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純粋そうな家政婦が僕にお願いをしてきたら

 縄で縛った山賊達を王族警護隊なる組織に受け渡した後、僕、シュラノ、ミミの3人は、ミミの勤め先であるノンシュガー家のお屋敷へ来ていた。

 山賊に襲われたあの森から、ヤヌ車で約1時間の位置にそのお屋敷はあった。


「うわっ、でけ。」


 それが、僕がノンシュガー家を見た第一印象だった。


「この程度の屋敷で驚いているとは、やはり浩介は庶民だな。

 私の家などこの屋敷の数倍は……」


 シュラノが横で何やら言っているが、そんなのは耳に入らないくらい僕は驚いていた。

 なんだよこれ、本当に家なのか?

 東京ドーム3個分もとい、甲子園3個分はあるんじゃないのか?

 僕達は今、ノンシュガー家のお屋敷の門の前に居るのだけど、そこからでは屋敷の全体像を把握することが出来ない。

 真っ白な石の壁に囲まれ、門はいかにも重厚そうな鉄の扉、チラッと見える庭には大きな噴水や薔薇園が見える。

 まさに、豪邸だった。


「ミミ、君って凄いところで働いてるんだね。」


 門を開いて中へ進むミミについて行きながら、僕は当たりをキョロキョロと見回した。

 やはり、外から見たとおりこの屋敷はとてつもなく広かった。

 門を入ってすぐに広大な庭が目に飛び込んできた。

 お屋敷の庭は、ほぼ全面に芝が植えられていて、門から屋敷へと続く道(家の中に道があるって……)には、綺麗にレンガが敷き詰められていた。

 レンガの道の左右には先ほど見た噴水や薔薇園などがお行儀よく鎮座している。

 そして、僕らが歩く道の正面にはホテルのような豪邸が堂々と建っていた。


「実は私孤児だったんです。

 赤ちゃんの頃に親に捨てられて……だけどここのご主人様が私を拾って下さったんです。

 それから私はここへ置いて頂いているんです。

 こんな私を置いて頂き、そのうえ仕事まで与えて下さって、ご主人様は本当にいいお方です。」


 ミミは嬉しそうにそう言った。よっぽどそのご主人様と言う人のことが好きなのだろう。"ご主人様"と言う声だけ、ほかの時と明らかに声の明るさが違っていた。


「でも」


 ミミは急に暗くなった声でそう言った。


「そのご主人様が、笑わなくなってしまったのです。」


 とても苦々しい、一種の後悔の念を含んだ声でミミはそう言った。

 この、笑わなくなったご主人様こそ、ミミの僕に対するお願いの正体だった。

 話は、一時間前に遡る。


♦♦♦♦♦


「お願いというのは、私のご主人様を笑わせて頂きたいということなんです。」


 再び動き出したヤヌ車の荷車の上で、ミミは、並んで座る僕とシュラノにそう言った。


「まあ、確かに笑わせる事は出来るけど……。なんで?」


 僕のミミのお願いに、そんな疑問を持った。

 山賊の一件を見て、ミミが僕のことを"相手を笑わせる奇術師"と認識しているであろう事は容易に推測できる。

 だが、それが何故ご主人様を笑わせると言うお願いに繋がるのかが分からなかった。


「そりゃ浩介、決まっているではないか。

 自らが仕える主人には、何時も笑顔でいて欲しいと言うのは、当然の事ではないか。」


 僕はミミに聞いたはずだったが、何故かシュラノが答えた。

 しかも、その考え方は的を得ていない。いや、根本的に狙っている的が違っていた。

 なぜなら、


「僕は、笑わせることは出来るけど、それによって相手を楽しませることはできないんだ。

 さっきの山賊をみたでしょ?僕の力を使うと相手にはかなりの苦しみが襲うんだ。

 それでも、ご主人様を笑わせと?」


 僕がミミにそう聞き返すと、シュラノが納得したように頷いた。

 僕の能力の数少ない体験者であるシュラノは、あの湖でのことを思い出しているのだろう。

 そう、笑うと言うことは必ずしも良いことではない。

 だってほら、人って笑うと涙が出るじゃん。涙が出るのは悲しいってことじゃないか。

 まぁ、それはさておき、あの山賊達の姿を見たミミなら、それと同じ苦しみをご主人様に与えようとは思わないだろうと、僕は思った。

 だけど、僕の予想に反してミミの答えは、


「それでもいいんです。

 どうしても、浩介さんにご主人様を笑わせて頂きたいんです。」


 だった。

 そう答えたミミの目はあまりに真剣で、冗談や興味本位といった様子はない。


「ミミ、もしかして君は、そのご主人様に恨みでも持っているの?

 もし僕の力を使って悪戯いたずらしようとしているのなら、僕はそのお願いを聞けないな。」


 ミミはそんな事を考えていないと分かっていながら、僕はあえてそう訊ねた。

 僕はこの能力を、悪巧みや悪ふざけで使おうとは思っていなかったからだ。

 そして、予想通り、ミミは首を横に振った。


「その心配はありません。

 私はご主人様に感謝こそすれ、恨むようなことはありませんから。

 それに、私がお願いしていることは悪戯などではありません。

 むしろ逆なんです。私は浩介さんにご主人様を救っていただきたいのです。」


 ミミは、再度真剣な目でそう言った。


♦♦♦♦♦


 今、僕らはノンシュガー家の庭を歩いている。

 門から玄関までそれなりの距離がある庭を歩きながら、ミミが詳しい事情を話してくれた。










ここから少し導入部になります。

もうしばらく我慢をお願いします。

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