静止世界のNPC
初めて小説を書きました
至らぬ点がございましたら、汚物を見るような目でご指摘ください
ネーミングセンスが死滅しているので、どこかで見たような固有名詞があるかもしれませんが、全くの別物です
人類が仮想世界に手を伸ばして、既に半年あまりが過ぎた。
NextWorldOn-LineというVR-MMORPGがテストプレイを終え、一般公開された。
このゲームはNPCのAI開発を目的としている。
プレイヤーの行動心理アルゴリズムを収集し、NPCに反映させている。
つまり、プレイヤーが世界の一員であり、オリジナルとなる神なのだ。
しかし、それは人間の魂を造ること。倫理的、宗教的問題は多い。
だが、それらの問題を彼らは無視した。
これは、報いだったのかもしれない。
その2年後、ログアウト不可、デスゲームと化したNexrWorldOn-Lineからプレイヤー達は解放された。
2年の間、絶えず進化し続けたAIはもはやプレイヤー達と区別がつかなかった。
それどころか、プレイヤーに自ら干渉すらしていた。
一部のプレイヤーは“人間になった”彼、もしくは彼女らに恋をした。
解放される前に、彼らは“思い人”に口々に言った。
「俺 (私)と一緒に別の世界に行きませんか?」
「俺 (私)と一緒に生きてくれますか?」と。
現実に肉体を持たない彼らに“現実”を生きる資格はない。
「私 (俺)はこの世界が好きだから・・・」
そう言って消え去ると言われた世界に残り続けた。
「この世界で待ってる」
別れ際にそう言い残して。
その僅か1年後。プログラムを修復したNextWorldOn-Line、LostWorldOn-Lineが公開された。
プレイヤーの回収後、バックアップ領域で稼働させながら修復したのだ。
その1年の間、その世界のNPC群は活動を停止、情報が固定化された。
伴侶を残したプレイヤー達は、喜んで復旧作業に参加した結果、この早さが実現した。
“世界”を行き来できるようになった彼らは変わらぬ姿、魂を持った住人との再会に涙した。
だが、彼らはある異変に気付いた。
『“森にすむ賢者”の様子がおかしい。』
その姿は子供の様に小さいが、グラマラスな体型をした女性で、ツンクール。
一部のプレイヤーから絶大な人気を誇った彼女だったが、どうやら廃人のように感情が消えてしまっているらしい。
第一発見者によると、
暴れたかのように家具が散乱していたが、どれも傷一つなかった。
それだけなら、「彼女がツンデレだった、これでかつる。流石賢者様、これ程暴れても傷一つないとは立派な家具をお持ちだ。」と言って、話の一つにされる程度だ。
だが、現実は非情である。
部屋の中央で椅子に座り、虚ろな目で扉を見ていた。
俺が部屋に入るなり、涙を流し、それ以降何のアクションも見せない。
その姿は美しくもどこか冒涜的であり、名状しがたい感情がふつふつと・・・ (以下省略)
その後、報告をした男は仲間に取り押さえられ、市中引き回しにされたという。
報告をしたことと、未遂であったため、刑は少し軽くなったらしい。
その後の調べによると、彼女はプレイヤーだったらしい。
個人情報なので詳しいことは公表されていないが、ゲームプレイ中に現実の肉体が突然死し、精神だけの状態でこの世界に留まっていた。
賢者と呼ばれてはいたが、その齢は十八。彼女はその奇跡に縋り、生き延びていた。
彼女もまた、NPCと同じ“人”だった。
プレイヤーとしてのゲームを止め、NPCのように家を建て、そこに住んだ。
他の人に気味悪がられないよう、悟られないよう、心を殺して振る舞った。
それでもなお、NPCにはなれなかった。
情報が固定化されたため、死ぬに死ねず。飢えもなく。老いもなく。
全てが停止したこの世界で、彼女は1年もの間、目に見えず、存在すらしない敵と闘い続けた。
荒れ果てた部屋で日記帳数冊が見つかった。
そのうちの1冊には彼女の第二の人生が綴られていた。
一日見開きで1ページ。写真と今日のできごと。
最後の日。死んでから初めて町に出て、仲良くしていたプレイヤーとの別れのあいさつを交わし、森の中の我が家に戻る。その経緯が、寂しさと悲しさと、最後まで秘密を話さなかった後悔と一緒に記されていた。
それ以降のページや他の日記帳には何も書かれていなかったが、他のページに滲み出るほど濡れていた。
それらの中で、唯一開かれていた日記の右ページには滲んだ水が文字をかたどっていた。
『ごめんね』
彼女は何に謝っていたのだろうか。