第一話
深夜のアメリカ合衆国のある都市では、ひっそりと町が静まり返っていた。深夜といってもテレビを見たり、ネットに興じたりする姿が見えるものだが明かりは家々にひとつもついていない。
そしてその月夜の中をぶこつきわまりない車両がひっそりと走り去っていく。アメリカ軍のM2ブラッドレー歩兵戦闘車である。
歩兵戦闘車とは、軍用の輸送を前提として開発された装甲兵員輸送車は輸送のみで戦闘を前提にしていないが、輸送機能とともに戦闘への参加を前提にした装甲車両のことである。
M2ブラッドレーは1981年に登場したため決して新しい車両とは言えないが、それでも改装され派生を生み出しながら現在でも第一線に活躍している優秀な車両で、武装には25㎜機関砲や対戦車ミサイルのTOW対戦車ミサイルといったものがあり強力だ。
ブラッドレーの内部には、軍服らしきものに身を包んだ男たちが緊張に晒されながらM16アサルトライフルや手榴弾、サバイバルナイフといった装備を身に着けながら待機していた。
しかし、装備はアメリカ軍のもので白人や黒人といったいかにもなアメリカ軍を構成していそうな人種がいるがアメリカ軍ではなさそうだ。
まとっている軍服のデザインが、アメリカ軍で正式採用されているものではない。彼らは一応アメリカ国内で軍事行動を行う許可をとってこそいるが、アメリカ軍とは完全にとはいえないが独立した組織だ。
彼らはアメリカ軍ではない、悪名高い活動を裏で行っていると言われるCIAの破壊工作部隊などでもない。
彼らの相手は人間ではない。人間を超えた伝説の化物が彼らの狩り(ハント)の目的だ。
彼らの目的地であるアパートは、一言で言えばボロだ。これで建物かと言えるほど崩壊していないのが不思議なもので、コンクリートはボロボロに裂け剥き出しになっている。
塗装も完全に剥げ落ち汚い色あいとなり、ゲロ臭い異臭もしている。
人の住処かと疑いたくなるが、貧民街であるここではこれでも上等な方だ。最もこの場合、避難させる住民がほとんどいないのでプラスの点と言える。
ブラドッレーによって行軍してくる彼らの到着を待つ間にもサブマシンガンやアサルトライフルで武装した兵士が赤外線スコープといった暗視装置を身に付け周囲をうかがいM1ストライカー装甲車が臨戦態勢を整えている。
上空には、なんとヘリまでいた。アメリカ軍の誇る最新鋭のヘリコプターAH-64アパッチの回収型のロングボウアパッチだ。アパッチという戦闘ヘリは従来の戦闘ヘリはミサイルを発射するのに滞空しなければならないという欠点を持っている。これはレーザーをミサイルを発射するために常に照射しなければならないと規模こそ違えレーザーポインターの役割をはたさなければいけないからだ。
アパッチはレーダーを搭載することでその欠点をなくし、ロングボウアパッチはよりレーダーの性能強化と火力強化を図った機体だ。この期待は隠密性を強化するためにローターを新型の静粛ローターに変えており、音は全くしない。
これだけの兵力が集中していれば騒ぎになりそうなものだが、騒ぎは起こりそうもない。マスコミもやじうまが詰めかけてくる様子は微塵も見受けられない。
このアパートを除き、貧民街も含めてこの辺り一帯には有毒化学物質が漏れ出したという偽情報で避難させられていた。
このアパートのどこにそんな兵力を集中させる必要があるのだと誰もが思うが、現実にそれだけの兵力を必要とする相手なのだ。
M2ブレッドレーからは黙々と兵士たちが降りてくる。少しでも異常があれば発砲しそうな殺気を纏っている。歴戦の兵士で構成され、今まで前線で生き残ってきた彼らでさえ発狂しそうな恐怖を感じないわけではない。事実何名かは精神病院送りになったり、PTSDで強制的に辞めさせられたほどだ。
M2ブラッドレーには7名が乗車可能であり、六台あるため42名の兵力ということになる。少ない数だが、物量ではなく質で勝負ということだ。
全員が降りたことを確認したその小隊の指揮官が突入指示を下そうとしたとき、「状況はどうだ、少尉。」そう後ろから唐突に声をかけられた。
慌てて後ろを振り向き、咄嗟にM-16アサルトライフルを構えるが相手を見ると銃を下げた。人間は、生きている限り常に気配を発する。それは大抵の人間は隠せないものだ、それを隠せるのは極一部の例外と
あの化物だけ―
あの化物と勘違いするほど気配隠蔽能力が優れているだけで、相手は人間だ。それもこの組織に属するものは誰もが知っている。
後ろにいたのは、一人の男だ。年は二十代中頃ほどで白人。顔は氷のような冷たい印象を与え、全身から他人と仲良くする気などないのではないかという冷厳さを発している。
青い瞳は、まるで人間ではなく物を見ているかのように小隊長を捉えている。
組織の中でチームごとの行動をするのではなく、単独行動と驚く程の自由裁量権を与えられ組織の構造場上位に位置するものに対して命令を下せる権限を持つ特Aクラスと呼ばれる存在だ。
名前は、ウィルアム・カーソンだが本名かは定かではない。
「あなたがここに居るとは、驚きです。ここにいるやつは、大した価値があるやつではないというのに。」
「フン、奴らに大した価値がないだど。そんな考えだと足元を救われるぞ、奴らを相手にするときは一瞬の油断が死を招く。前のミッションを終えて基地に戻ってからここでのミッションを聞いてやってきただけだ。手出しする気はよっぽどのことがない限りない。」
「そうですか、できるなら特Aクラスの能力を発揮して欲しいんですが。そうすればこちらは楽に住みますし、損害もまずない。それはとにかく突入チームを7名ごとに部屋に突入するのと階段で待機する三つのチームに分けなかに突入しやつを仕留めます。このクラスなら我々だけで十分ですよ。」
「ならばいい、さてと狩りを始まるか。吸血鬼狩り(ヴァンパイアハント)をな。」
そう言いながら彼は、笑をうかべる。彼が吸血鬼ではないかと思える憎しみを宿したドス黒い笑いを。