんなミミを見ながら、こんな質問をしたことを後悔した。
だって、折角の朝ご飯が不味くなってしまったから。
と、さっきより幾分味の落ちたパンをかじっていた僕の頭に、一つの疑問が浮かんだ。
「そうだったのか。
だけど、それじゃあなんで、昨日外出していたんだ?
なんな状態のコーヒさんを一人にして何処に行ってたんだよ。」
感情も年齢も無くなってしまった、あの幼女を一人にしてまで、ミミが外出しなければいけない用事とはなんなのだ。
もっと早く疑問に思うべきだったんだろうが、そう言った事に鈍い僕は、今になってようやく疑問を持った。
「私が昨日出かけていたのは、ある植物を採るためだったんです。」
「植物?」
言われてみれば、確かにミミは昨日、バスケットに花を入れて持っていた。だけど、
「どうして、植物なんか採りに行ったんだ?」
花を摘みに行くのが、それほど重要だとは、僕には思えない。
「ただの植物ではないんですけど……。
そうだ、もしよろしければ浩介さんも手伝って頂けませんか?
昨日私のしたお願いにも関係があることですし。」
ミミは気を取り直したのか、にっこりと笑った。
♦♦♦♦♦
朝食を食べ終わり、歯磨きと洗顔を終えた僕は、ミミと共にコーヒの部屋へ向かった。
もちろん、シュラノは放置して。
ミミは、コーヒの部屋へ行く途中に自分の部屋へ荷物を取りに行くと言って、僕と別れた。
僕は、荷物運びを申し出たが、ミミに丁重に断られた。
ここは異世界とは言え、ミミは年頃の女の子。同年代の僕には、部屋を見られたくないのだろう。
ちょっと寂しい気分になりながら、僕は一人でコーヒの部屋へ向かった。
昨日の記憶を頼りに、迷路のようなお屋敷を進と、直ぐにその扉を見つけることが出来た。
扉に手を掛けて、僕は一瞬ミミを待とうかと考えたが、廊下で待つのもなんだか変な気がしたので、先に部屋に入ることにした。
コンコンッ
「失礼しま~す。」
返事がないのは分かっていても、一応女性(見た目幼女で中身は老女)の部屋に入るのだ。それくらいの礼儀は必要だろう。
僕はゆっくりと扉を開けて部屋の中に入った。
部屋の中には、昨日と全く同じ姿勢でロッキングチェアに幼女が座っていた。
顔はこちらを向いているのだが、そこに表情と言うべきものは全く無い。
本当に、人形のようだ。
「え~っと、ノンシュガー・コーヒさんですよね。
初めまして、僕は香坂浩介と言います。
あ、初めましてじゃないですね、昨日会ってますから。」
と、一応挨拶をしてみたが、なんの反応もない。
本当に人間か?もしかして人形なんじゃないのか?とも思ったが、定期的に瞬きをするのでやはり人間のようだ。
僕は少し、コーヒに近づいてみた。
やはり反応はない。
どうやら、感情を奪い取られたというシュラノの読みは当たっているようだ。
そして、ミミもその事に気付いているのだろう。
コーヒから感情が消えたと分かっているからこそ、僕のくすぐり能力でコーヒを笑わせて欲しいと頼んできたのだ。
「出来るのか?この僕に。」
僕は自分の両手を目の前まで持ち上げ、コーヒと手を交互に見た。
そして、部屋の扉を振り返り、ミミがまだ来ていないこと確認する。
そして、僕はふぅと一つ息を吐くと、コーヒに狙いを付けて、指を動かした。
こちょこちょ
━━しかし、コーヒは笑わなかった。
読了ありがとうごさいます。
さて、浩介がコーヒをくすぐったにも関わらず、コーヒは笑いません。
これは一体どういうことなんだ?!!
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