最初の晩餐
あまりに衝撃的な、ミミとコーヒの話を聞いた僕は、正直困惑していた。
ほんの軽い気持ちで受けたお願いが、まさかこんなにもヘビー級だったとは……。予想だにもしていなかった。
そんな、予想以上のお願いを聞いた僕は、ミミに少し考えさせてほしいと頼んだ。
ミミは僕の気持ちを察してくれたようで、僕とシュラノを客室に案内してくれた。
♦♦♦♦♦
「呪いだな。」
客室からミミが出て行くやいなや、シュラノが唐突にそう言った。
「はぁ?何だよ藪から棒に。」
そう言えば、シュラノはミミが話した後から、人が変わったように喋らなくなっていたな。
「まぁ、浩介はこの世界の人間でないから分からないだろうな。
私ほど魔法が堪能なエリートなら一発で見抜くことができるのだがな。」
と、シュラノは思わせぶりなことを言う。
「だからなんなんだよ。言いたいことがあるんならハッキリ言ったらどうだ。」
僕はイライラしながら、シュラノにそう訊ねた。
僕は、ミミのご主人様ことノンシュガー・コーヒさんの事で頭が一杯なんだ。
シュラノの自慢話につき合っている暇なんか無い。
「そんなにイライラするな浩介よ。
私が言っているのは、あのコーヒとか言うガキの話だ。
あれが姿を変えられたというのは、まぁ十中八九魔法の"呪い"によるものだろうな。」
シュラノは、何時もの武勇伝を語る表情とは打って変わって、真剣な顔でそう言った。
「呪い?魔法?
魔法ってことは、さっきシュラノが姿を変えたみたいな奴?
つまり、あのコーヒさんも、お婆さんの姿からあの子供の姿に変えられたってこと?」
「いや、私が使ったのは幻覚に近いものだからな。アレとは別物だ。」
何故だろう、シュラノの口調から、今まで感じたことのない自信がある。
「別物ってことは、あれの正体が分かったの?」
「分かった。と、言うほどではないのだが。まぁ大体の予測はついている。
あれは、相手のある物を奪う、封印系の呪いだろうな。」
「封印?」
「ああ、敵の力や能力を奪い、己の力とするのが本来の用途なのだが、私が見た限りあの子供は年齢と感情を奪われているようだな。
まぁ、それだけとも限らないのだが、あの娘の話から察するに、その二つは確実に奪われているだろうな。」
「それじゃあ、ミミが聞いたあの声の主がコーヒさんに魔法をかけたってこと?」
「それは分からんが、状況から考えたらその可能性が高そうだな。ただ━━」
これまで流暢に話していたシュラノが、急に口を閉じた。
どうしたんだ?と思っていたら僕の背後から声が聞こえた。
「お邪魔します。夕飯の用意が整いましたので、お二人とも食堂の方へ……どうかいたしましたか?」
扉を開けて顔を出したミミが顔を伏せたシュラノを見て首を傾げた。
♦♦♦♦♦
ノンシュガー家の食堂は、その他の施設同様豪華な作りだった。
広々とした食堂には、10mはあろうかという長いテーブルが置かれ、その上には銀の燭台と銀の食器が綺麗に並べられている。
しかし、それだけ広い食堂において、料理の乗った皿は、たったの三つだけだった。
「ご主人様は、ご自分のお部屋からお出にならないので、後ほど私がお部屋までお届けします。」
ミミは、そう言いながら僕らにパンを配ってくれた。
こちらの世界の食べ物は、僕の世界の物と同じなのだろうか?
と、思っていた矢先、僕の目の前の皿に明らかにネズミの姿をした丸焦げの物体が置かれた。
「うほぉ、これはマウーではないか。
なんだ、屋敷はそれほどではないのに食材には気を使っているのだな。」
シュラノはそのネズミを見て嬉しそうにそう言うと、フォークを突き刺し豪快にかぶりついた。
その姿からは、先ほどの真剣さは感じ取れない。
あの時言おうとしていたことも、結局分からなかった。どうせ、シュラノの気まぐれか何かだろうけど。
僕は、そう結論づけて夕食を食べることにした。もちろん、マウーとかいうネズミは避けて、パンをかじった。
甘いシロップのかかったそのパンは、おいしかった。確かに、シュラノの言う通り食材は良いものを使っているようだ。
♦♦♦♦♦
三人だけの寂しい晩餐を終えた後、シュラノは腹ごなしと言って屋敷の庭に出て行った。
ミミは、さっき言っていた通り、コーヒさんに夕食を届けに行ってしまった。
そして、一人手持ち無沙汰な僕は、お風呂に入ることにした。
ミミにタオルと着替えを貸してもらい、広いお屋敷の中を迷い歩いた僕は、どうにかお風呂を発見した。
制服を素早く脱ぎ捨て、丸めて籠に放り込むと、僕は前も隠さずお風呂に直行した。
ノンシュガー家の浴場は、露天風呂だった。
僕はなみなみと溢れかえる湯船を見つけると、文字通り飛び込んだ。
「くはぁ~~極楽極楽。」
自然に口をついたその言葉に、僕は少し寂しさを覚えた。
僕が家に帰れるのは、一体何時になるのだろうか。
今回、幼少は一旦保留に致しました。
次話からまた登場すると思われます。
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