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笑の壺
わたしがまだ十代の終りごろ、母はよく布団の綿の入れ替えをしていた。
打ち替えをした新しい綿を布団生地の上にのせて、四隅をきちんと整えて、糸で固定しひっくり返す。
その作業のときいつもわたしは手伝わされた。
そのとき、きっとわたしの仕草がのろまで腹が立ったのだろうと思うが、普段怒ったことのない母が「そこを○○して!」と怖い顔をして命令する。もたもたしていると、極度の怒りの顔になり、爆発しそうになる寸前に、それが笑いへと変わるのだ。
随分古い話なので詳しいことは覚えていないのだが、何度か手伝わされる度に、母は怒りながら指導し、その怒りはいつも腹がぐつぐつ煮えるような押し殺した笑いとなって終わった。
母は怒りながら笑っていたのだ。
きっと母の脳の中で、怒りが笑いと合流する壺があったに違いない。
記憶の中の一番最後に布団をやり替えていたとき、母は言った。
――布団を作るときいつもこうなるね!
母も布団を作る手伝いをわたしにさせていて、腹が立ち、自分の意思に関係なく脳が笑いへと変わるのが不思議だったのだろう。




