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トラックにひかれるなんて、僕もベタな死に方をしたものだ

 トラックがけたたましいクラクションを鳴らしながら近づいてくる。

 力一杯ブレーキを踏んでいるからだろう、クラクションの合間から黒板を引っかいたような耳障りな音が聞こえる。

 僕は、横断歩道の真ん中に立ってその様子を驚くほど冷静に見ていた。

 あたり一面、リモコンのスロー再生が押されたかのようにゆっくりと動いている。

 通勤中のメガネをかけた細身のサラリーマン。ブルドックとその顔にそっくりな飼い主。僕と同じ格好をした高校生。

 それら皆が僕を見ていて、一様に「危ない」と叫んでいる。

 いや、危ないのくらい分かってるから。それくらいあんたらに言われなくても分かってるから。

 僕は内心でそう毒づきながら、自分の足元を見た。

 そこには、僕の腰にすら及ばないほど小さな、男の子が立っていた。

 僕はその子を強引に抱え上げると、少し乱暴に道端へと放り投げた。

 これくらい大目に見ろよ。心の中でその男の子に呟く。

 トラックにひかれることを考えたら、転んで膝をすりむく程度なんの問題もないだろう。

 僕が、男の子を放り投げて1秒も経たない内に、トラックは横断歩道を通過した。


 月曜日の朝7時半、僕は10トンを超える大型トラックにはね飛ばされた。


♦♦♦♦♦


「いってぇ……」


 頭全体を襲う頭痛に顔をしかめながら、僕は目を開いた。

 木漏れ日が光に馴れていない瞳に入り、眩しい。

 ……ん?なんで木漏れ日?

 僕は確か、道の真ん中でトラックにひかれたはずだ。

 もしかして、あまりの衝撃で街路樹の所までとばされたのだろうか?

 そう思い、首を傾けた僕の目に信じられない光景が飛び込んできた。

 僕の居た場所、そこは鬱蒼と木々の茂る森だった。

 僕は体を起こし、目を閉じて大きく伸びをしてから、もう一度目を開けた。

 やっぱり森だった。

 僕はゆっくりと立ち上がり、目を閉じて軽いストレッチをし、どこかの力士のように顔をビシビシと三回叩いて、再度目を開けた。

 何度見ても森だった。

 ………。


「ええぇ~~~~~~~~~!!」


 なんだ、なにが起こった。

 どこだここ?なんで僕は、こんなとこに居るんだ?

 あれか、天国とか言う奴か?でも、それにしては殺風景な場所だ。

 それじゃあ地獄?だけど、それにしてはのどかな場所だ。

 それじゃあ、中国か!僕みたいな普通の人は、死んだら中国に行くってこの前テレビで言っていた。しかし、それにしては空気が澄んでいる。

 ……だめだ、混乱しすぎて正常な思考がとれていない。


 深呼吸


 一度落ち着いて、僕は改めて辺りを見回した。

 さっき、辺り一面に木々が茂っていると言ったが、あれは間違いだった。

 鬱蒼と茂る木の中に一本、明らかに他の地面よりも舗装された道があった。舗装されたと言っても、地面の凹凸がほかの場所よりも少ないと言うだけなのだが。

 僕が寝ていたここは、ちょっとした広場になっている。

 辺りに一本しか道がないことから、ここがその道の終着地なのだろう。

 そうやって、ざっと辺りを見回した後、僕は自分の状態を確かめた。

 まず一目で分かったことは、服に傷一つ付いていなかったこと。ちなみに、今僕が着ている服は、トラックにひかれた時と同じく学校指定のブレザーだ。

 今普通に立てているのと、頭以外に痛みがないのことで怪我をしていないことが分かる。

 つまり、僕の体には目立った外傷がなかったのだ。

 と言うことは、僕はあのトラックにぶつかる瞬間かぶつかる前に、ここへ飛ばされてきたことになる。

 ……ますます混乱してきた。

 そこで僕は、その辺に落ちていた木の枝で、地面に今の状況から考え出される仮説を書き出してみることにした。


①僕はトラックにひかれて、天国(もしくは地獄、可能性は無さそうだけど中国)にやってきた。

②トラックにひかれる瞬間に、僕の中の特殊能力が目覚めて瞬間移動した。ここは日本の山のどこか。

③これは全部夢。


 う~ん、イマイチぱっとしない。

 一番可能性がありそうなのは③だ。だけど、ここが夢だとするとさっきから続く頭痛が説明できない。

 僕的に一番喜ばしいのは②だ。別に中二病を再発させるつもりはないが、特殊能力というのは魅力的だ。それに、ここが日本なら直ぐに帰ることが出来る。

 もし①だったら最悪だ。もしここが天国なら僕の享年は16歳になってしまう。そんなのはイヤだ。

 まだ女の子と付き合ったことがないし、キスもしたことがない。それに、その、夜の営みというものも体験したことがない。

 そんな惨めな人生はイヤだ。

 でも、何時までもここでうじうじしていても始まらない。

 とにかく、今は行動を起こすべきだ。

 とりあえず、目の前にある道を進むことにする。

 道があると言うことは、人が居るはずだ。このまま一人で居るのは心細い。

 まずは、ここがどこなのか確かめる。そして家へ帰る方法を見つける。

 それが僕の目標になった。


♦♦♦♦♦


 道を歩き始めて20分ほど経っただろうか?少し歩くのに疲れた頃、僕の目の前に大きな湖が現れた。

 東京ドームで換算するとどれくらいだろうか?5、6個は余裕で入りそうだ。

 これは、全然関係の無い話なんだけど、僕は何でもかんでも東京ドーム○個分と表現するのが嫌いだ。

 東京ドームは別に物差しとして造られたわけじゃない。それなのに、ちょっと広い場所を説明するときは、世界共通単位ででもあるかのように、安易に東京ドーム○個分を使うのはあまりよく思わない。

 そこで僕は、新たな基準を作ろうと思う。

 その湖は、甲子園約6個分の広さがあった。

 だめだ、思考が混乱している。僕は、一旦頭をすっきりさせるため顔を洗った。


 バシャッ、バシャッ


 程よく冷たい水が肌に当たって気持ちいい。

 この湖の水は、とても澄んでいて青臭い臭いが全くしない。

 僕は水を両手で作ったコップに汲み、そっと口を付け一口飲み込んだ。


「美味しい。」


 その水のあまりの美味しさに、思わずそう漏らしてしまった。

 いや、しかし本当に美味しい。

 水に美味い不味いがあるなんて知らなかった。水=無味無臭だと思っていた僕は、この湖の水に感動してしまった。

 数秒その美味しさの余韻を楽しんだ後、僕はもう一杯飲もうと湖に両手をつけた。

 するとその時、さっきまで波一つ立っていなかった湖が急に揺れ出した。大きな石が投げ込まれたかのように、規則正しく並んだ波が手首にあたる。

 慌てて顔を上げた僕の目に、衝撃的な光景が飛び込んできた。

 なんと、翼の生えた巨大な生物が湖の水面上ギリギリを飛んでいたのだ。


「な、な、なんだよ、あれは!」


 僕は、その生物を目に捉えるとすぐさま立ち上がった。

 僕が見たもの、それはどう見てもドラゴンだった。










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